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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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図書館戦争 重ねた未来

その他版権 目次 二次創作Index

イメージをぶち壊している可能性が高いので、それでも良い方のみ続きからどうぞ。
小牧教官と毬江ちゃんです。……多分。


 突然、膝から下にドンッと衝撃が来た。下を見てみると、細い腕が二本、がっちりと毬江の両足を抱え込んでいる。この腕の持ち主は……と、背後を振り返ると、毬江を大きな瞳で見上げている幼子だった。
 そして、その幼子は毬江の顔を見た途端に、くしゃりと小さな顔を歪ませた。
「ママじゃ、ない……っ」
 服装が似ていたのか、後ろ姿が似ていたのか。どうやら毬江を自分の母親と間違えたらしい。
 ひくっと、しゃくり上げ始めた少年のその様子から、母親とはぐれたのだろうと推測する。武蔵野第一図書館は広くて、子供が外で遊ぶには最適な場所だけれど、その分迷子になりやすい。もっとも、子供を児童室に預けて、自分達はお茶を飲んでいる可能性もなくもないが。
 毬江はその場にしゃがみ込み、少年と視線の高さを合わせると、安心させるように微笑んだ。そして、携帯電話を取り出して、メール作成画面を呼び出す。
『だいじょうぶ、すぐにママみつかるよ』
 文字を打った画面を見せると、少年はきょとんと首を傾げた。
「……おねえちゃん、おはなしできないの?」
 耳が聞こえないだけで、話そうとすれば話す事は出来る。が、図書館内では極力『声』は出さない。音量の調節に自信がないからだ。けれど、この少年にそれを言っても首を傾げそうな気がしたので、そういう事にしておこうとコクンと頷いた。
『カウンターにいこうか。ママを、さがしてもらおう?』
「うん!」
 元気良く返事をした少年に片手を差し出す。少年は躊躇なく右手を毬江の掌に重ねて、きゅっと握った。その小さな手がほんの少し汗ばんで、なのにちょっとだけ冷えていて、心細かったであろう事が解る。少年の歩幅に合わせて、ゆっくりと歩き出し、ここからではちょっと遠いカウンターを目指した。
 カウンターに辿り着くまでも、少年はキョロキョロと母親の姿を探していた。つられて毬江も、自分に似た服装の人がいないかと探して……書架整理をしている柴崎の姿を見つけた。
 突然立ち止まった毬江に、少年は一度はぱあっと顔を輝かせたけれど、それが母親でないことに気付いて、しゅん、と肩を落とす。
 毬江は少年の手を優しく引いて、柴崎に近寄り、しゃがんで背を向けている彼女の左肩をそっと叩いた。
 ぴくりと反応した柴崎の髪が揺れて、瞳が毬江を捉える。
「あら毬江ちゃん。どうしたの?」
 問いかけられて、毬江は携帯に文面を用意することを忘れていたことを思い出した。
 だが、聡い柴崎は、見慣れぬ少年を毬江が連れていた事で、大方察してくれたらしい。
「迷子? ……ぼく、お名前言えるかしら?」
「サキサカ、シヅキ」
 シヅキくん、ね? と、柴崎はにっこりと微笑む。いつも笑っている彼女だけれど、子供相手のこんな優しい表情を、毬江は初めて見た。
「誰と来たの? ママ?」
「うん。でもね、ママね、おねえちゃんとおんなじで、おはなしできないの」
「え?」
 シヅキの言葉に、柴崎だけではなく毬江も驚いた。
「ママ、みみがきこえないの。おはなしはできるけど、としょかんではしずかにしてなきゃだめだからって、だからぼく、ママのそばからはなれちゃだめだって、パパにいわれてたのに……」
 ひくっ、とシヅキの喉が震える。毬江はそっとしゃがみ込んで、その頭をゆっくりと撫でた。
「聴覚障害……それなら呼び出しも無意味ね……」
 毬江ならば大音量で呼び出されればさすがに気付くとは思うけれど、障害の程度にも寄る。毬江自身、右耳は聞こえないし、左耳だって補聴器があるから何とか聞き取れるだけなのだ。
「あれ? 毬江ちゃん?」
 柴崎の背後から、巡回中の郁と手塚の姿が現れた。長身で細身の二人が並ぶと、ちょっとしたモデルが歩いているように見える。
「あら、笠原、手塚。ちょうど良い所に来たわ。あんた達、この子のお母さん探してくれない?」
「探すなら呼び出しすればいいんじゃないのか?」
「どうやら聴覚障害らしいのよ。呼びだしても聞こえない可能性が高いわ。シヅキくん、ママの服とか髪型とか、覚えてる?」
「おねえちゃんとおんなじいろのふく、きてた」
「だそうよ。カウンターに連れて行くから、よろしくね」
「了解。っと、教官にも連絡……」
「手塚・笠原組より堂上二正へ」
 素早い対応をする手塚に、郁が「また負けた」と悔しげに顔を歪ませるのを見て、毬江はほんの少し喉の奥で笑った。

「おい、あれ毬江ちゃんじゃないのか」
「え?」
 今日のバディである堂上の言葉に、小牧は反射的に振り返った。視線の先には、きょろきょろと不安げに周りを見渡す女性の姿。確かに毬江が好みそうな服装ではあるけれど、彼女の髪はもう少し長い。
「いや、別人だけど……何かあったのかな」
「聞いてみるか」
「うん。俺、行ってくるよ」
 こういう時、女性一人に対して男性が二人だと威圧感を与えてしまいかねない。大抵こういう役目は小牧の仕事だ。
「どうかされましたか?」
 背後から声を掛けても、女性は気付かない。不審に思うと、右耳にある補聴器に気付いた。それだけで、聴覚障害の彼女を持つ小牧には、女性も同じである事が伺えた。なるべく驚かせないようにと、そっと肩を叩く。
 女性はびくりと肩を震わせ、パッと小牧を振り返った。
「どうかされましたか?」
 もう一度、同じ言葉を紡ぐ。同時に、右手の人差し指を立てて、小刻みに左右に振る。簡単な手話で、「どうしたの?」という意味だ。
 女性は、手話で問いかけてきた小牧を不思議そうに見つめた後、提げていたバッグから携帯電話を取り出した。
 カチカチというボタン音が終わり、文面を小牧に見せる。
『子供が迷子になってしまって……心当たりを探してみたんですが、見つからなくて』
 同じように小牧も、携帯電話をポケットから取り出して、メール画面を起動させる。
『失礼ですが、お子様も聴覚障害ですか?』
 遺伝的な聴覚障害の可能性も捨て切れない。また、そうであるならば、迷子の呼び出しも意味がない。柴崎と同じ危惧をした小牧に、女性は気を害した風もなく、笑って首を横に振った。
『あの子は大丈夫です』
『それなら、カウンターで呼び出してもらいましょう』
 小牧が見せた画面に女性が頷いた途端、耳につけているイヤホンから手塚の声がした。
『手塚・笠原組より堂上二正へ。館内で迷子を発見、母親は聴覚障害らしく呼び出しは困難と見られます。これより捜索に』
「待って待って、手塚。多分見つけた」
『小牧二正?』
「その子の名前は?」
『サキサカシヅキ、と』
 サキサカシヅキ。その文字を携帯画面に打ち込んで、女性に見せる。
『息子です』
 頷くと同時に見せられた画面に小牧は無線の向こうの手塚に声をかけた。
「確認取れた。これからカウンターに連れていくよ。その子も連れて来てくれる?」
『了解しました』
 ぷつっ、と無線が切れる。小牧はまた携帯に文字を打ち込んだ。
『シヅキくんはカウンターにいます。ご案内しますね』
 女性は左手を水平にして、その手の甲に、右手を軽く下ろす。手話での『ありがとう』だ。
 待たせたままの堂上に声をかけ、女性を引き連れて小牧はカウンターへと歩きだした。

「ママ!」
 カウンターに現れた女性を見るなり、シヅキは素早く駆け寄ってその手を取った。
「ママ、ごめんなさい。て、はなして……」
 女性はふるふると子供に向かって頭を振った。
「あのね、ぼくね、あのおねえちゃんとママ、まちがえちゃったの」
 シヅキが毬江を振り返る。女性はゆっくりと立ち上がり、深々と頭を下げた。毬江は慌てて駆け寄り、その肩に手を置いて、顔を上げさせる。そして、先程の女性と同じように、ふるふると頭を横に振った。気にしないで下さい、の意味を込めて。
 喋らない毬江を訝しんだ女性に、毬江は左耳の補聴器を見せる。それで納得したらしい彼女がまた、ぺこりと頭を下げた。携帯電話を取り出した女性が、毬江に打ち込んだ画面を見せる。
『志月がご迷惑をおかけしました。ありがとうございます』
 シヅキは志月と書くらしい。毬江はまた頭を振って、淡く微笑んだ。
 志月が、母親と会えて良かった。「ママのそばを離れちゃいけなかったのに」といった志月は、子供ながらに母親を守らなければと強く思っていて、それがまた、微笑ましかった。
「利香? 志月? こんな所にいたのか、探したぞ」
「あっ、パパ!」
 落ち着いた男性の声に、志月の顔が途端にパッと明るくなった。駆け寄っていく志月をしゃがみ込んで受け止めた男性は、そっと苦笑した。
「こら、図書館では静かにしなさい。……というか、……うちの息子が何かしでかしましたか?」
 勢揃いしている図書館員達に、不安げな声が掛けられる。答えたのは小牧だった。
「いえ、お子さんがはぐれてしまっただけですよ」
「……ママから離れたのか?」
「ごめんなさい……」
 しゅん、と肩を落とした志月に掛けられる男性の声は固く、重い。叱られるのかと身を縮める志月の頭に、ぽん、と大きな掌が乗せられる。
「一回やったら解ったな? ママと離れると大変なんだって」
「うん」
「じゃ、次からは一緒にいられるよな?」
「うん!」
「よしっ」
 臆面もない笑顔で、男性は志月を抱き上げた。志月は「わぁっ」と驚いた声を上げたけれど、すぐに男性にしがみつく。
「家内と息子が、ご迷惑をおかけしました」
「いいえっ、そんなご迷惑なんて……」
 男性に頭を下げられて、真っ先に反応したのは郁だった。恐縮したように、郁まで頭を下げているのが何だか笑えた。
 そして、志月とその両親はもう一度毬江達にお辞儀をしてから、この場所を去った。
「仕事帰りの待ち合わせ場所、だったのかなぁ?」
「かもね? 旦那さんの方、スーツだったし」
「じゃ、これから外食かな? ん~っ、柴崎、今日はあたし達も外食にしない? ほら、こないだ言ってた美味しい和食屋さん!」
「……笠原おまえ、今一応勤務中だぞ」
「何よぅ、いーじゃないこれくらい」
「……ほぉ。俺がいる前でもそう言うか」
「えっ。ど、……堂上教官っ!? 怖いですその顔っ!!」
「それなら今日は、書き直しの日報は見なくて済むな? 手塚を超えて一番で提出出来たなら外食を許してやろう」
「ちょっ、それ横暴ですっ! あたしが手塚に勝てるわけ……っ」
「なら外食はナシだ」
「教官~っ!!」
 スタスタと歩いて行ってしまう堂上の後を、犬のように郁が追いかけていく。その姿を見た柴崎と手塚が、呆れたように呟いた。
「……犬ね」
「忠犬ハチ公かあいつは」
「言い得て妙だね。……もう少しで上がりだから、待っててくれる? 毬江ちゃん」
 小牧に呼びかけられて、毬江は小さく頷いた。

*****

「今日はびっくりしちゃった。ママと間違われるなんて思ってなかったから」
 課業を終えた小牧と、自宅までの道のりを歩く。たまには二家族で食事会でもしようということになって、今頃中澤家には小牧家が来ている頃だろう。
「髪型も、服装も似てたからね。堂上も、あの女性を見て毬江ちゃんじゃないかって言ったんだよ」
「……小牧さんは?」
 毬江は、そっと伺うように小牧の顔を見上げた。すると小牧は「どうだと思う?」と逆に問い返してくる。
「……そんなの、解りません」
 小牧の表情はなかなか読めない。10歳の年の差が、こんな時ばかりは悔しくなる。
「好きな子を間違えるほど、目は悪くないつもりだよ?」
 左耳にそっと、けれどはっきりと呟かれて、毬江の体は一気に硬直した。
「こ、小牧さ……っ」
「ん? どうしたの?」
 聴覚を失う前と違う声色だとしても、その言葉はダイレクトに毬江の耳に届く。僅かに紅潮する頬を見られたくなくて、毬江は彼から視線を外した。
「……でも、ちょっとだけ羨ましかったなぁ」
「え?」
「あの家族。小牧さんも、あんなお父さんになるのかなって、ちょっと考えちゃった」
 あんな風に、優しい笑顔で自分の子供を抱き上げる小牧。ふふっ、と毬江は自分の想像に微笑んだ。
「……俺がお父さんなら、もちろんお母さんは毬江ちゃんだよね?」
「……っ!」
 思わず未来を想像してしまう。あの男性が小牧で、男性の横で幸せそうに笑っていた女性が自分で。そして、幼い子供がいて。
 ずっとずっと片思いをして、3回も失恋して。それでも諦められなかった彼の『恋人』から『家族』になれたなら……どんなに幸せだろう?
「……小牧さんなら、いいですよ?」
「……っ、毬江ちゃん」
「はい? ……、え?」
 気付いた時には、片腕でそっと体が抱き寄せられていた。間をおかずに、もう一方の腕が加わる。
「……突然可愛い事言うのは、反則だよ?」
「……あ、あの……?」
「抱き締めたくなるから」
 言葉と同時に、抱き締められた腕が強くなる。冬とは違い、夏の薄いシャツ越しに聞こえる鼓動が、少しだけ早かった。

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  • 2015.04/05 22:08分
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