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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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夜明けが来るまで【3】

雨の弓 目次  一次創作Index

『……そういう台詞は酔ってない時に言え、バカ』

 途端に光は消え、暗闇に襲われて。感じるのはコーリの体の柔らかさと、体温と、息遣いのみ。

「……とうこ……。光梨?」

 そっと、名を呼ぶ。生前の名と、死神としての名前を。
 いつだったか、「光梨」という名の由来を聞いた事がある。「明人」の名前から連想したのだと。

「明るい、って言ったら光でしょ?」

 そういって屈託無く笑ってくれた彼女を、思わず抱き締めた事さえ、もう遙か過去の事だ。

「あきひと、くん……」
「透子?」

 うっすらと開いた彼女の瞳に、起きたかと思って呼びかける。するとコーリはまたもやふにゃりと笑って告げた。

「だぁいすき……」

 吐息と共に囁かれた言葉に、ヨウはコーリを抱き締める腕に力を込めた。

「……そういう台詞は酔ってない時に言え、バカ」

 いくら恋人だとは言え、酔っている彼女に手を出せば後が怖い。
 まして外見が高校生のままだと言う事に加えて、酔ったせいで口調まで幼くなっているものだから、余計に背徳感を感じてしまう。
 だけど、これぐらいは……。
 まだ目が慣れぬ中、手探りで彼女の頬にそっと触れる。滑らかなその頬を探り当てて、小さな耳朶をそっと甘噛み。
 こめかみに、目尻に、小さく口づける。

「あき、……」

 寝言で自分の名を紡ぐ唇を、優しく塞ぐ。相も変わらず柔らかなそれに、貪りつきたくなる衝動を押し殺し、ヨウは初めてのキスのように数秒重ねただけで終わらせた。

「……おやすみ」

 これ以上自分を刺激すると、どんな行動に出るか解らない。
 コーリの息遣いに重ねるようにゆっくりと呼吸をして、ヨウは瞼を閉じて眠りについた。




「ん……なんか、くるし……」

 何だか息苦しくて、コーリはまだ抵抗する瞼を無理矢理こじ開けた。

「……っ!?」

 叫び出しそうになった唇を慌てて閉じて、同時に襲った頭のズキズキとした痛みを堪えて。コーリは自分の息苦しさの原因を知った。

(な、何でヨウくんが一緒に寝てるのよ……っ!)

 動ける隙間などない程にがっちりと抱き締められている。昨日は確か、ユミの誕生日パーティーで……。

「……起きたか……?」

 突然降ってきた低い声に、コーリはびくりと肩を震わせた。恐る恐る、そっと彼の顔を見上げると。
 呆れたように、けれどどこか嬉しそうに、コーリを見ているヨウの瞳にぶつかった。

「……な、何で……?」
「ウィスキーの一気飲みなんかしたの、覚えてるか?」
「え……? あ……」

 そういえば、瓶の中のお酒をなみなみと注いでグラスを煽った覚えがある。

「あれ……ウィスキーだった、の?」
「そ。ストレートで飲みやがって、このバカが」

 バカ、と言われながら小突かれた頭は、全然痛くない。いや、二日酔いのおかげで頭はズキズキと痛むのだけれど。

「しかも離してくれないから一緒に寝てた」

 ほら、と視線を下げれば、ヨウのシャツをしっかりと握り込んだ自分の右手。

「あ……っ」

 恥ずかしくなって咄嗟に手を離したのに、あっという間にヨウの大きな掌に捉えられてしまった。

「よ、ヨウくん……っ?」
「生殺しの責任、取ってくれるよな?」

 にっ、と不敵な顔で笑われて、身の危険を感じたコーリは慌てて離れようとするけれど、それをヨウが許してくれるはずもなく。あっという間にコーリの体は、力強い両腕に抱きすくめられ、呼吸さえ奪うかのように口づけられた。

「なぁ……。淋しそうにレインとユミを見てたって、……ホントか?」

 ともすればまた口づけられかねないそんな距離で、ヨウが言葉を紡いだ。

「……淋しそうなんて」
「光梨」
「……っ」

 強く呼ばれた名前に、嘘だとバレている事に気付かされる。

 ヨウの仕事はとても大切な仕事だ。彼が仕事をしなければ、彷徨う魂は劇的に膨れ上がってしまう。裁きの門さえくぐれずに、ゆらゆらと現世を歩く魂が。
 それを解っているから、なかなか会いに行かない自分を棚に上げていた。
 行こうとすればいつだって行ける、用事だっていくらでも作れる。それでも……仕事の邪魔をしてしまうかも知れない事が、それでヨウに嫌われてしまうかも知れない事が、怖くて。
 だけど。淋しいけれど。……昨日、彼がくれた一言がとても嬉しかったから。

「……大丈夫」
「え?」
「会いたいって思ってるの、私だけじゃないんでしょ?」

 その言葉を告げるのが、何だか気恥ずかしくて……未だ間近にあるヨウの首に両腕を巻き付け、引き寄せる。耳元で小さく笑う声が聞こえて、亜麻色の髪を弄る指先を感じた。

「……わがまま言ってもいいんだぞ?」
「……叶えられないわがままなら、いいたくないもの」
「それを言われると辛いな……」
「でもね? 一つだけ……今だけ、言っても良いなら」
「ん?」
「朝まで……こうしててくれる?」
「……了解」

 夜明けが来るまでの短い時間でも、こうして二人でいられればいい。

 ……と、言葉にせずとも二人とも同時に思っていたとは、お互いに知らない事実であった。


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