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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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虹霞~僕らの命の音~ 月の光に導かれ

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 本日、8/28で、いつもお世話になっております朱音さまのサイト「空想 i 」さまが2周年を迎えられました。
 お祝いSSとして、またもや「虹霞~僕らの命の音~」の二次創作を(勝手に)書かせて頂きました!

 追記からどうぞ。




清浄なる月の光よ 我がすべての汚れを清め給え
我が愛する彼の姫に 血濡れた腕では触れられぬ
今宵の一時だけで良い 彼の姫を我が許に────

*****

「六耀、妖華が後で来てくれ……って、明かりも点けずに何やってんだよ」

 ノックをしたあと返事も待たずに部屋のドアを開けた時雨に、窓際の椅子に座る六耀は振り返って苦笑する。

「大丈夫だよ、月がとても明るいから」

 窓から見上げれば、丸い月が六耀を儚げに照らす。

「だからって、目ぇ悪くするぞ? 何見て……絵本?」

 時雨が六耀の手元に見つけたのは、戦いか何かで傷ついたのか、全身を切り傷に覆われ、地面に倒れている男が描かれている本だった。血濡れた指先を、明るく輝く月に伸ばしている。

「絵本じゃないな。これは?」
「桜が貸してくれたんだ。昔、これを読んで怖くて、悲しくて、泣いちゃったんだって」
「へえ、どんな話なんだ?」

 青年は、とある姫の護衛であると同時に恋仲だった。しかし、騎士とは言え青年の身分は低く、姫との婚姻など許されるはずもなく……父王に命じられたのだ。侵略しつつある敵国の王の首を取って来いと。それも、たった一人で。

「青年は頷いた。姫は必死で止めたけど……行かなければ結局は離れ離れにさせられる事を聞かされて、とうとう引き止めていた腕を離したんだ」
「それで?」
「騎士は敵国に返り討ち。ボロボロになった体を引きずって城の近くまで戻ったけれど……」

 力尽き、草むらに倒れ。見上げたのは彼の姫の髪と同じ色に輝く丸い月。血濡れた指先では彼の姫には触れることが出来ないから、その光で我が身を清め、そして出来るならばもう一度、彼の姫をこの腕に抱きしめたいと願った。
 青年のその想いが、声が届いたのか……月明かりと共に現れた彼の姫が、傷だらけの青年の頬をそっと撫で、名を呼んだ。

『どうして……ここに……?』
『月が私を攫ったのです。あなたの許へ導くために』

 そして二言三言の会話を最期に、青年は愛しい姫の腕の中で命を終えた。姫は嗚咽さえ漏らさず、ただ静かに涙を流し、青年の体をそっと抱きしめて。

『私も……あなたと共に……』

 歯の中に仕込んだ毒を思い切り噛み潰し、嚥下して。姫は青年の隣にゆっくりと体を倒し、そっと目を閉じた。

『月の光よ、我らを縛る全ての柵から……解放して下さい』

 死という名の安楽へ、月の光が導いてくれると信じながら、姫はその鼓動を止めたという。

「おもいっきり悲恋だなぁ」
「そうだね……。けど、月の光で身を清めるって、何か、解る気がする」
「ん?」
「月の光は優しいから……すべてを受け止めて、すべてを洗い流してくれそうだもの」

 そう言って六耀は、開け放たれた窓から細く白い指を丸い月に向かって伸ばす。
 優しい、穏やかな月の光。六耀は、太陽よりも月が似合う。

「綺麗だね……」

 微笑む横顔が、どこか恍惚としていて……時雨は無意識に彼女の華奢な体をきつく抱き寄せた。

「わっ!? ど、どうしたのさ時雨!?」
「解らない……けど、何か……」

 ぎゅ、っと力強く抱きしめる。彼女にとっては痛いだろうほどの力で。
 こうしなければ、六耀が月に攫われてしまいそうな気がした。そんなこと、有り得るはずがないのに……、先刻の彼女は、月明かりに照らされて、時雨の知る六耀ではない気がして。
 まるで、物語の姫のように、彼女の運命の誰かの所へ、攫って行かれてしまいそうで。

「ちょ、時雨離し……っ!」

 六耀はもがいて、時雨の両腕から逃げようとしたけれど、滅多にない時雨の『男性』の力から逃げられない。火系の最大魔法で真っ黒焦げにすればさすがに離れるかなと、不穏な考えに至るも、六耀は何故か実行に移せなかった。時雨の声が、微かに震えていたから。

「……お前は、ここに……」
「っ、え……何?」
「誰の傍にいたっていい、俺じゃなくてもいいから……探せば会える距離にいて欲しい」

 そうはっきり告げた後、時雨はまだ何か呟いていたけれど、あまりにも小さい声で六耀には聞こえなかった。
 聞き返そうと六耀が身をよじると同時に、時雨の両腕も離れていく。

「……どこにも、行かないよ?」
「ん?」
「僕の居場所はここだから。時雨の傍ここにいて……いいかな?」

 言いながら、先程離れた時雨の腕に触れる。と同時に、六耀の体はその腕に抱き竦められた。

「と、時雨……!?」
「攫わせねぇよ」

 自分が六耀の傍を離れることもないし、まして月などに彼女を攫わせたりしない。

「ここに、いろ」
「ん……」

 そっと頬を撫でられて、くすぐったくて首を竦めながら瞳を閉じる。それが合図になったのか、月明かりに照らされて、二人の影は一つになった。

「あ。呑気に話してたら忘れてた。妖華がお前を呼んでたんだ、部屋に来てくれって」
「こんな時間に? 何かあったかな」
「さぁな。留守番しててやるから行ってこいよ」
「うん、ありがとう。行ってくる」

 くるりと踵を返して部屋を出ていく六耀の背中を見送った後、時雨は未だ清浄な光を放つ月を見上げた。

「……攫ってくなよ?」

 時雨の手の届かぬ場所になど、行かせない。そう思いながら、開かれたままの本の挿絵を指先でなぞった。

*****

 ふるふると、本を持つ六耀の手が震えている。その隣で時雨は僅かに顔を赤くして、指先で頬を掻きながらそっぽを向いていた。

「……っ! ハルっ! これ何!?」
「何って、リクとトキを主役にした物語! 書店の娘さんに、ラブストーリーでお願い! って言ったら書いてくれたの」
「有り得ないよこんなのっ!」

 一体どこの三流小説だ、と、六耀は頭の片隅で思う。この本の中の自分は、普段の六耀とあまりにも掛け離れている。
 時雨にコサージュをもらってから、何度か書店の娘には会っているけれど、その何回かしか会っていない自分達のことを、良くもここまで書けたものだ。

「そうですか? 私はこの物語のお二人、好きですけれど」
「桜も読んだの……?」
「はい」

 途端に羞恥心が襲ってきて、六耀は指先に魔力を込めた。

「も、燃やしてやる……っ!」
「ダメー! まだヨーカンとゲッカちゃんに見せてないもんっ」
「やめろっ! あの二人にこんなの見せたら、俺がどんだけ酷い目に」

 春雷の言葉に慌てた時雨が懇願する前に、最強の魔術師二人がいつの間にか部屋に入ってきていた。

「ああら、何をしでかしたのかしら時雨は」
「我が思うに、酷い目に遭う自覚はあるようだし。先に痛め付けておくかい? 月花」
「そうしましょうか」
「ちょ、待て、何で後じゃなくて先なんだ、うわぁっ!」

 二人の師匠から容赦ない攻撃を浴びる時雨を見て、六耀は手にしている一冊の本を眺めた。

(やっぱりこれ、今のうちに燃やそうっと)

 かくして書店の娘が春雷に頼まれて書いたという六耀と時雨の物語は、師匠二人の目に触れることなく、あっという間に彼女の魔法で灰になったのだった。



~おまけ~

「原本は残ってますから、まだ複製出来ますよ?」
「ホントっ!?」
「はい」
「良かった~、玲音ちゃんにも見せたかったの! ヨーカンとゲッカちゃんもまだ見てないしね」

 に~っこりと笑う書店の娘と春雷の企みを、六耀と時雨は未だ知らない。



※後書き
 朱音さんのオリジナル小説サイト、「空想 i 」さまが開設2周年を迎えられましたので、またまた勝手に朱音さんが大切にしてらっしゃる「虹霞~僕らの命の音~」の二次創作をさせて頂きました。
 以前、朱音さんの日記に月明かりという単語があって……それがとても神秘的に見えて、「よし、これにしよう!」と意気込んで書いてました。が、勢いだけで背景描写は散々なことになり、後から修正しまくったんですがね(笑)

 それでは、朱音さん、2周年おめでとうございます!
 宜しければお受け取り下さい~。
 朱音さまのみお持ち帰り可です。 
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