Mirage

オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

Entries

暁のヨナ 心の支え

暁のヨナ 目次  二次創作Index

6巻 決戦前、ハクの心情。



 惹かれていく。何度も殺してきたはずの感情が、欲が、無意識に行動に表れてしまう程に。

「……また、震えてやがる」

 ヨナとユンは今頃、クムジの船の中だ。ハクの体を震わせた少女は今、どんな想いでいるのだろう。
 小刻みに震える右手を、左手で強く握り締める。けれど、体の内側から沸き起こる、高揚感にも似た武者震いは止まらない。

 あの瞳に、あの力強い言葉に、射抜かれた。────心ごと。
 行かせたくなかった。潜入など危険な仕事はさせたくなかった。
 大事な大事な預かりものである彼女に。

「あの娘が心配かい?」

 まるで、見透かすかのような意地悪めいた微笑みを浮かべたギガン船長に、「……ユンがいる」と短く告げる。

「私は娘が、と言ったんだが?」
「姫さんは、やると言ったら聞かないんで」

 心配なんてするだけ無駄、と言おうとしたハクの頭を、ギガン船長は手に持つ煙管で容赦なく叩いた。

「……っ!?」

 あまりにも突然の事で、防御さえ忘れた。たかが煙管なのに、地味に痛い。

「そんな言葉でごまかされると思うんじゃないよ。……あの娘は、あんたが思うほど弱くないさ」
「……知ってますよ」

 いつの間に、あんな強い瞳をするようになったのだろう。ハクさえも圧倒させるほどの強い意志を、あの小さな体に秘めて。
 行かせたくなかった。それは本音だ。
 けれど、今のヨナならば────ハクがどれだけ言葉を尽くしても止められぬ彼の姫ならば────成功させてしまうかもしれない。そう思ったから、潜入作戦を認めた。

 ヨナは言った。『私にも責任はある』と。
 ハクとて、イル陛下の治世が正解だったかと問われれば、是とは言えない。何年も前から火の部族の土地は痩せていたし、この阿波も、目が行き届かなかったからこそこんな事態になっているのだから。
 ただ……間違っていたかと問われても、否、と答えるだろう。
 陛下は決して臆病な王ではなかった。もしかしたら、スウォンにいつか殺される事さえ予期していたのではないか────。そんな都合のいい考えまで浮かび上がるほど、ハクはイル陛下に、そしてヨナに、忠誠を誓っていた。
 城で何も知らずに育ったヨナは、今必死で現実と戦っている。姫としての責任を僅かながらでも知って、ヨナという一人の人間として、己に出来ることを一生懸命考えている。

「……大人しく守られててくれれば、良かったんですがね」
「ちゃんと守っているだろう。ジェハから聞いたが、千樹草を取りに行ったあの娘の支えは、あんた達だったそうだよ」

 傍にいなかったというのに、ヨナの支えであったとはどういうことだ? と訝しむと、ギガン船長は「解ってないねぇ」と軽く息を吐いた。

「あんた達の誰かが怪我をして、その為に千樹草が必要だというなら、矢が降る戦場の真っ只中にでも取りに行く、と。……それは、あんた達を助けたいと願う想いから出た言葉だろ?」

 ユン、キジャ、シンア。そして、ハク。この身が、この存在が、ヨナの心を支え、守っている────と。

「女だってね、守られてばかりじゃいられないんだ。相手と対等になりたいなら、尚更さ」

『少しはハクに、近づけたかな?』

 言葉が、蘇る。知らず、口元が緩む。

「……俺と対等になろうなんて、千年早いですよ、姫様」

 追い掛けてくればいい、何度でも。

(……追いつかせねぇから)

 主従の枠を壊し、対等になることは出来ないからせめて。
 護衛という身分であっても、ヨナの目標であり続けられるように。

「船はまだ動かない、少しは休んでおきな。あっちの坊やみたいにね」
「は? 坊や?」

 言い残して去っていくギガン船長の視線の先には、眠って起きては空中に喧嘩を売っているキジャがいる。

(……ツッコミ役が誰もいねぇし……。ほっとくか)

 いつもはユンの役目だ。そのユンは今、ヨナと共に船の中。

『絶対に、ヨナは死なせない』

「……任せた、ユン」

 もう一度、はっきりと言葉にして。ハクはクムジの船がある方角をじっと見つめた。



暁のヨナ 目次
スポンサーサイト

Comment

Comment_form

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

左サイドMenu

プロフィール

琳架

Author:琳架

web拍手 by FC2

 ↑ 9/1変更 (全6種)
 桜涙・雨弓・明陽
 図書戦・LOVE SO LIFE・ヨナ
  ※携帯版が確認出来ないので、こちらに統合しました。

Twitter・SS専用アカウント→ @sakuraironoyoru

FC2カウンター

現在の閲覧者数:

カレンダー

07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -

最新記事

検索フォーム

月別アーカイブ

西暦をクリックして下さい。

カウンター

FC2ブログランキング

ランキングに参加しています。

FC2Blog Ranking

右サイドメニュー

QRコード

QR