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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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桜涙【2】 灯り

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『光は嫌い。すべてを明るく照らすから』



「全く……どうしてこんなくだらないことに巻き込まれているわけ?」

 彼女────仁科朱里にしなあかりの前には、数人の男が地面に転がっている。
 背後には、朱里の双子の妹・藍里あいりと、その藍里を落ち着かせるように抱きしめている仁科姉妹の幼なじみ・池上竜城いけがみたつきの姿があった。
 委員会の集まりで遅くなった藍里と竜城を、酔っぱらった年若い男達が囲んだのだ。何が気に入らなかったのかは知らないが、二人に手を出しかけたのを見て、図書館帰りの朱里はとっさに割り込んだ。

「……誰も助けてくれなんて言ってないだろ」

 憮然とした表情と共に、露わになる嫌悪感。その鋭い視線は朱里を突き刺し、捨てたはずの心に、鈍い痛みを与える。その痛みに気付かないふりをするのにももう、慣れてしまった。

「竜城ちゃん……」

 未だに竜城の腕の中にいる藍里。朱里には決して与えられることのない、藍里だけの場所があることに、僅かに羨望の念を抱く。

「だったら、私の目の届く所で巻き込まれないで欲しいわね」
「はっ! 化け物のお前に、目の届かない所なんてあるのかよ? 行こう、藍里」
「あ、待って竜城ちゃ……っ」

 たった一人の妹は、朱里と目さえ合わせない。いつも竜城の後ろに隠れて、守られているだけ。もう、ずっと……何年も、まともに口をきいていない。
 竜城と藍里をそのまま無言で見送り、朱里は小さく息を吐いた。

(下手な正義感を振り翳されるよりは、いいけれど)

 地面に転がっている3人の男達に視線を移す。近寄り、その口元に掌を翳す。
 意識はないが、呼吸は正常な事から、単に気絶しているだけだろうと推測する。尤も、攻撃対象を朱里に移した彼らの首筋に、手刀を叩き込んだだけだ。本で読んだだけの護身術も、相手が酔っぱらっていた分、効果は抜群だったらしい。
 外傷は与えていないと思っていたが、一人の男の手の甲から、血が筋を作って流れていた。転んだ拍子に、どこかにぶつけでもしたのだろう。

「……ごめんなさい」

 自分が傷付くのは我慢出来ても、人を傷付ける事は本意ではなかった。
 白い手を男の手の甲に翳す。ゆっくりと呼吸をして、傷のない手の甲を想像する。
 すると、小さな桜色の光が、朱里の手のひらから生まれ、男の手の甲に吸い込まれるように消えていく。光が掻き消えた後には、傷などない、ただ流れ落ちた血の筋だけが残っていた。

「大した傷じゃなくて、良かった」

 安堵するように息を吐いた朱里は、自分が今、とても柔らかい表情を浮かべていることすら知らぬまま、暗闇の中に、その姿を溶かすように歩き出した。




「……ただいま」

 声をかけても、誰の返事もない。全くの暗闇で、誰の気配もこの家にはなかった。
 当然だ。この家に住んでいるのは、朱里だけなのだから。
 元々、この小さな家は離れとして使われている物だった。だが、家族が朱里を完全に拒絶するようになったとある事件から、朱里だけがここに住み、たった一人という、孤独な生活を送っているのだ。
 振り返れば、母屋には煌々と灯りがついている。「あかり」と言う名前は、本当はその響きから来ていると聞いたことがあった。だが、今の自分に相応しい名前だとはとても思えない。
 否、ある意味では相応しい名前の響きだろう。人の心を読み、嘘も真実も全て白日の下に晒してしまう、そんな能力を持った朱里には。
 だから、光は嫌いだ。何もかもを明るく照らして、真実の姿を映し出すから。

 朱里は結局電気もつけずに、歩き慣れた部屋を進む。ベッドと小さなチェスト、机に本棚代わりのカラーボックスが一つ。簡易キッチンに小さな冷蔵庫、洗面所とお風呂。離れといっても一人なら暮らしていけるこの場所が、今の朱里の部屋だった。
 制服のまま着替えもせずに、どさりとベッドに仰向けになる。目を覆い隠すように腕を乗せて、彼の言葉を反芻する。

『化け物のお前に、目の届かない所なんてあるのかよ?』

 化け物、悪魔……。竜城と、母親に言われた言葉が頭の中をぐるぐる回る。

「人を罵る言葉って、いくらでもあるのね……」

 今更、そんなことを言われたぐらいでは傷付かない。自分の願いを叶える為に、傷付く心なんて必要ない。
 何度も何度も、そう言い聞かせているのに。
 どうしても、自分の思い通りにはいかない心がもどかしい。
 溜め息を吐いて、そして息を吸い込む。

「っ!?」

 突然、胸にしめつけられるような鋭い痛みが走った。身体を丸めようとする手足さえ、動けない程の。

「……また……っ」

 浅い呼吸を繰り返し、必死に酸素を体の中に取り込む。
 数日前から、時折襲う胸の痛み。大抵は2~3分程すれば治まるが、痛みの度合いはバラバラで、時々、本当に呼吸さえ出来ないと思える程の痛みがやってくる。
 原因は解っている。体の不調も、この胸の痛みも、全ては──────……。

(このまま、ずっと……)

 このまま、何の対策も講じず、胸の痛みに耐え、体の不調を見ぬふりをして過ごせば、いつかは訪れてくれるだろう。
 今の朱里にとって、何よりも待ち遠しい、そして誰にでも平等に訪れる『死』と言う名の安息が。
 少しでも痛みを和らげようと、手のひらで強く胸を押しつぶした時、鍵をかけないままの玄関が開く音がした。

「朱里! いるのか!?」

 切羽詰まってるような声は、普段はとても、とても優しくて。
 誰もが朱里の存在を消す中で、生きていてもいいのだと言ってくれた人─────。

一海かずみ、兄さ……?」
「朱里!」

 慌てて駆け寄ってきてくれる年上の従兄の表情が嬉しくて、朱里はぎこちないながらも微笑みを浮かべた。



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