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桜涙 【過去の夢】

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時系列は本編【8】 涙のすぐ後ですが、中身は一海の幼い頃の回想です。

二人で買い物に出かけた一海は、朱里とはぐれて……。



 10年前────。母に買い物を頼まれて、幼い朱里と一緒に出かけた。けれど、繋いでいた手はいつしか人混みによって離れ、一海は必死で朱里を捜した。

(朱里……っ! どこだ!?)

 どこではぐれたかさえも解らない。こんな人混みの中で、朱里が受ける苦痛を想像すると、いても経ってもいられなかった。
 5歳の頃の朱里は、まだ能力の制御が未熟だった。僅かに他人に触れただけでもその心を読みとってしまう。
 一海とて、本当は……心の中を読まれるのは、怖い。それでも、「うまくできない」と泣いた朱里を突き放す事なんか出来なかった。
 朱里は自分から人に触れる事さえなくなってしまった。だから一海は決めたのだ。朱里に触れる時だけは、嘘偽りのない、本音で接する事を。
 小学6年生とは思えぬこの考えは、京佳の教育の賜だろう。
 来た道を戻り、隅々まで目を走らせて。俯いて歩く小さな少女を見つけた時、一海は周りなど気にせずに大声で名を呼んだ。

「朱里っ!!」
「おにいちゃん!」

 俯いていた朱里の顔がパッと上がり、一海の姿を見つけた途端に走り寄ってくる。視線を合わせるように座り込んで、一海はその小さな体をぎゅっと抱き締めた。

「良かった、どこに行ったかと思った……。大丈夫? 人に酔ってない?」
「だいじょうぶ。……あのおねえさんが、つれてきてくれた」
「おねえさん?」

 今まで朱里しか入っていなかった視界。朱里の仕草に合わせて視線を上げると、そこには同じクラスで一緒に委員長をしている三島みしま咲菜さなの姿があった。
 朱里の視線の高さに合わせるように屈んだ咲菜が、にっこりと笑う。

「この子、東堂くんの妹?」
「あ、うん、こいつは従妹で……。三島が朱里をここまで連れてきてくれたんだ? ありがとう」
「あかりちゃんっていうの? 可愛い名前だね」

 きょとん、とした朱里が一海を見上げる。どうやら、一海の知り合いだと解っていないらしい。苦笑して、一海は咲菜を紹介した。

「朱里、このおねえさんは三島咲菜って言って、俺と同じクラスの人なんだ」
「……おともだち?」
「まぁ、そんなもん。ほら、ちゃんとお礼言おう?」

 一海の友達と知って安心したのか、朱里は一海に言われるまでもなく、ぺこりと頭を下げていた。

「ありがとう、ございます」
「やだ、そんな……大した事してないよ?」
「いや、結構大したことだよ。何しろ、朱里が俺以外の誰かと二人で歩くなんて無いと思ってたくらいだもん」

 何がどうなって朱里と咲菜が一緒にいたのかは解らない。まして他人は畏怖の対象そのものである朱里が、一海以外の人間の傍にいられたのだから。

「咲菜ー? 帰るわよー」
「あ。お母さんが呼んでる。じゃあね東堂くん、また学校でね!」
「ああ。じゃあな!」
「あかりちゃんも、ばいばい?」
「……ばいばい」

 ぎこちなく、朱里が小さく手を振り返す。その行動にも、一海は驚いた。咲菜と朱里は面識がない、はずなのに……朱里が手を振り返し、「ばいばい」とまで告げるとは。

「……あ」
「ん? どうした? ……ハンカチ?」

 朱里の細い手首に巻かれた、細長く折りたたまれたハンカチ。ウサギの耳のように見えるハンカチの端は、少しだけしわしわになっていた。

「あのおねえさんが、まいてくれたの。て、つなげなかったから……」

 咲菜が何をどう理解したのかは知らないけれど、朱里が触れられる事を拒んだ末の策だったのだろう。

「おにいちゃん、かえしておいてくれる?」
「うん。ちゃんと洗って返そうな?」
「うん!」

 朱里の無邪気な笑顔を見たのは、どれくらいぶりだっただろう────。

 あの笑顔の後、一海はすぐに父の仕事の都合で引っ越さねばならなくなって、朱里から離れた。離れている間に、あんな事になっているとはつゆ知らず。


*****


「一海兄さん?」

 ゆらゆらと肩を押され、一海は過去の夢から覚めた。今目の前にいるのは、15歳になった朱里だ。あの頃より頑なになってしまった、可愛い従妹。

「……ん、どうした朱里?」
「えっと……ちょっと避難」
「ははっ、すっごい量だろ?」

 次から次へとテーブルに並ぶ料理。京佳が朱里の為にと用意したはいいものの、さすがにその数の多さに朱里もびっくりしているらしい。

「胸、苦しくないか?」
「……大丈夫。今は……」
「治療すれば、治るんだぞ?」

 一海がそう言っても、朱里は俯くだけだ。そして、小さく頭を横に振る。顔を隠す長い黒髪が、一緒に揺れる。

「……ごめんなさい……」
「謝らなくていい。……その代わり、俺も諦めないからな」

 朱里に治療を受けさせる事。この可愛い従妹を、生き長らえさせる為に。
 10年もの間、朱里一人で背負わせてしまったものを、少しでも軽くしてやる為に。

(明日、池上を呼び出すか)

 朱里は気付かなかったようだが、桜の木の下で一海が朱里を抱き締めたのは、その向こうに竜城がいたからだ。
 その時の彼の顔の意味を、多分一海は正確に読みとれていると思う。
 朱里にとって、竜城と藍里は別格の存在なのは、倒れた時の話で解った。恐らく、朱里は藍里と竜城の許しがなければ生きてはくれない。

「一海、朱里! 出来たわよー」

 台所から聞こえた京佳の明るい声に、一海は苦笑して朱里に声を掛けた。

「……だとさ? 行こう」

 肩をぽん、と叩いて立ち上がらせる。朱里の瞳が何かを言いたげで、「ん?」と訊ねると。

「……一海兄さん、頑張ってね」

 たくさんの料理。それを全部食べるのは、かなりの労力が必要だ。

「頑張るのは朱里。俺は程々にしとく」
「……ずるい……っ」

 少しだけ拗ねた朱里を尻目に、一海はくくっと喉の奥で笑った。


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