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2011.09/06 [Tue]
執事様のお気に入り 林檎と梨の贈り物
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1周年記念SS第3弾・『執事様のお気に入り 伯王×良』です。
こちらは9/30までフリー配布と致しますので、お気に召した方はどうぞお持ち帰り下さい。
ですが、著作権は放棄しておりませんので、転載される場合にはこのブログのSSである事を明記して頂ければと思います。
特に報告の必要はありませんが、一言頂けると喜びます(笑)
アンケートで一位になった三作品、無事に書き上げられました。亀より遅い更新のブログとなっておりますが、今後ともどうぞよろしくお願い致します。
では、続きからどうぞ。
「……氷村、クリーム付いてる」
「えっ、どこ?」
ペタペタと顔を触っても、カスタードクリームは見つからない。呆れたように伯王は指先を伸ばして、唇近くの頬をぐいっと拭った。
「……つまみ食いしたな?」
「だって味見しないとっ!」
「威張るな」
口調は厳しくても、伯王の瞳も笑っている。良はかき混ぜていたスプーンでカスタードクリームをすくい取り、伯王に向けた。
「はいっ、伯王!」
「な」
「ふっふっふ~、これで伯王も共犯だよ!」
「お前な……」
羨ましげに、あるいは温かく見つめている多数の視線に気付かずに、二人は次の工程へと移った。
良と伯王と真琴、そしてクッキング部の面々は今、調理室で大量の林檎と梨と格闘している真っ最中だった。
時間は少し遡って、1時間前─────。
「あっ、伯王避けてーっ!」
「は? うわっ」
ゴロゴロと転がり落ちてくる、赤と黄色の丸い物体。慌てて階段の端に寄って、それをやり過ごす。が、転がった球体を追いかけるように階段を下りてくる主人の姿に、伯王は思わず「待て!」と叫んだ。
「階段で走るな、また転ぶぞ!」
いつだかもオレンジを腕一杯に抱えていて、階段から落ちかけた良だ。もっとも、何も持っていなくとも、そそっかしい彼女はいつだって転びやすい行動を孕んでいるが。
「ごめんごめん、大丈夫? 伯王」
「大丈夫だ。……今度は林檎と梨か?」
「そう! おばあちゃん達からの差し入れ!」
階段下で止まった球体の正体は、真っ赤な林檎と、薄いクリーム色の梨だった。一つ一つ手にとって、自分の腕に乗せる。
「あっ、いいよ伯王、持てるから」
「ダメだ。お前の場合、いつ転ぶか解らないからな。……それにしてもすごい量だな」
「あ、あはは……」
寮で食事は出るのに、祖父母はこうやっていつも色んな物を送ってくれる。ただ、果物だと、保存方法を間違えるとあっという間に傷むのが難点だ。
「さすがに一気には食べきれないから……これから調理室借りて、お菓子作って、みんなでお茶会でもしようかなって」
「……手伝う」
「え、大丈夫だよ? クッキング部の人達もいるし、楠さんもやりたいって」
(……それが余計に心配なんだよ)
白薔薇会の時の菓子作りを思い出す。怪しいものの毒味はすべて隼斗だったが、作る側も相当酷かった。料理とお菓子、どちらもキッチンで行動する物なのに、作り方の違いだけで大騒ぎだったのだ。
「いいから。俺も多少は覚えたし」
「……うんっ、じゃあ一緒に作ろう!」
林檎と梨を二人で腕に抱えて、調理室へと移動し、冒頭の会話に戻るのだった。
林檎と言えば定番のアップルパイ、アップルマフィンにアップルケーキ。梨のコンポートにババロア。思いつく限りのレシピで、クッキング部の面々に教えながら良自身も作っている。忙しいと言えば忙しいが、元々大人しくしているのは苦手な彼女は、ちょろちょろと動き回っていた方がらしいと思う。
「……それにしても、いつまで見張っていれば良いんだ?」
「まだまだだよー。時々かき混ぜてね? 焦げちゃうから」
伯王の目の前には、二つの鍋。中身は、ほぼ同じ色をしている。左側が林檎、右側が梨のジャムだ。
ぐつぐつと煮えていく甘い香りに誘われながら、伯王はゆっくりと木べらをかき混ぜていた。
「さあ、お茶会を始めましょう~!」
花園部長の一声で、一つの大きなテーブルにたくさんの人が集まる。そんな中、良は遠くからその様子を眺めていた。
「氷村? どうした、疲れたのか?」
「えっ、そんなことないよ、どうして?」
「いつもなら真っ先に取りに行くだろ?」
確かに、いつもの良ならば真っ先に取りに行くだろう。けれど今は、群がる人混みの中に行こうとは思わなかった。
「うーん、何となく、見ていたくなったの」
「ん?」
「おじいちゃんとおばあちゃんが送ってくれた物で作ったお菓子で、こんなに人が集まってくれて。……何かね、おじいちゃんとおばあちゃんが私の周りにいる人達を繋ぎ止めてくれてるみたいな、そんな気がしたの」
転校当初からは考えられないほど、良の周りには人が集まる。他のLクラス生とは真逆な彼女を煙たがる生徒は多かったし、良は確かに異端だった。
「……それは、違うだろ」
「ん?」
「お前の周りに人が集まるのは、お前自身にそういう力があるからだ」
伯王とて、出会ったあの日に、「珍しい」と思った。同時に、この双星館では辛いであろう事も解っていた。
(……でも、氷村は負けなかった)
何事にも真っ直ぐだった。全力で立ち向かっていって、いつしか彼女の周りには人が集まっていった。
庵がいつか言っていた、「感染していくウィルス」も、あながち間違いではないかも知れない。
「ありがとっ、伯王! でもね?」
「何だ?」
「伯王とか、薫子さんとか、庵さんとか隼斗さんとか、みんなが私の傍にいてくれるからだよ?」
良は、そう思う。きっと、良一人だったら今でもクラスから浮いていただろう。薫子の存在があったとしても。
でも、あの日。伯王と会って、庵や隼斗と会って。学内でも有名な伯王が自分の専属の執事になってくれたから、物珍しさで近寄ってくる人も多かった。
だから、今、良がたくさんの人達に囲まれて学校生活を送れるのは、周りの人達のおかげだ。そう、大きな一つのテーブルで、たくさんのお菓子を物色して、美味しそうに食べてくれるたくさんの人達の。
「はい良ちゃん、良ちゃんの分も取ってきたわよ~」
「わ、ありがとう薫子さん!」
「二人とも、お待たせ。伯王が作ったジャムで紅茶を淹れてみたよ」
「どこに行ったかと思えば……」
伯王には梨のジャム入り紅茶、良の前にはりんごのジャム入り紅茶。薫子のリクエストは良と同じりんごジャムの紅茶だった。
「んーっ、美味しい! 伯王、上手く出来てるよこのジャム!」
「梨もなかなかだな。……飲むか?」
「うんっ! じゃ、伯王もこっち飲んでみて~」
二人で飲みかけを交換して、口を付けて。二人で「美味しい」と言葉にした途端、薫子がきょとんとした後にくすくすっと、口元に手を当てて笑い始めた。
「ふふふっ、本当に仲良しさんですね、良ちゃんと伯王さん」
「……少し妬けるぞ~、伯王~」
「は? 何だ一体!」
訳が解らぬまま、自分たちの行動を顧みて……次の瞬間、二人の顔が赤くなったのは、誰もが見ないふりをした。
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1周年記念SS第3弾・『執事様のお気に入り 伯王×良』です。
こちらは9/30までフリー配布と致しますので、お気に召した方はどうぞお持ち帰り下さい。
ですが、著作権は放棄しておりませんので、転載される場合にはこのブログのSSである事を明記して頂ければと思います。
特に報告の必要はありませんが、一言頂けると喜びます(笑)
アンケートで一位になった三作品、無事に書き上げられました。亀より遅い更新のブログとなっておりますが、今後ともどうぞよろしくお願い致します。
では、続きからどうぞ。
「……氷村、クリーム付いてる」
「えっ、どこ?」
ペタペタと顔を触っても、カスタードクリームは見つからない。呆れたように伯王は指先を伸ばして、唇近くの頬をぐいっと拭った。
「……つまみ食いしたな?」
「だって味見しないとっ!」
「威張るな」
口調は厳しくても、伯王の瞳も笑っている。良はかき混ぜていたスプーンでカスタードクリームをすくい取り、伯王に向けた。
「はいっ、伯王!」
「な」
「ふっふっふ~、これで伯王も共犯だよ!」
「お前な……」
羨ましげに、あるいは温かく見つめている多数の視線に気付かずに、二人は次の工程へと移った。
良と伯王と真琴、そしてクッキング部の面々は今、調理室で大量の林檎と梨と格闘している真っ最中だった。
時間は少し遡って、1時間前─────。
「あっ、伯王避けてーっ!」
「は? うわっ」
ゴロゴロと転がり落ちてくる、赤と黄色の丸い物体。慌てて階段の端に寄って、それをやり過ごす。が、転がった球体を追いかけるように階段を下りてくる主人の姿に、伯王は思わず「待て!」と叫んだ。
「階段で走るな、また転ぶぞ!」
いつだかもオレンジを腕一杯に抱えていて、階段から落ちかけた良だ。もっとも、何も持っていなくとも、そそっかしい彼女はいつだって転びやすい行動を孕んでいるが。
「ごめんごめん、大丈夫? 伯王」
「大丈夫だ。……今度は林檎と梨か?」
「そう! おばあちゃん達からの差し入れ!」
階段下で止まった球体の正体は、真っ赤な林檎と、薄いクリーム色の梨だった。一つ一つ手にとって、自分の腕に乗せる。
「あっ、いいよ伯王、持てるから」
「ダメだ。お前の場合、いつ転ぶか解らないからな。……それにしてもすごい量だな」
「あ、あはは……」
寮で食事は出るのに、祖父母はこうやっていつも色んな物を送ってくれる。ただ、果物だと、保存方法を間違えるとあっという間に傷むのが難点だ。
「さすがに一気には食べきれないから……これから調理室借りて、お菓子作って、みんなでお茶会でもしようかなって」
「……手伝う」
「え、大丈夫だよ? クッキング部の人達もいるし、楠さんもやりたいって」
(……それが余計に心配なんだよ)
白薔薇会の時の菓子作りを思い出す。怪しいものの毒味はすべて隼斗だったが、作る側も相当酷かった。料理とお菓子、どちらもキッチンで行動する物なのに、作り方の違いだけで大騒ぎだったのだ。
「いいから。俺も多少は覚えたし」
「……うんっ、じゃあ一緒に作ろう!」
林檎と梨を二人で腕に抱えて、調理室へと移動し、冒頭の会話に戻るのだった。
林檎と言えば定番のアップルパイ、アップルマフィンにアップルケーキ。梨のコンポートにババロア。思いつく限りのレシピで、クッキング部の面々に教えながら良自身も作っている。忙しいと言えば忙しいが、元々大人しくしているのは苦手な彼女は、ちょろちょろと動き回っていた方がらしいと思う。
「……それにしても、いつまで見張っていれば良いんだ?」
「まだまだだよー。時々かき混ぜてね? 焦げちゃうから」
伯王の目の前には、二つの鍋。中身は、ほぼ同じ色をしている。左側が林檎、右側が梨のジャムだ。
ぐつぐつと煮えていく甘い香りに誘われながら、伯王はゆっくりと木べらをかき混ぜていた。
「さあ、お茶会を始めましょう~!」
花園部長の一声で、一つの大きなテーブルにたくさんの人が集まる。そんな中、良は遠くからその様子を眺めていた。
「氷村? どうした、疲れたのか?」
「えっ、そんなことないよ、どうして?」
「いつもなら真っ先に取りに行くだろ?」
確かに、いつもの良ならば真っ先に取りに行くだろう。けれど今は、群がる人混みの中に行こうとは思わなかった。
「うーん、何となく、見ていたくなったの」
「ん?」
「おじいちゃんとおばあちゃんが送ってくれた物で作ったお菓子で、こんなに人が集まってくれて。……何かね、おじいちゃんとおばあちゃんが私の周りにいる人達を繋ぎ止めてくれてるみたいな、そんな気がしたの」
転校当初からは考えられないほど、良の周りには人が集まる。他のLクラス生とは真逆な彼女を煙たがる生徒は多かったし、良は確かに異端だった。
「……それは、違うだろ」
「ん?」
「お前の周りに人が集まるのは、お前自身にそういう力があるからだ」
伯王とて、出会ったあの日に、「珍しい」と思った。同時に、この双星館では辛いであろう事も解っていた。
(……でも、氷村は負けなかった)
何事にも真っ直ぐだった。全力で立ち向かっていって、いつしか彼女の周りには人が集まっていった。
庵がいつか言っていた、「感染していくウィルス」も、あながち間違いではないかも知れない。
「ありがとっ、伯王! でもね?」
「何だ?」
「伯王とか、薫子さんとか、庵さんとか隼斗さんとか、みんなが私の傍にいてくれるからだよ?」
良は、そう思う。きっと、良一人だったら今でもクラスから浮いていただろう。薫子の存在があったとしても。
でも、あの日。伯王と会って、庵や隼斗と会って。学内でも有名な伯王が自分の専属の執事になってくれたから、物珍しさで近寄ってくる人も多かった。
だから、今、良がたくさんの人達に囲まれて学校生活を送れるのは、周りの人達のおかげだ。そう、大きな一つのテーブルで、たくさんのお菓子を物色して、美味しそうに食べてくれるたくさんの人達の。
「はい良ちゃん、良ちゃんの分も取ってきたわよ~」
「わ、ありがとう薫子さん!」
「二人とも、お待たせ。伯王が作ったジャムで紅茶を淹れてみたよ」
「どこに行ったかと思えば……」
伯王には梨のジャム入り紅茶、良の前にはりんごのジャム入り紅茶。薫子のリクエストは良と同じりんごジャムの紅茶だった。
「んーっ、美味しい! 伯王、上手く出来てるよこのジャム!」
「梨もなかなかだな。……飲むか?」
「うんっ! じゃ、伯王もこっち飲んでみて~」
二人で飲みかけを交換して、口を付けて。二人で「美味しい」と言葉にした途端、薫子がきょとんとした後にくすくすっと、口元に手を当てて笑い始めた。
「ふふふっ、本当に仲良しさんですね、良ちゃんと伯王さん」
「……少し妬けるぞ~、伯王~」
「は? 何だ一体!」
訳が解らぬまま、自分たちの行動を顧みて……次の瞬間、二人の顔が赤くなったのは、誰もが見ないふりをした。
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