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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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桜涙 【幼気な罪】

桜涙 目次  一次創作Index

京佳と知佳の幼い頃の話。

「久しぶり、お母さん」

 今日は、母の命日だ。母が眠る墓に、京佳は知佳を伴って参っていた。

「知佳、花立て洗ってくれる?」
「あ、うん」

 空っぽの花立て二つを、知佳の手に渡し、京佳は墓石の掃除に取り掛かる。
 そうしながら思い出すのは、母がまだ生きていた頃の事だった。




「はい、知佳の負け~」
「うぅ……もういっかい!」
「えー? お姉ちゃん宿題あるんだけど」
「もういっかいー!」
「だぁめ!」

 それでも頬を膨らませ、じーっと恨みがましく見つめて来る妹に、京佳は、はあ、とため息をついた。

「しょうがないなぁ、あと一回だけだよ?」
「やったー!」

 最近幼稚園で覚えたババ抜きがお気に入りの、もうすぐ4歳になる妹────知佳と、遊んでいた時の事。

「おかあさんもー! やろう?」

 すぐそばを通ろうとした母の足に、知佳の小さな手が触れた途端、母の動きが僅かに止まったのを、京佳は見逃さなかった。

(あ……読んじゃったんだ……)

 けれど母は、動揺など欠片も見せずに、知佳と視線を合わせるようにしゃがみ込み、いたずら顔で笑った。

「……お菓子食べながらはダメ。もうすぐご飯だからね?」

 母の言葉に、知佳はきょとんと首を傾げた。

「おかあさんはどうして、ちかのきもちがわかるのー? ちか、おかしたべたいっておもってたの」

 幼い妹の言葉に、京佳はびくりと体を震わせた。知佳はまだ、母の能力を知らない。

「お母さんはね、……その人に触ると、解っちゃうの」

 そういって小さく笑う母────百合の仕草から、京佳はそっと視線を外す。

 京佳は5歳の時、母を散々責めたことがある。人の心を読む、異端の能力に────自らの心を、暴かれて。
 読まれた事が、嫌だった。晒け出された心が、嫌だった。
 今なら、それが解るけれど……あの頃はただ、母を責めることしか出来なかった。

 母はもう気にするなと言ってくれている。当然の反応なのだから、と。もう許されている事を知っていても、それでも。感受性が強い京佳は幼い自分の行動を許せずにいた。
 それなのに、真っ正面から受け止める事も出来ないのだ。父は、「お前はまだ13歳なんだから当たり前だ」と笑ってくれたけれど。

 知佳は「すごいすごい」と、きゃらきゃら笑う。その無邪気な笑顔に救われるかのように、母も笑う。
 知佳の存在のおかげで、京佳は自分の罪を忘れていられる。いつかはきっと、知佳も母の能力を完全に知る時が来るだろう。

「京佳、知佳を見ていてくれる? 夕飯の支度をしてくるから」
「うん。手伝う事は?」
「大丈夫よ。遊んでいてあげて」

 知佳を見れば今度は、7の数字だけを床に並べている。どうやら次は七並べのようだ。ババ抜きには飽きたらしい。

「おかあさん、すごいね! おねえちゃんもちかのきもち、わかる?」
「……お姉ちゃんは、無理だよ……」

 表情からある程度読みとる事は出来る。京佳は人の心の機微には敏感な方だ。けれど、母のように直接心を読む事は出来ない。その辛さも、京佳は理解出来ていない。

「ちかもわかるようになるかなあ」

 知佳にとっては本当に、無邪気な言葉に過ぎなかっただろう。しかし京佳は────京佳だけは、その言葉を聞き逃す事は出来なかった。
 反射的に、右手を振り上げる。幼い妹の頬を叩こうとして、ハッとした。

 ……今、自分は何をしようとした……?

「……おねえちゃん?」

 知佳は何も知らない。母の言葉の意味を、理解してはいない。妹はまだ「知らない」事を許される年齢なのだから、と自分に言い聞かせる。ただ……この言葉を母が聞いたら、静かに、表に出すことなく傷付くだろう。

「……あのね……知佳」
「なぁに?」
「お母さんはね、お母さんだから解るの。お母さんにとって知佳は大切な娘だから、ずーっと見ていてくれるから、知佳の気持ちが解るんだよ」

 心を読むのではなく、表情を、雰囲気を感じる事で気持ちを読みとる。それも、母として為せる技だ。
 そう言い聞かせた京佳に、「ちか、おかあさんとずっといっしょー」と妹は無邪気に笑っていた。




「……あの時、ちゃんと教えていれば良かったのかな……」

 線香に火を付け、手を合わせ終え、京佳はぽつりと呟いた。隣で一緒に手を合わせていた妹が首を傾げる。

「姉さん?」
「子供の頃……お母さんの能力の事を、ちゃんと真剣に話していれば……」

 知佳は母の能力を覚えていただろうか。その一年後に、母は命を落とした。不慮の事故だった。知佳が大きくなったらと先延ばしにしていたからこそ、知らなかったからこそ、知佳は朱里を拒んでしまったのかも知れないと思う。

「それでも、私はきっと、理解出来なかったと思う」
「え?」
「私にはない能力だもの。……朱里には、辛い想いをさせてしまったけど。でも、逃げないって言ったのは、本気だから」

 妹は、強くなったと思う。瞳に宿る決意の色を見て、京佳はそっと知佳の肩を抱き寄せた。



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