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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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執事様のお気に入り 妖精の翅 Ver.良

執事様のお気に入り 目次 二次創作Index

以前「執事様の夏休み」という企画に参加させて頂いた時のSSです。

7/14 翅
※7/6 繋ぎ留める と対になっています。

 子供の頃、ピーター・パンの絵本を読んで、妖精になりたいと願っていた時があった。いつか空を飛べなくなる人間ではなくて、自由自在に空を飛べる妖精に。

「氷村」
「あ、伯王。特別授業お疲れ様」
「悪かったな、まさかこんなに延長になるとは思わなくて。……何を見ていたんだ?」

 椅子に座っている自分の肩越しに、ひょいっ、と手元を覗き込む立ったままの伯王の顔がとても近くて、良は何故かどぎまぎしてまともに彼の顔を見られない。
 だから、今自分が持っている一枚のポストカードに視線を戻した。

「ポストカード?」
「うん。ほら、この間喫茶店で三枚入りのポストカード買ったでしょ? 私。その中の一枚でね」
「妖精、か?」
「うん、風の妖精、だって」

 先週の日曜日、「買いたい物があって」と告げた良に、当然の如く「俺も行くからな」と伯王に答えられてしまい、結局二人で出掛けた時の事。
 昼時になって、たまたま入った喫茶店で見つけたポストカード。
 夕焼けの空、青空、そして夜空を描いた三枚セットのもので、昨夜祖父母にハガキを書こうと袋から取り出して、気付いた。
 青空のポストカードにだけ、髪型や服の色は違えど、蝶のような二対の翅を持った妖精達が描かれていたことに。

「……綺麗、だな」
「うん、綺麗だよね」

 二対の翅は光を浴びて透き通り、淡い空色を映し出している。
 見た瞬間に、理由は解らないけれど、とても惹かれた。普段は絵など見向きもしないのに、素直に、綺麗だと思えた。

(伯王も、綺麗だって思ってくれたんだ……)

 自分と同じ反応を返してくれる人。双星館に編入してきた時からずっと、彼は良のそばにいてくれて、同じものを見てきた。
 別々の人間だから、その時受ける印象や感情も違うはずなのに。
 同じことを思ってくれたことが、何だかとても嬉しくて、くすぐったかった。

「これを見てたらね、子供の頃の事思い出したの。私、妖精になりたがってたなー、って」
「……妖精に?」
「あっ、すっごい昔の事だよっ?」

 さすがにちょっと引かれたかな、と思って、慌ててフォローを入れる。振り返るのが怖くて、口早にまくし立てた。

「空って、すごく大きくて。どこまでも続いてて。だから、飛びたかったのかなー、あの頃の私。うーん、今考えると子供の想像力ってすごいかも」

 あははっ、とごまかすように笑って振り向けば、案の定、彼はどう反応すればいいのか悩んでいたらしい。しかし次の瞬間、伯王の困惑が解けて、ふ、と優しく笑った。

「伯王?」
「いや……、俺も人の事は言えないな、と」
「え、何で?」
「話しただろ、別荘で。取れなかった星の話」
「あ……!」

 碧織衣にせがまれて、本物の星を取ろうと木に登った幼い頃の伯王。
 空に浮かぶ星は、どうあがいても手には出来ない。人間が、その身一つで飛べないのと同じように。

「取れると思ってたからな、俺も」
「でも伯王、ちゃんと星は取ったじゃない」
「ビーチグラスだぞ?」
「ううん、ちゃんとお星様だよ?」
「ん?」
「伯王の、『思い出』っていう星!」

 遠い遠い空に浮かぶ、手に入らない星よりも、きっとずっと大切な、伯王の星。
 そして今は、良の今年の夏の思い出も一緒に詰まっている星。
 そう告げると、伯王がきょとん、と微かに目を瞠った。

「私、変なこと言った……?」

 伯王の顔を覗き込むように、下から見上げる。と、彼の手が優しく良の頭を撫でた。

「いや、違う。……ありがとな」

 どうしてお礼を言われるのかは解らなかったけれど、伯王が笑ってくれると、胸が温かくなる。同時に顔まで熱くなってくるのが、難点といえば難点だが。

(どうして顔、熱くなっちゃうのかなぁ……)

 ぺちぺちと両手で頬を軽く叩き、熱を冷まそうとしていると、「大丈夫か?」と心配げな声が聞こえて来る。

「えっ、あ、うん、大丈夫っ」
「そうか。……あ。氷村、窓」
「窓? わ……すごーい、真っ赤!」

 椅子から立ち上がり窓に駆け寄れば、空も雲も赤く染まっていた。
 いつの間にか、日が沈むほど時間が経っていたらしい。秋の日はつるべ落としとはよく言ったものだ。
 伯王の髪が、茜色に染まる。きっと自分も今、伯王と同じ色に染められているだろう。

「……お前がもし、子供の頃の願いどおりに、妖精の翅を手に入れたとしたら」

 夕焼けを見て、青空に描かれた妖精達を思い出したのか、隣に立った伯王が呟く。

「伯王?」
「ひらひらとあちこち勝手に飛んでって、捕まえるのに苦労しそうだな……」
「あ、あはは~……」

 最初の頃に比べれば多少は大人しくするようになった(と、思う)けれど。
 元々じっとしているのが苦手で、少しでも興味が傾けば突っ走るのを自覚している良は、伯王に反論する術を持たず、ただ苦笑いを返すしかなかった。

「だから」

 す、と窓枠においていた左手が不意に持ち上げられ、伯王の指先に包まれる。誓いの言葉を交わした時のように、そっと唇が触れる。

「ちゃんと傍にいるから、……飛んでいくなよ?」
「うん……っ!」

 少し強めに握られた手に、良もほんの少しだけ力を込める。どこにも行かない、という小さな意思表示のつもりだった。

「じゃ、帰るか。暗くなる前に」

 繋いだままの手を引かれ、隣に並ぶ伯王の横顔を見ながら、良はこっそり心の中で思った。

(どこにも、行かないよ)

 伯王の傍にいたいから、翅は要らない。肩を並べて、一緒に地を歩く二本の足と。安心出来るこの手の温もりがあれば。
 それだけで、いい。





 ~数分後・寮への帰り道~

「あっ、庭師さんのとこのにゃんこー!」
「って、おい氷村っ! お前言ったそばから、こら待てっ!」

 繋いでいた手はあっさり離れ、良の興味はすぐさま猫に移ったとか……。

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