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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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桜涙【3】 心

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『私は彼女を傷つけたくないだけなのに』



 時間は少し戻り、朱里が男達を癒している頃。竜城は藍里を連れたまま、道を急いでいた。少しでも早く、朱里から離れたくて。

「待って、竜城ちゃん」
「あ? ああ、ごめん藍里。歩くの早かった?」

 朱里には決して見せる事のない、優しい表情で、竜城は後ろを必死に付いてくる藍里に問いかけた。

「ううん、大丈夫。それより……」
「あいつの心配なんかするな。あいつは化け物なんだから、何か起こるワケなんてないだろ」

 酒に酔っていたとはいえ、自分よりも体の大きな男達を、手刀だけで伸してしまう朱里だ。何かが起ころうはずもない。
 藍里の悲しそうな表情にも気付かずに、竜城は歩き続ける。

「えと……庇ってくれて、ありがと」
「当然だろ」

 ぽつり、と呟くように礼を述べる藍里に、竜城は小さく笑みを浮かべる。といっても、電灯が遠いから、竜城の表情など見えようはずもないが。

「ここでいいよ、もう、すぐそこだし」
「そか。じゃあ、また明日な!」

 くるりと踵を返して、来た道を少しだけ戻っていく。角を曲がる時になって、竜城は藍里を振り返り、小さく手を振った。

 そんな竜城に手を振り返し、彼の姿が見えなくなった頃、藍里は「うそつき」と小さく呟いた。
 本当は、誰よりも、朱里を気にかけているのは竜城なのに。いい意味でも、悪い意味でも。
 なのに彼は、それを誤魔化す。藍里といる時は特にだ。藍里が、朱里と瞳さえ合わせない程に、朱里の事を怖がっていると思っている。
 確かに、怖い。あの日、全身傷だらけで、その怪我は朱里のせいだと聞かされた時から、朱里の存在が怖いのは確かだ。朱里の名前を聞いただけで、その姿を見ただけで、震えてしまうくらいに。
 でも決して、朱里の事を嫌いなわけではない。そしてそれはきっと、竜城も……。
 小さく溜め息を吐いて、藍里は自宅へと走り始めた。




 藍里が家に帰り着いて、30分程経った時、仁科家は二人の来客を迎えた。従兄であり、今は藍里の通う学校の新任教師である東堂一海と、その母・京佳きょうかだ。

「姉さん! お帰りなさい!」

 藍里の母・知佳ちかは満面の笑みで伯母を出迎えた。何しろ、一海の父が海外に転勤になってからずっと会っていなかったのだ。

「よっ、藍里。たまには教官室に遊びに来いよ」

 母の隣に並んだ藍里の頭をくしゃくしゃと撫でながら、一海が笑う。その手をかいくぐりながら、藍里は冗談交じりに答えた。

「えー、やだ。絶対なんか押しつけられそうだもん」
「ははっ、押しつけるとしたら朱里の方か。……そういえば、朱里は?」

 朱里の名前を聞いた瞬間、藍里は無意識に体を震わせた。

「藍里?」
「知佳? 朱里は、まだ帰ってないの?」

 伯母が怪訝な顔で訊ねると、母は「帰ってるんじゃない?」と首を傾げた。

「帰ってるんじゃない? って……いないの? 部屋に」
「あの子の部屋はこっちじゃないわ、離れよ」

 淡々と告げる母の言葉を聞いた途端、一海が玄関を飛び出していった。伯母はそのまま残って、厳しい瞳で母を眺めている。

「どういう事、知佳? あの子の能力は、害のないものだって知ってるはずよね?」
「姉さん、あの子は、藍里を傷付けたのよ! 藍里だけじゃない、幼なじみの子まで! そんな子と一緒になんて、私はっ……!」

 ぱんっ! と、乾いた音が玄関に響き渡った。伯母が、母の頬を打つのを、藍里は初めて間近で見たような気がする。

「いい加減になさい。朱里は、あなたの子でしょ!? ……藍里、あなたまで朱里を遠ざけているの?」

 伯母の問いに、藍里は答えられなかった。遠ざけているつもりはない、怖いから、朱里を傷付けるのが怖いから、近付かないだけ。だけど……結果的に遠ざけている事には、変わりがない。

「……だって……朱里ちゃんの事、傷付けたくないんだもん……」
「違う。あなた達は、自分が傷付きたくないだけよ……っ」

 拳をギュッと握りしめて、伯母はもどかしそうに告げる。その言葉にも、藍里は、何も答えられなかった。
 やがて伯母が俯いたまま、玄関の扉に手をかけた。

「ね、姉さん?」
「……朱里の所に行くわ」
「姉さん!」

 母の叫びにも、伯母は振り返らずに玄関を出て行った。残された母が、泣き崩れるのを、藍里はただ黙って見ているしかなかった。

 しばらくしてから、何か外が騒がしいように感じたが、藍里は外に出なかった。伯母の言葉が、頭の中をぐるぐる回っていた。

『違う。あなた達は、自分が傷付きたくないだけよ……っ』

 しかし藍里は、必死でその言葉を否定していた。
 傷付きたくないんじゃない、朱里を傷付けるのが怖いのだと、何度も何度も、そう自分に言い聞かせて。


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