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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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執事様のお気に入り High speed?

執事様のお気に入り 目次 二次創作Index

以前「執事様の夏休み」という企画に参加させて頂いた時のSSです。

7/23 高速


「せーのっ!」

 元気良く叫んだ理皇の両手の先には丸いハンドル。ぐるぐる回せば視界も一緒にぐるぐる回る。それも回せば回すほど速くなり、良は半分目を回していた。

「理皇、いい加減にっ……!」

 さすがに伯王が止めようと手を伸ばしたら、時間が来たらしく徐々に回転速度が落ちて行った。

「え~、もう終わり~?」

 完全に止まってしまったコーヒーカップを見て、不満げに唇を尖らせる理皇の仕草が、良の知らない子供の頃の伯王を想像させた。

「あれだけやれば充分だろ……」
「伯王、大丈夫?」
「何とかな……。氷村は?」
「私は大丈夫っ!」

 確かにちょっと有り得ないくらいの回転速度で目は回ったが、止まる頃には復活していた。

「兄上、良っ! 次はー?」

 既にコーヒーカップから下りて、次へ行こうとはしゃぐ理皇の言葉に、伯王と良は苦笑する。

「理皇くん、はしゃいでるねー」
「滅多に来ないからな、遊園地なんて。……それ以外にもはしゃいでるのがいるが」

 さすがにコーヒーカップには乗れなくて、外で待っていた庵と隼斗が、理皇を挟んで会話をしている。

「よし若っ! 次はジェットコースターだ!」
「あ、でも若乗れるかな?」
「何でだよ?」
「身長制限。若、確か129cmでしょ? 隼斗が言ってるコースターは確か130cm以上だよ」

 ここの遊園地にある、ぶら下がり型のジェットコースター。普通のジェットコースターは足で踏ん張ることも出来るが、足が自由なために踏ん張りが効かない分スリル倍増だ。

「えーっ! 乗りたい!」
「いーじゃんか庵、たかだか1cmの差ぐらい」
「ダメ」
「乗りたい乗りたい~っ!」
「……若? ここに桐生さん呼びましょうか?」
「ずるいぞ庵!」

 にっこり、と絶対零度の微笑みを向けられてたじろぐ理皇。せっかく撒いてきた桐生を呼ばれたら、嫌でも強制送還だと解っている彼は、う~、と唸る。

「でも確か、子供用のジェットコースターなかったか?」
「とりあえず、乗り場まで行って見ようよ。身長計れば理皇くんも納得するだろうし、もしかしたら伸びてるかもしれないし」

 ぱあっ、と理皇の顔が明るくなる。だが、その提案をしたのが良だということが少々気に入らないらしく、すぐにムッ、とする。それが解ってしまった良は、苦笑を返すしかなかったが。
 ジェットコースター乗り場までやって来て、設置されている看板の前に理皇を立たせ、身長を測る。引かれた線を余裕で越えている……と思ったら、伯王の低い声が。

「……理皇。背伸びしてごまかさない」
「……はい」

 一生懸命上げていた踵を下ろす理皇を見て、良は自分もそうだったなと思い出した。
 ジェットコースターに乗りたくて、身長をごまかそうと背伸びをして。だけど両親にやんわりと窘められた事を思い出す。

「あ、兄上……ダメ?」

 恐る恐る伯王を見上げる理皇に、伯王は優しく笑った。

「大丈夫だ、な」
「え?」

 伯王の言葉に、きょとんとしたままの理皇の前にしゃがみこみ、目線を合わせた。

「身長制限クリアだよ。一緒に乗れるね?」
「やったーっ! 庵、見たか!?」
「ええ、良かったですね、若」
「そうと決まれば並ぶぞっ、先頭狙うぞ!」
「うんっ!」

 隼斗が理皇をたきつけて駆け出すあとを、残りの三人もついていく。さほどの待ち時間もなくすんなり乗れた、のだが。

「わあああああっ!」

 急降下に一回転、カーブに差し掛かれば左右に揺れる体。高速なせいと安全バーのおかげで実際はあまり体は動いていないのに、足が自由なため、そんな錯覚を起こさせるジェットコースターに、怖がっているのか喜んでいるのか解らない理皇の悲鳴。

「若ー!? 大丈夫かー!?」

 良の隣に座っている隼斗がからかい気味に尋ねても、理皇は叫ぶばかりでおそらく聞こえていない。
 やがて速度が落ち、コースターが止まり、安全バーがはずれ。降りた理皇が真っ先に言った言葉は、「もう一回!」だった。

「あ。氷村ちょっと待て、髪が」
「え? あ、解けちゃった?」

 遊園地に来るなら、と頭の両脇にお団子を作ってまとめていたが、ジェットコースターに立て続けに乗ったことで所々ほつれてしまったらしい。ピンを抜きつつ髪を下ろしていると、背中が軽く叩かれた。

「あそこ座れ、結ってやる」
「え、いーよ自分で」
「いいから。庵、隼斗。理皇を連れて別の」
「やだ! 兄上と一緒にいる!」

 がしいっ、と理皇が伯王の腰にしがみつく。結局傍にあったベンチに良と理皇が座り、伯王は良の髪を手に取り始め、庵と隼斗は「飲み物買ってくるよ」と自販機へ向かって行った。

「ピンでまとめるとまた解けそうだな……たまには三つ編みにでもしてみるか」
「あはは、伯王にお任せします」

 解った、と呟いた伯王の手が髪に触れる度に、少しだけ鼓動が跳ねる。だけどそれは不快なものではなく、むしろ微笑ましい気持ちになる鼓動の音だった。

 ふと、横から痛いほどの視線を感じた。頭は動かせないから、横目でその視線を辿る。じぃ~、と睨みつけている……いや、伯王の手の中にあるらしい良の髪を凝視していた理皇は、ぽつりと呟いた。

「兄上。それどうやってるの?」
「どうって……」
「そっか、男の子はあんまりやらないよね」
「まぁ、確かにな」
「やってみる? 理皇くん」

 まだまだ兄のやることを真似したがる歳だ。興味を持ったなら、やってみるのもいいだろう。と思ったのに。

「ダメだ。理皇がやったら目茶苦茶になるぞ」
「櫛は持ってきてるし、それに最初はみんな下手だよ?」
「そうだけど……とにかくダメだ」

 良の長くて綺麗な髪に、例え弟といえど触れさせたくない―――。そう、伯王が思っていた事を、良は知らない。
 が、その思いのたどり着く場所を見つけられず、結局「専属だしな」の一言で終わらせてしまうのが伯王だが。

「出来たぞ」
「ありがとー、伯王」

 良の前に回り込んで出来栄えを見て満足げに微笑む伯王に、良も笑い返す。穏やかに流れる柔らかな空気……。を、ぶち壊すのはやはり理皇で。

「良っ! 兄上とイチャイチャするなーっ!」

 まるで良から伯王を守るかのように立ちはだかる理皇が何となく微笑ましくて、思わずぐしゃぐしゃとその頭を撫でた。

「ほんっと、理皇くんは可愛いよねぇ」
「子供扱いするなっ」

 それでも頭を撫でる良の手から、無理矢理にでも逃れようとしないのは、理皇自身もそう嫌ではないからだろうと、伯王は思った。
 缶ジュースを持った庵と隼斗が戻ってきて、理皇に次は何が乗りたい? と聞けば、「スピードのあるやつ!」と答えが返ってきた。どうやらジェットコースターで味を占めてしまったらしい。
 じゃあゴーカートでも行くか! と笑った隼斗が、理皇を肩車して歩き出す。

「何で選ぶのが高速系とか絶叫系とかばっかりなんだ……」
「子供ってそういうの好きなんだよねー」

 くすくす笑いながら、昔は自分もそうだった事を思い出す。高いところや、スピードの出るアトラクションが大好きだった。普段は味わえないあのスリルが楽しかった。

「悪いな、理皇の我が儘につき合わせて」
「そんなことないよ? 私一人っ子だったから、弟が出来たみたいで楽しい!」
「そうか」
「うん。隼斗さんと庵さんがお兄さんで、ちょっと図々しいかも知れないけど、碧織衣さんがお姉さんで。理皇くんが弟!」
「……俺は?」
「え? 伯王は」

 答えようとして、言葉に詰まった。誕生日は良の方が先だけれど、普段は伯王の方が兄のようだ。しかし、彼を兄と呼ぶのは何だか違うような気がする。勿論、弟とも違う。

「……あれ……?」

 適切な言葉が思い浮かばない。だって伯王は―――。

「氷村?」
「……伯王は……そういうのに当て嵌めちゃいけない気がする」
「え?」
「上手く言えないんだけどねっ」
「兄上ー!」
「氷村嬢、どうかしたかー?」

 話している間に、随分先に行ってしまった隼斗と理皇が、伯王と良を呼ぶ。

「あ、はーいっ。いこっ、伯王!」
「ああ、走ると転ぶぞ?」
「大丈夫だよっ」

 そう、だって……例えば隼斗といても、庵といても。こんなに嬉しいとは思わない。
 伯王の傍にいると、嬉しくて、楽しくて、そして。
 普段は緩やかに打つ鼓動が、時々、伯王に触れられると高速になる事がある。まるでジェットコースターが急降下する直前のように。
 そんな彼を、家族のように思えるわけがないのだから。

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