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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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桜涙 【鏡花水月】

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 2周年記念SS第1弾・『桜涙 竜城×朱里』です。

 こちらはフリー配布と致しますので、お気に召した方はどうぞお持ち帰り下さい。
 ですが、著作権は放棄しておりませんので、転載される場合にはこのブログのSSである事を明記して頂ければと思います。

 特に報告の必要はありませんが、一言頂けると喜びます(笑)

 では、続きからどうぞ。


 お祭は人の気分を高揚させる。そんな場所に朱里が来たのは、昨日電話で竜城に誘われたからだった。

『明日、近所の神社の例大祭に行かないか?』
「え……?」
『神輿は昔、担いだりしたけどさ。巫女舞とか見たことないだろ? お前』

 幼い頃、子供用の神輿を担いで、町内を歩いた事を思い出す。あれは、そう、藍里の能力が暴走する、少し前の事だった。
 そして、町内を練り歩いたその後は疲れきって、朱里が夕方から夜にかけて行われるたくさんの奉納演芸を見たことはない。
 ただ、夜に出歩くなんて今までしたことがなかったから、少し戸惑う。

『朱里? 嫌か?』
「ううん。行ってみたい……けど、あの、藍里、は……?」
『……朱里が行くっつったら絶対くっついて来るよ、藍里は。じゃ、明日4時に俺ん家な』

 何だか嬉しそうな竜城との電話を終え、明日出掛けることを階下にいる家族に話しに行くと、父も母も「行っておいで」と柔らかく笑い、藍里は竜城が言った通り、「朱里ちゃんが行くなら私も行く!」と告げたのだった。
 ちなみにその藍里は、神社に着いた途端に中学の時の後輩に捕まってしまい、一緒に店番をする羽目になった。本当なら竜城もそうなる予定だったのだが、彼は朱里を案内する事を口実に、その場から急いで離れたのだ。

「あ……懐かしい」

 子供の頃大好きだった、アニメのキャラクターのお面を見つけて、顔が綻ぶ。

「買うか?」
「今はさすがに欲しがらないわよ……」

 だよな、とからかうような声に気づいて、冗談だったのだと解る。

「それよか、人混み……大丈夫か?」
「え?」
「……能力ちから

 心配そうに朱里を見て、ぽつりと呟く。朱里の知る限り、竜城が朱里の能力を心配したことは、今までなかった。

「触れなければいいって、前言ってたけどさ……」
「────ありがとう、竜城」

 ふわり、と笑うと竜城の心配そうだった表情が掻き消える。

「大丈夫、鍵かけてるから。ぶつかったとしても、よっぽどじゃなければ聞こえないわ」

 能力の制御は難しいけれど、最近は以前よりも鍵をかけるのが容易くなった。能力の限界が来たのか、もしくは……心に余裕が生まれたせいか。それは朱里にも解らないけれど。

「……そっか。なら良かった」

 言葉と同時に、竜城の左手が朱里の右手を……指先を、包み込んだ。

「……っ、竜城?」
「はぐれそうだから、な。お、金魚掬い。やるか? 昔もやったよな」
「これ、藍里が得意だったわよね」
「一人で5匹とか6匹とか取ってたな」
「それで、全然取れなかった竜城が拗ねて」
「何でそんなこと覚えてんだよ……。見てろよ、今は取れるからなっ」

 子供のように拗ねる竜城が金を払い、ポイを持ってしゃがみ込む。朱里はスカートの裾に気をつけながらその横に座り、竜城の行動を見守っていた。結果、竜城がとったのは小さな金魚三匹で、かつての藍里の記録を抜かせなかった事が結構悔しかったらしい。僅かに拗ねた横顔が微笑ましかった。
 ちなみにとった金魚は、一匹も掬えずに泣いていた、小さな子供に進呈された。

 離れていた手は再び繋がれ、くじ引きや時折おやつと称して竜城がお好み焼きやたこ焼きを買う。
 ゆっくりと歩きながらたくさんの露店を回り、暫く経った頃に、「そろそろかな」と竜城が呟いた。

「何?」
「神輿が帰ってくるよ」

 龍笛だろうか、和楽器の音がだんだん大きくなって。

「ほら、あれが俺達が昔担いだ子供神輿」
「あんなに小さかった……?」
「今だからそう思うんだろ」

 和楽器を演奏しながら、歩いて来るたくさんの人達。正装で馬の上にいるのは神主だろうか。

「……思い出した。昔、あの笛を吹きたがっていたのよね、藍里」
「そうそう。んで、俺は太鼓に目が行っててさ」
「お神輿のバランスが崩れて、一緒に担いでた子達に怒られて」
「そ。……お前も覚えてたんだな」

 三人で過ごしていた頃の、数少ない共有している想い出だ。

 やって来た神輿は鳥居の前で立ち止まり、屋根の上の鳳凰を真っ正面に据えた。何度か鳥居に突撃しては離れを繰り返し、やっと鳥居をくぐっていった。

 やがて日は暮れて、夜が訪れる。巫女装束の女性が2人、片手には鈴を、片手には扇子を持ち、しずしずと神殿内を進んでいく。
 巫女達がご神体に向かって正座と一礼、そして……太鼓の音が合図となり、巫女舞が始まった。
 笛の音と、太鼓と、おそらく神主が歌っているであろう声に合わせ、ゆっくりと動いていく。忙しく動くよりも、ゆっくりと動く方が実は体力を使う。同時に筋力も使うし、その上で姿勢を保たなければならないのだから、彼女達は相当練習したのだろう。
 しゃらん、と鈴の音が響く。髪飾りも揺れて、時折、きらりと光を反射する。

「……朱里? どうした?」
「え……」
「泣きそうな顔してる」

 泣きそうな顔と言われて、朱里は思わず片手で頬に触れた。まだ涙は流れていないけれど……。

「解らない……でも……」

 きれい、と呟くと、繋がれている手の力が強くなった。

「感動してる? もしかして」
「感動?」

 強く心を動かされること。辞書に書いてある言葉の意味そのままを頭に浮かべ、そして……すとん、と納得してしまった。

「この気持ちが……感動、なの?」

 綺麗だと思った。凛としていて、どこか儚げで。それを見ていたら、何だか胸が締め付けられて……。
 多分な、と笑う竜城の指先が、宥めるように繋いだ朱里の手の甲を撫でる。当たり前のように繋がれている手を唐突に意識して、朱里は不安に襲われた。

 竜城の温もりは、藍里だけのもの。だって、彼が付き合っているのは藍里だから。いつも傍にいて、朱里から藍里を守って。だから……繋がれている手は、この温もりは、一時のもの。それを、嬉しいと感じてしまった事が、怖い。
 ……いつか失ってしまうかも知れないことが、怖い。

 感動という気持ちを知ったからなのか、強く心を動かされたからなのか。素直に感じたその不安は、瞳から涙となって零れた。

「……っ」
「……朱里?」

 泣いていることに気づいたのか、繋がれていた手がそっと離れて。代わりに、その腕が朱里の頭を竜城の肩に抱き寄せた。

「素直だな、お前は」

 どうやら、感動しすぎて泣いているものだと思ったらしい。子供をあやすように、優しいリズムで頭を叩かれる。朱里とは違う指先が、短くなった髪を撫でていく。

 優しくしないで……。この温もりに、慣れさせないで。心の中ではそう思うのに、朱里は竜城を拒めなかった。

「次は、夏祭りだな」
「夏祭り……?」
「花火大会。今度は朱里も一緒に行こう」
「一緒で、いいの……?」
「当たり前だろ」

 その言葉が嬉しくて、ますます涙が零れて頬を伝う。

(でも、……だめ)

 距離を、必要以上に縮めてはいけない。目に見えていても、近くにいても、……触れていても。決して朱里の手は届かないから。

「……何か余計なこと考えてないか? お前」
「余計な、事、って……」
「邪魔じゃないかとか、そういうの。邪魔なんかじゃないからな? 俺が、朱里といたいんだから」

 いつも邪魔しに来る藍里も、今はいないし。と冗談めかして笑う竜城に、瞳を合わせる。

「俺はもう、お前から離れる気はない。だから────」

 頭を撫でていた手が朱里の肩を引き寄せた。

「逃げるなよ……」

 どうしてそんな、切なくなるような声で告げるのだろう?

 竜城のその声音の意味を掴めぬまま、朱里は彼を安心させる為だけに、小さく頷いた。


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