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お祝いはチョコケーキ【1】 逃げるが勝ち

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突発的短編 (現代・同級生)



 試合終了のホイッスルが鳴り響く。そして次の瞬間には勝利を喜ぶチームメイトの歓声と、そして、数多の女子達の黄色い声。
 そんな光景を、里沙は自分の教室から眺めていた。

「……お疲れ様。良かったね」

 ぽつりと呟いて、くるりと踵を返す。試合結果は解ったし、彼の活躍も見られた。いつまでもここにいるわけにはいかない理由が、彼女にはあった。

『なあ、一回ぐらい試合見に来いよ~』

 図書館で勉強している里沙の隣、同じように試験勉強をしていた伊吹が、そう話し出した。里沙は数学の公式を目で追いかけ、問題を解きながらしれっと答える。

『やーよ。炎天下の試合なんて地獄じゃない』
『そーいってお前、冬の練習試合だって見に来た事ないよな』
『だって寒いし』
『即答かよ。……マネージャーだった頃はそんなの関係なかったじゃん』
『当たり前でしょ、やると決めたんだから暑くたって寒くたってやるわよ、仕事なんだから』

 大体そのマネージャーだって、伊吹にどうしてもと頼み込まれてやったのだ。元々文化系の里沙には、マネージャーの仕事は相当きついものだったけれど、それでもくじけずにやってこられたのは、伊吹がさりげなく助けてくれたおかげだという事も解っている。
 そのマネージャーを辞めたのは一年前。それからも伊吹との交流は続いていたけれど、表だって試合を見に行く事は決してなかった。
 伊吹の彼女に、誤解させたくなかったから。そして自分が、彼女と一緒にいる伊吹を見たくなかったから。
 転校してきた伊吹の彼女は、元々幼馴染みの関係だったという。転校してきてすぐにサッカー部のマネージャーとして入部し、以前通っていた学校でもやっていたとかで、里沙の手は必要なくなってしまった。
 だから……辞めた。サッカー部の面々には引き留められたけれど、他ならぬ伊吹の彼女に「私一人でも大丈夫ですよ?」と言われてしまったし。

「さってと、帰ったらお祝いケーキ作ろ……っと……?」
「なら、チョコケーキな」
「ああ、チョコケーキね、了解……じゃなくて! 何であんたがここにいるのよ!?」

 試合が終わってすぐに里沙は教室から出てきた。それから階段下までおよそ一分。それから昇降口まででおよそ二分。計三分の間に、校庭にいたはずの彼がここに来られるはずはない。いつもならチームメイトにもみくちゃにされているか、女の子達に囲まれているか、それこそ彼女と一緒にいるかの三択しかなかったのに。
 伊吹は首にタオルを巻いたまま、本当に試合が終わったそのままの格好で、下駄箱に寄りかかっていた。

「賭に勝ったから」
「か、賭……? 何の……?」
「今日の試合中、俺がお前を見つけ出せなかったらお前の勝ち。見つけ出せたら、俺の勝ち」

 そんな、勝手な賭なんて里沙は知らない。そもそも、賭ける意味が解らない。

「……他の奴らは気付いてたのに、俺だけ気付かなかったんだ」
「え、何……」
「お前がちゃんと、毎回の試合を見ててくれた事」
「み、見間違いよ見間違い。今日は、たまたま学校に忘れ物しちゃったから取りに来ただけ……で……」
「へえ……? たまたま、ね……」

 意地悪く笑う伊吹が、下駄箱から背中を離して、里沙に向かってくる。思わず後ずさりしようとすれば、その前に素早く腕を捉えられた。

「な、伊吹……」
「里沙、マネージャーに戻る気ない?」
「……は?」

 真剣な顔をして何を言い出すかと思えば、と里沙は強ばっていた肩の力を抜いた。

「何なのよ、もう……。さすがにちょっと怖かったわよ? 今のは」
「別に怖がらすつもりはなかったんだけど」
「で? 何でまた私がマネージャーなのよ?」
「ああ、理由は簡単。希美が昨日で辞めたから」

 希美────その名前を聞く度に胸が痛くなっていたけれど。その彼女が、マネージャーを辞めた?

「何で!? だって」
「俺があいつを振ったから、かな」
「振ったって……え?」
「うん、好きな奴いるからって」

 あっけらかんと答えられたその言葉を理解するのに、里沙は数秒を要した。
 そして、理解した後……必死で表情を取り繕った。彼女と別れてまで好きな人が、伊吹にはいる。そう思っただけで、涙が出そうになるけれど。

「知らなかったわ、伊吹に好きな子がいるなんて」
「一応態度には出してたつもりなんだけど? 試合見に来いって誘ったり、図書館で一緒に勉強したり。試合に勝ったら手作りケーキ要求したり」
「そう、なんだ……。……あれ?」

 ちょっと待って。伊吹に手作りケーキを作っているのは里沙だけ、の、はず……。

「伊吹、それって……」

 彼が好きなのは、もしかして……?
 半ば確信めいた瞳で伊吹を見上げれば、それが正解だとでも言うように、彼はニッと口の端をつり上げた。

「続きはマネージャーになったら教えてやる」
「ええっ? ちょっ、ずるいっ!」
「見込みのない賭はしたくないからなぁ。あ、お祝いのチョコケーキ忘れんなよー?」

 何故か一人で納得しながら校庭に向かう伊吹に向かって、里沙は思いっきり叫んだ。

「って、ここまで期待させといて最後がケーキって何っ!?」

 結局校庭まで彼を追いかけていって、サッカー部の面々になんやかやと引き留められ、気付けば打ち上げにまで参加して、次の日には勝手に入部届けまで出されている事を、この時の里沙はまだ知らない。


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