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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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暁のヨナ 主か女か

暁のヨナ 目次 二次創作Index

『……顔、出すんじゃねぇよ……』


「ユン!」
「ヨナ!?」

 ヨナの叫び声が聞こえた。大人しくしていろと言ったのに、と振り向いたハクが見たのは、矢に射られた左腕を庇うヨナと、その小さな体を後ろから支えるユンの姿だった。

「姫さん! ちっ、邪魔だ!」

 ヨナに矢を放ったであろう男を一撃の下に叩き伏せるけれど、次から次へと新たに敵がやってくる。
 相手はたかが山賊、元将軍であったハクが敵わぬ相手ではないが、何しろ数が多すぎる。ジェハもキジャもシンアも目の前の敵で精一杯。と思っていたら、空を跳べるジェハがあっという間にヨナの許にたどり着く。

「ヨナちゃん!」
「……ふふ、大丈夫よジェハ、そんな顔しなくても」

 矢が刺さったとはいえ、元気そうな声がかすかに届いて、ハクがホッと息をついたのも束の間────。

「ヨナちゃん!?」
「ヨナ!」
「どうした!?」

 切羽詰まった、驚きに満ちた声。だがハクが問いかけても、誰からも返事はない。とにかく一刻も早く目の前の敵を倒す────それだけを考えて、槍を振りかざす。
 やがて全員を昏倒させて、ハクはキジャとシンアよりも早くヨナの元へと駆け寄った。

「姫さん!」

 言葉と同時に、ジェハがヨナの腕に突き刺さった小振りの矢を一気に引き抜く。だがその痛みにさえ、ヨナは悲鳴を上げない。否、上げられないのだ。見るからに体は震えていて、目は白くなっている。その額に触れれば、驚くほど熱くなり始めていた。

 尋常ではないヨナの様子に、ジェハが持つ小振りの矢を奪い取る。

「……毒矢、か?」
「そうみたいだね。このままだとまずい。ユン君、解毒剤あったよね?」
「あるけど、山賊が使ってる毒なんて、何が配合されてるか解らないから下手に使えないよ! 薬によっては毒を倍増させる事にもなりかねないんだから!」

 成分分析をしている時間も無い。体力のある自分ならまだしも、ヨナに自分と同じほどの体力が期待出来るはずもない。

 ハクはおもむろに立ち上がり、地面に転がる、ヨナに矢を放った男に近づき、その胸ぐらをグイッと乱暴につかみ上げた。

「ハク、何を……っ!?」
「……起きろ」

 鋭く目を尖らせて、低い声でたった一言言い放つ。それでも目を開けぬ男の腹に、ハクは拳を叩き込んだ。

「うぐ……っ!? げほっ」

 ハクに一撃を食らった時に口の中にたまったらしい血を、咳き込みながら吐き出した男を睨み付ける。

「解毒剤はどこだ」
「へ、へへ……解毒剤? そんなもんあるわけ……ぐっ……!」
「こっちは主の命がかかってんだ。さっきみたいに手加減はしねぇ」

 男の体を地面に押しつけ、その喉元を腕で圧迫すれば、その顔色が段々と赤くなっていく。
 宣言通り、ハクは全く腕の力を緩めない。このままヨナを死なせてたまるかと、無表情のその裏に宿す、固い決意。遊んでいる暇はないのだ。

「ハク! そのままではその者は死ぬぞ!?」
「殺すつもりでやらなくちゃ、ヨナちゃんは助けられないよ、キジャ君」
「だが……!」
「選べ。解毒剤を渡すか、渡さねぇのか。死ぬか生きるか、二者択一だ」
「いいねぇ、ハクのその顔……ゾクゾクするよ」
「変態は黙ってろ」

 軽口を叩くジェハをギロリと睨み付け、ハクは喉元を圧迫している男の顔色が変わっていくのを見て嘲笑した。

「別にいいぜ? このままあんたを殺して、服をまさぐりゃいいだけだしな」
「ぐ……っ!!」

 赤かった男の顔が、酸素不足のために青くなっていく。震えながら伸びた男の腕が辿り着いたのは、喉元を絞めているハクの腕ではなく、自分の懐だった。
 そこから取り出したのは、小さな小瓶。ハクはそれを勢いよく奪い取り、もう用はないとばかりにそのまま喉元を圧迫して男を気絶させた。

「こ、殺したのか?」
「気絶させただけだよ。シンア君、周りに敵はもういないかい?」

 面を上げ、瞳を露わにしたシンアがじっと遠くを見つめ、こくん、と頷く。

 そんな会話を背後に聞きながら、ハクはヨナの頭を抱え上げ、荒い息を吐く姫の唇に、小瓶の縁を宛がい、傾ける。……けれど、口の端から零れ落ちてしまう。

「……ダメだよ、それじゃ飲み込めない」

 ただでさえ体は震えたままだ。喉も痙攣しているようだし、とユンが告げる。

(……躊躇ってる場合じゃねぇか)

 決して触れないと決めた。ヨナの心がスウォンにある事を知っているからこそ、絶対に触れないと……しかし今は、そんな事を言っている場合ではない。

「え、ちょ、ハク!?」

 やおら解毒剤を自らの口に含む自分の行動に驚くユンをよそに、ハクはヨナの頭を支え、その小さな唇に────口づけた。

「おや?」
「ハ、ハク! そなた何ということを……っ!!」
「……」

 外野の声など聞こえない。聞こえたところで止めるつもりもない。
 こくん、こくん、と小さな嚥下する音が耳に届いて、ハクはそっと顔を離す。
 ヨナの体の震えが、徐々に収まっていく。体に入った毒素に抵抗するために出た熱はまだあるけれど、とりあえず解毒は成功したと見ていいだろう。

「……移動するぞ」
「え、あ、うん」
「ほらキジャ君、行くよ。そんなところで石になってないで」
「……アオ」

 ぷきゅ、とシンアに答えるように鳴いたアオは、そのままハクが抱えるヨナの胸元に移動した。

*****

 ヨナが意識を取り戻したのは一晩が経ってからだった。顔色は戻ったものの、体には僅かに毒が残っているらしく、微かな痺れは残したけれど。

「……ハク……?」

 一眠りしたヨナが再び目を開けた時、側にいたのはハクだった。

「……起きましたか」
「うん……。ごめんなさい」

 矢に射抜かれた後、初めて目を覚ました時、ユンに聞いた。ヨナが意識を失った後のハクの行動を。人一人絞め殺さんばかりの勢いで解毒薬を奪ったと。

「……無茶した自覚はあるんですね」
「気づいたら、体が動いていたの」

 ユンを狙う矢に気づいた瞬間、ヨナは何も考えずに彼を庇った。毒矢と知っていたら、少しは躊躇ったかもしれないけれど……狙われたのが仲間である以上、ヨナはそれが誰であって体を張って庇おうとするだろう。もっとも、ハクや龍達は、庇われるような状況にすらならないだろうが。

「心配かけて、……ごめんなさい」
「全くです」

 ぎっ、と寝台が軋む音がした。次いで、頬に触れる温かな手の温もり。

「まだ少し顔色悪いな……。もう少し眠って下さい」
「たくさん寝たからあまり眠くないわ」
「それでもです」

 頬にあった手が、瞼の上に移動する。視界が暗くなって、自然と瞼は降りてしまい、ヨナは眠りに誘われていく。
 やがて規則正しい寝息がヨナの唇から零れて、ハクは瞼を覆っていた右手を、そっと唇に移動させる。

「……顔、出すんじゃねぇよ……」

 触れないと決めていた唇に触れてしまったから、欲が零れ落ちてくる。主ではない、姫でもない。ただの「ヨナ」として生きるのであれば、その隣で生きるのは己でありたいと願う。
 けれど、彼女の心にはまだスウォンがいる。そして、彼女はイル陛下の忘れ形見として、己が「姫」である事を忘れていない。

「……ヨナ……」

 ぽつりと呟いたその声は、もちろんヨナには聞こえていない。




暁のヨナ 目次
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