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2011.10/16 [Sun]
暁のヨナ 心の支え
暁のヨナ 目次 二次創作Index
6巻 決戦前、ハクの心情。
惹かれていく。何度も殺してきたはずの感情が、欲が、無意識に行動に表れてしまう程に。
「……また、震えてやがる」
ヨナとユンは今頃、クムジの船の中だ。ハクの体を震わせた少女は今、どんな想いでいるのだろう。
小刻みに震える右手を、左手で強く握り締める。けれど、体の内側から沸き起こる、高揚感にも似た武者震いは止まらない。
あの瞳に、あの力強い言葉に、射抜かれた。────心ごと。
行かせたくなかった。潜入など危険な仕事はさせたくなかった。
大事な大事な預かりものである彼女に。
「あの娘が心配かい?」
まるで、見透かすかのような意地悪めいた微笑みを浮かべたギガン船長に、「……ユンがいる」と短く告げる。
「私は娘が、と言ったんだが?」
「姫さんは、やると言ったら聞かないんで」
心配なんてするだけ無駄、と言おうとしたハクの頭を、ギガン船長は手に持つ煙管で容赦なく叩いた。
「……っ!?」
あまりにも突然の事で、防御さえ忘れた。たかが煙管なのに、地味に痛い。
「そんな言葉でごまかされると思うんじゃないよ。……あの娘は、あんたが思うほど弱くないさ」
「……知ってますよ」
いつの間に、あんな強い瞳をするようになったのだろう。ハクさえも圧倒させるほどの強い意志を、あの小さな体に秘めて。
行かせたくなかった。それは本音だ。
けれど、今のヨナならば────ハクがどれだけ言葉を尽くしても止められぬ彼の姫ならば────成功させてしまうかもしれない。そう思ったから、潜入作戦を認めた。
ヨナは言った。『私にも責任はある』と。
ハクとて、イル陛下の治世が正解だったかと問われれば、是とは言えない。何年も前から火の部族の土地は痩せていたし、この阿波も、目が行き届かなかったからこそこんな事態になっているのだから。
ただ……間違っていたかと問われても、否、と答えるだろう。
陛下は決して臆病な王ではなかった。もしかしたら、スウォンにいつか殺される事さえ予期していたのではないか────。そんな都合のいい考えまで浮かび上がるほど、ハクはイル陛下に、そしてヨナに、忠誠を誓っていた。
城で何も知らずに育ったヨナは、今必死で現実と戦っている。姫としての責任を僅かながらでも知って、ヨナという一人の人間として、己に出来ることを一生懸命考えている。
「……大人しく守られててくれれば、良かったんですがね」
「ちゃんと守っているだろう。ジェハから聞いたが、千樹草を取りに行ったあの娘の支えは、あんた達だったそうだよ」
傍にいなかったというのに、ヨナの支えであったとはどういうことだ? と訝しむと、ギガン船長は「解ってないねぇ」と軽く息を吐いた。
「あんた達の誰かが怪我をして、その為に千樹草が必要だというなら、矢が降る戦場の真っ只中にでも取りに行く、と。……それは、あんた達を助けたいと願う想いから出た言葉だろ?」
ユン、キジャ、シンア。そして、ハク。この身が、この存在が、ヨナの心を支え、守っている────と。
「女だってね、守られてばかりじゃいられないんだ。相手と対等になりたいなら、尚更さ」
『少しはハクに、近づけたかな?』
言葉が、蘇る。知らず、口元が緩む。
「……俺と対等になろうなんて、千年早いですよ、姫様」
追い掛けてくればいい、何度でも。
(……追いつかせねぇから)
主従の枠を壊し、対等になることは出来ないからせめて。
護衛という身分であっても、ヨナの目標であり続けられるように。
「船はまだ動かない、少しは休んでおきな。あっちの坊やみたいにね」
「は? 坊や?」
言い残して去っていくギガン船長の視線の先には、眠って起きては空中に喧嘩を売っているキジャがいる。
(……ツッコミ役が誰もいねぇし……。ほっとくか)
いつもはユンの役目だ。そのユンは今、ヨナと共に船の中。
『絶対に、ヨナは死なせない』
「……任せた、ユン」
もう一度、はっきりと言葉にして。ハクはクムジの船がある方角をじっと見つめた。
暁のヨナ 目次
6巻 決戦前、ハクの心情。
惹かれていく。何度も殺してきたはずの感情が、欲が、無意識に行動に表れてしまう程に。
「……また、震えてやがる」
ヨナとユンは今頃、クムジの船の中だ。ハクの体を震わせた少女は今、どんな想いでいるのだろう。
小刻みに震える右手を、左手で強く握り締める。けれど、体の内側から沸き起こる、高揚感にも似た武者震いは止まらない。
あの瞳に、あの力強い言葉に、射抜かれた。────心ごと。
行かせたくなかった。潜入など危険な仕事はさせたくなかった。
大事な大事な預かりものである彼女に。
「あの娘が心配かい?」
まるで、見透かすかのような意地悪めいた微笑みを浮かべたギガン船長に、「……ユンがいる」と短く告げる。
「私は娘が、と言ったんだが?」
「姫さんは、やると言ったら聞かないんで」
心配なんてするだけ無駄、と言おうとしたハクの頭を、ギガン船長は手に持つ煙管で容赦なく叩いた。
「……っ!?」
あまりにも突然の事で、防御さえ忘れた。たかが煙管なのに、地味に痛い。
「そんな言葉でごまかされると思うんじゃないよ。……あの娘は、あんたが思うほど弱くないさ」
「……知ってますよ」
いつの間に、あんな強い瞳をするようになったのだろう。ハクさえも圧倒させるほどの強い意志を、あの小さな体に秘めて。
行かせたくなかった。それは本音だ。
けれど、今のヨナならば────ハクがどれだけ言葉を尽くしても止められぬ彼の姫ならば────成功させてしまうかもしれない。そう思ったから、潜入作戦を認めた。
ヨナは言った。『私にも責任はある』と。
ハクとて、イル陛下の治世が正解だったかと問われれば、是とは言えない。何年も前から火の部族の土地は痩せていたし、この阿波も、目が行き届かなかったからこそこんな事態になっているのだから。
ただ……間違っていたかと問われても、否、と答えるだろう。
陛下は決して臆病な王ではなかった。もしかしたら、スウォンにいつか殺される事さえ予期していたのではないか────。そんな都合のいい考えまで浮かび上がるほど、ハクはイル陛下に、そしてヨナに、忠誠を誓っていた。
城で何も知らずに育ったヨナは、今必死で現実と戦っている。姫としての責任を僅かながらでも知って、ヨナという一人の人間として、己に出来ることを一生懸命考えている。
「……大人しく守られててくれれば、良かったんですがね」
「ちゃんと守っているだろう。ジェハから聞いたが、千樹草を取りに行ったあの娘の支えは、あんた達だったそうだよ」
傍にいなかったというのに、ヨナの支えであったとはどういうことだ? と訝しむと、ギガン船長は「解ってないねぇ」と軽く息を吐いた。
「あんた達の誰かが怪我をして、その為に千樹草が必要だというなら、矢が降る戦場の真っ只中にでも取りに行く、と。……それは、あんた達を助けたいと願う想いから出た言葉だろ?」
ユン、キジャ、シンア。そして、ハク。この身が、この存在が、ヨナの心を支え、守っている────と。
「女だってね、守られてばかりじゃいられないんだ。相手と対等になりたいなら、尚更さ」
『少しはハクに、近づけたかな?』
言葉が、蘇る。知らず、口元が緩む。
「……俺と対等になろうなんて、千年早いですよ、姫様」
追い掛けてくればいい、何度でも。
(……追いつかせねぇから)
主従の枠を壊し、対等になることは出来ないからせめて。
護衛という身分であっても、ヨナの目標であり続けられるように。
「船はまだ動かない、少しは休んでおきな。あっちの坊やみたいにね」
「は? 坊や?」
言い残して去っていくギガン船長の視線の先には、眠って起きては空中に喧嘩を売っているキジャがいる。
(……ツッコミ役が誰もいねぇし……。ほっとくか)
いつもはユンの役目だ。そのユンは今、ヨナと共に船の中。
『絶対に、ヨナは死なせない』
「……任せた、ユン」
もう一度、はっきりと言葉にして。ハクはクムジの船がある方角をじっと見つめた。
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