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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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震災SS 頑張ろう、負けないで

TOPへ 東日本大震災と福島第一原発事故 目次

【注意!!】
 『頑張ろう』。今までたくさんの方が、言ったり言われたりしたでしょう。同じ被災地にいて、互いに『頑張ろう』と励まし励まされ。県外のお知り合いの方々にも励まされたのは確かだと思います。
 けれど……『頑張れ』と言われて、「何にも知らないくせに」と反発する人も、「頑張ってるのに……」と傷つく人もいると思うんです。そして、「まだ足りない。もっと頑張らなくちゃ」と無理をしてしまう人も。
 そんな考えから出来たSSです。綺麗事なのでご不快にさせてしまう可能性もあります。お嫌な方はトップページにお戻りください。






 震災から一年。テレビの中では被災地を訪ねた芸能人が「頑張って下さいね!」と笑顔で告げている。それを見た彼は、ちっ、と舌打ちをした。

「なぁに?」
「俺、その言葉嫌い」
「え? いい言葉じゃない、頑張ろうって」

 デザートのチョコケーキをフォークで一口。呑気な彼女に、彼は「それで立ち上がれるならな」と苦々しく告げる。

「立ち上がれる、って……?」
「……この上なく頑張ってる人に対して、もっと頑張れって言えるか? 実状も何も知らない、励ますだけの『頑張ろう』は、重荷にしかならねぇよ。それは、あの日々を知らないから言えることだ」

 彼は、震災当時、被災地にいた。地震で倒壊した家も、津波で何もかも失くなった大地も、爆発した原発から漏れた放射性物質を避けるためにマスクをして歩く人達も、全て目の当たりにして来た。
 震災から一年経っても、彼は被災地にある実家には戻っていない。被曝を心配した家族から帰ってくるな、と言われてしまった。

 対する彼女は、関東圏で生まれ育ち、今回の震災も、何ら関係のない所にいた。だから、……確かに、何も知らない。情報といえばテレビのニュースだけ。その真偽など、確かめる術を持たないのだ。

「……知らないから、知りたいって思うんだよ。どうせ解らないって、そうやって拒絶されちゃったら、私はどうすればいい? 心から頑張って欲しいって思う、だから口にして伝える。それのどこが悪いの!?」
「悪いなんて言ってない。受け取る側の問題なのは俺だって解ってる。でも……みんな、頑張って出来ることは、全部やってるよ。だけど、一人一人の努力だけじゃどうにもならないことだってある……」

 その代表が、放射性物質だろう。どれだけ被曝を避けようと、例え家に引きこもっても、目に見えぬものはあらゆる手段で入り込んで来る。その恐怖や不安と戦うことも、相当な頑張りを要求されているのだから。

「そんな人達に、これ以上頑張れなんて言えないよ、俺は……。頑張って、頑張りすぎて、いつか何もかもを投げ出される方が、ずっと怖い」

 実家には、彼の4つ年上の姉と両親がいる。今も放射能と戦っている。それを思い出して、自分一人が安全な場所にいることに、歯がゆさを感じているのだろう。彼は唇を引き結んだ。

「だったら……何て言うの?」
「え?」
「頑張ってって思っても、それを口にすると辛いなら……何て言えばいいの?」
「いや、別に言うなってわけじゃなくて」
「いいから!」
「……俺は……負けるな、って……」

 戦う相手は放射能じゃない。立ち止まってもいい、時々は休んだっていい。ただ、負けないで欲しい。たくさんの重圧に。自分自身に。

「基本、人間には闘争本能があるし。勝ち負けを選べって言われたら、やっぱり勝ちたいだろう?」

 それが例え結果が見えぬ勝負でも。うわべだけの「頑張れ」よりも、彼にとってはずっとずっと誠実に思える言葉を、彼は上京する時に家族に残してきた。

「負けないでくれ、って……望めばいつでもここに戻るから、だから」

 そこまで彼が告げた時、ふわり、と彼女の腕が彼の頭を抱え込んだ。

「……ごめんね」
「……何が」
「怖かったんだね。今日が来ること。だから、ここに来たんだね」

 彼とのデートは翌日の予定だった。今日の訪問は何の前触れもなく突然で、何故かその手にはケーキを持って現れた彼。驚きはしたけれど、彼女はかけていたテレビ番組はそのままに、彼を部屋に招き入れたのだ。

「たくさん、頑張ってきたんだね。私と出逢うまでの一ヶ月、ずっと……。だからこそ、あの時のキミ以上に頑張ってる人達に、『頑張れ』なんて言えないって思ったんだね」
「……偽善、だけどな」

 家族のために、彼が出来ることは何もない。出来るのは望み通り、実家に帰らず被曝を避けることのみだ。

「ううん、違うよ。キミが、知ってるから言えることだよ……」

 今も一生懸命、頑張って生きている人達を知っている彼だから、言える言葉だ。

「……でもね、本当に心から頑張って欲しいと思ってる人の言葉まで、否定しないで欲しいな……?」
「……解ってる。言ったろ、受け取る側の問題だってさ」

 余裕なくてごめんな、と、呟く彼を抱く腕に、力を込めた。

 地震が起きた時刻が迫る。彼女は「黙祷」の言葉と共に瞼を閉じ、「負けないで」と心の中で祈りを捧げた。


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