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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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執事様のお気に入り 妖精の翅 Ver.伯王

執事様のお気に入り 目次 二次創作Index

以前「執事様の夏休み」という企画に参加させて頂いた時のSSです。

7/6 繋ぎ留める
※7/14 翅 と対になっています。

「……遅くなったな……」

 突然入った特別授業が思いの外長引いてしまって、伯王は早足で歩きながら良との待ち合わせ場所に急いでいた。急いでいる理由は二つ。じっとしていられない性分の彼女を待たせている罪悪感と、……自分が彼女の傍にいて安心したいから。
 待ち合わせ場所の自習室。ノックをしても返事が返って来ないので、伯王は「またどこか行ったか?」と、とりあえず扉を開けてみた。

(……いるじゃないか)

 珍しく、彼女は大人しく椅子に座ったまま、手元を眺めている。

「氷村」
「あ、伯王。特別授業お疲れ様」
「悪かったな、まさかこんなに延長になるとは思わなくて。……何を見ていたんだ?」

 彼女の肩越しに手元を覗き込むと、そこには一枚のポストカードがあった。

「ポストカード?」
「うん。ほら、この間喫茶店で三枚入りのポストカード買ったでしょ? 私。その中の一枚でね」

 ああ、そういえば。と、伯王は少し前に一緒に出かけた事を思い出した。夕焼けの空、青空、夜空。移りゆく空を描いた三枚セットのポストカードが、たまたま入った喫茶店に置かれていた。それを見た良が、たまにはこういうのもいいかな? と買ってきたものだった。
 あの時のか、と納得して、もう一度青空が描かれたポストカードに視線を移す。何の変哲もない、ただの青空のポストカードだと思っていたが―――。

「妖精、か?」
「うん、風の妖精、だって」

 蝶のような二対の翅を持った妖精達がそこには描かれていた。妖精達の二対の翅は、描かれていない太陽の光を浴びて透き通り、淡い空色を映し出して。

「……綺麗、だな」

 素直に、そう思った。今まで教養としてたくさんの絵画を見てきたけれど、こんなに素直に、綺麗だと思った絵はそう多くない。サインが入っているわけではないから、おそらく有名どころの人間が書いたものでない事だけは解るけれど。

「うん、綺麗だよね。これを見てたらね、子供の頃の事思い出したの。私、妖精になりたがってたなー、って」
「……妖精に?」

 想像もしなかった言葉が突然良の口から紡がれて、伯王は少しだけ呆れた。

(また突飛な発想を……)

「あっ、すっごい昔の事だよっ?」

 そうでなきゃ困る、と内心で突っ込んだ。伯王が黙っている事に不安を覚えたのか、彼女は口早に話し始めた。

「空って、すごく大きくて。どこまでも続いてて。だから、飛びたかったのかなー、あの頃の私。うーん、今考えると子供の想像力ってすごいかも」

 子供の想像力。そう聞いて、伯王はとある事実に思い至った。思い出して、薄く笑う。

「伯王?」
「いや……、俺も人の事は言えないな、と」
「え、何で?」
「話しただろ、別荘で。取れなかった星の話」
「あ……!」

 今年の夏、碧織衣に誘拐された良と一緒に、神澤の別荘で過ごした最初の日の夜の事。手を伸ばしたら本当に星が取れそうだよねっ、と笑った彼女に昔の話をした。
 碧織衣にせがまれて、本物の星を取ろうと木に登った幼い頃。取れなくて、悔しくて、たくさんたくさん背伸びをして、それでも星に手は届かなくて。

「取れると思ってたからな、俺も」
「でも伯王、ちゃんと星は取ったじゃない」
「ビーチグラスだぞ?」
「ううん、ちゃんとお星様だよ?」
「ん?」
「伯王の、『思い出』っていう星!」

 その言葉に虚をつかれて、伯王は一瞬黙り込む。ほんの少しの戸惑いが顔に出てしまっていたらしく、彼女が不安げに伯王を見上げてきた。

「私、変なこと言った……?」
「いや、違う。……ありがとな」

 良の長い髪の手触りを楽しみながら、そっと頭を撫でる。

 きらきら光る、伯王の思い出。本物の星が手に入らなかったとしても、それは伯王が覚えている限り輝き続ける。暗い闇の中ではなく、自分の心の中に。
 彼女が言いたかったのは、多分、そういう事だろう。
 と、突然良が自分の頬をぺちぺちと両手で叩き出した。何かあったかと思って「大丈夫か?」と声をかければ、少し慌てたように「大丈夫っ」と返事が返ってきた。

「そうか。……あ。氷村、窓」
「窓? わ……すごーい、真っ赤!」

 窓から差し込む赤い光に気づいて、良を促す。途端に椅子から立ち上がった彼女は窓際に駆け寄った。もし窓が開いていたら、そこから身を乗り出してしまいそうなほど勢いよく。
 視界に移るすべてが、茜色に染まっていく。これから藍色になり、闇色になり……そして朝焼けが来て、また青空になる。
 テーブルの上に置かれたままのポストカードを思い出し、伯王はポツリと呟いた。

「……お前がもし、子供の頃の願いどおりに、妖精の翅を手に入れたとしたら」
「伯王?」
「ひらひらとあちこち勝手に飛んでって、捕まえるのに苦労しそうだな……」
「あ、あはは~……」

 地上を歩いているならまだ捕まえようがあるけれど、空を飛ばれてはかなわない。届かなかった星のように、触れる事すら出来なくなる。

「だから」

 す、と窓枠におかれていた彼女の左手を持ち上げ、その指先に唇を触れさせる。

「ちゃんと傍にいるから、……飛んでいくなよ?」
「うん……っ!」

 空になんて行かせない。ずっと傍にいて、自分よりも小さな手を捕まえて、この地上に繋ぎ留める。
 誰もいない空では、彼女はきっと笑えないから。彼女には、自分の傍で笑っていてほしいから。

「じゃ、帰るか。暗くなる前に」

 テーブルの上に残されたポストカードを手渡し、伯王は帰途へとついた。




 ~数分後・寮への帰り道~

「あっ、庭師さんのとこのにゃんこー!」
「って、おい氷村っ! お前言ったそばから、こら待てっ!」

 繋いでいた手はあっさり離れ、良の興味はすぐさま猫に移ってしまい、伯王はちょっとだけ本気で考えた。

(いっそ首輪でもつけといた方がいいのか……?)


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