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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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LOVE SO LIFE 叶わぬ逢瀬

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七夕SS。
今年の七夕も雨が降って……。



『七夕の今日は、あいにくの雨。七夕に降る雨は催涙雨と呼ばれ……』

 夕方のテレビで、今夜の天気を残念そうに話す天気予報士の姿に、詩春は「やっぱり止まないかぁ」と溜息をついた。去年も雨が降ってしまって、結局天の川は見られず仕舞い。もっとも、旧暦の七夕の方が天の川は綺麗に見えるらしいけれど。

「しはるたん、あめ、やまない?」
「うん、今夜もずーっと降るんだって。残念だね」

 帰ってきてからも、閉じた窓から空を飽きる事なく眺めていた茜の質問に、詩春はしゃがみ込んで答えた。

「おりひめとひこぼし、あえないの?」
「そうだねぇ」
「かあいそーなの……」

 しゅん、とした茜に気づいた葵が、小さな手で茜の髪を撫でる様子が微笑ましい。

「ん? 茜どーした、しょんぼりして」

 帰宅して、着替えてきた政二がリビングに顔を出す。

「今年もまた雨だから、織姫と彦星が会えなくて可哀相だと、茜ちゃんが……」
「あー……。今年は止みそうにないなぁ」

 窓の外の雨は、土砂降りに近い。政二がタクシーで帰ってきた時も、玄関に入るまでにびしょ濡れだった。詩春が帰る頃には少し雨脚が弱まってくれるといいのだけれど、と思う。

「しかも昨日も雨だったし。彦星のせっかくの努力も、水の泡だね」
「え? 努力って、何ですか?」

 知らない? と、政二は薄く笑って、言葉の意味を説明してくれた。

「七夕の前日に降る雨は、洗車雨、って言うんだ。彦星が織姫に会いに行くための車を洗う、その水しぶきなんだって。だけど、今日は朝からずっと雨だから……会えない二人の催涙雨、かな」

 催涙雨には、二つの意味がある。会った後の別れの涙か、会えなかった悲しみの涙か。それは知っていたけれど、前日の雨にまで名称があることまでは知らなかった。

(松永さんて、すごい……)

 大人だからなのか、アナウンサーだからなのか、彼が持つ知識や考え方に、詩春は素直に感嘆する。

「まぁ、俺にして見れば、織姫も彦星もただの星だけど」
「ま、松永さんそれ言っちゃ……」

 身も蓋も無い、と詩春が笑うと、茜と葵が不思議そうな顔で見上げて来た。

「「おりひめ、おほしさま?」」
「そうだよー。織姫も、彦星も、お星様なんだよ」
「……確かどっかに……」

 何かを思い出したのか、政二が立ち上がってリビングを出て行く。しばらくして戻ってきた彼は、一冊の本を手にしていた。

「やっぱりあった。子供向けの星の図鑑」

 それは、小学生向けに簡略化されたもので、茜と葵が読むにはまだ早かったけれど、星図を見るだけなら特に問題はないだろう。
 床に広げられた見開きページに、夏の夜空の写真が掲載されている。

「おほしさま、いっぱい!」
「きらきら~!」

 たくさんの小さな星が闇に散りばめられていて、一見しただけでは解らない。子供向けなだけあって、星図と共に星座の輪郭が薄く描かれていたので、こと座の中の織女星とわし座の中の牽牛星はすぐに見つかった。

「ほら、こっちがアルタイルで、こっちがベガ」

 授業で習った詩春には、ベガとアルタイルと言われてもすぐに納得出来るけれど、茜と葵は「ん~?」と小首を傾げた。

「あのね? こっちが織姫様の星で、こっちが彦星様。そして、これが、二人の間を流れる天の川だよ。晴れるとね、カササギさんがこの川に橋を架けてくれるの。今日のお話、覚えてるかなー?」

 翼を広げ、何羽ものカササギが二人を繋ぐ。そんな七夕の物語を詩春が読み終わる頃には、大人しく聞いていた保育園の園児達は、危うく眠りの世界に落ちていく所だったけれど。

「おりひめとひこぼし、くっつけないの?」
「くっつくのはさすがに、無理だなぁ」
「かあいそう……」

 星図で見れば近い距離。だけれど実際の二つの星は15光年も離れている。
 一年に、たった一度だけ会える人。……会えた時の喜びはいかばかりだろう。
 雨が降っていて、織姫と彦星が今年は会えないであろう事と、星図による星の位置が離れているのを見たことで、双子はまたもやしゅんとした。

「あ! そうだ!」
「中村さん?」
「茜ちゃん、葵くん、折り紙貰っても良い?」
「「うん?」」

 二人の遊び道具の中から、淡いピンクと水色の折り紙を一枚ずつ取り出して、詩春はテーブルの上で折り紙をし始めた。茜と葵だけではなく、政二までが興味を引かれたように詩春の手元を覗き込んでいるのが解る。
 仕上げに黒いペンと赤いペンを取り出して、わざと残した白い部分に、簡単に顔を描く。

「はいっ。ピンクが織姫様で、茜ちゃん。水色は彦星様で葵くん!」
「うわ……中村さん、器用だね?」
「折り方覚えてて良かったです。ね、ほら、茜ちゃんと葵くんがずーっと仲良く一緒にいたら、来年は織姫と彦星、会えるかもしれないよ?」

 茜と葵は、手にした折り紙と、詩春を見て、それから、政二に視線を移した。どうしたんだろう? と首を傾げると、茜に「もういっこ!」と言われてしまった。

「え? もう一つ?」
「あおも!」

 訳が解らないまま、要望通りにもう一組を作る。その隣では、黄色の折り紙を使って政二が星の形を折っていた。

「……覚えてるもんだなぁ。というか、折り紙なんて何年ぶりだ……」

 詩春は保育園でのバイトで折り紙を使って遊ぶことは多々あれど、政二にとっては久しぶりの折り紙なのかも知れない。懐かしげに、丁寧に折っていく手が、自分の手よりも大きいことに気付いて、……男の人なんだ、と思う。
 詩春にとっての政二は、茜と葵の「保護者」だから、どうしても「男の人」であることを忘れてしまう。そして、今のようにふとしたことで、彼が今まで詩春の周りにはいなかった「大人の男の人」だと認識する。
 その度に、何だかちょっとだけくすぐったいような、居心地の悪さを感じるけれど。

「よし、出来た」
「え。あ、これ私の知らない折り方ですね」
「そうなの? 俺は星って言ったら、この折り方しか知らないから」
「じゃあ、あとで教えていただけませんか?」

 喜んで、の返答を聞きながら、先程と同じように余白に織姫と彦星の顔を描く。

「はい、出来たよー?」

 今度は彦星を茜に、織姫を葵に渡すと、二人はその小さな手を詩春と政二に向かって、ぐいっと伸ばした。

「しはるたんの!」
「せーたんの!」
「私?」
「は? 俺?」

 詩春には葵に渡した織姫が、政二には茜に渡した彦星が。反射的に手を出して受け取ると、双子はにこぉっ、と目を細めて笑った。

「しはるたんとせーたんも、ずーっといっしょ!」
「ずっとなかよし!」

 ずっと一緒。ずっと仲良し。その言葉は、叶うことはきっとないと、詩春も政二もほんの少しだけ笑顔が翳った。
 詩春とて、このままずっと茜と葵の傍で、成長を見守っていけるならと思うけれど……手がかからなくなれば、詩春はお役ご免だ。それに、今の自分では、双子に教えてあげられることは、とても少ない事を自覚している。幼いからこそ、詩春が出来ることと出来ないことがあるのだ。
 そして、政二はまだ、詩春には言っていない。双子の祖父母が、彼らを引き取りたいと言ってくれていることを。そして……引き取られてしまえば、詩春と政二の接点はなくなる。雇用関係である以上、いつかは離れてしまうから。
 ……離れてしまったら、織姫と彦星のような約束なんか出来ない。

「いっしょ、ね?」

 不安げに、自分の膝に手を置いて、顔を見上げてくる葵を安心させるように、詩春はふわりと笑った。即答出来なかった言葉を押し出す為に、喉に力を入れて。

「……うん、一緒、だね」

 例え今だけでも。いつか離れてしまうとしても。今、この時だけは傍にいられる。詩春を家族だといってくれる彼等の傍に。

「……そうだね。一緒、だ」
「えへへ、なかよし~!」

 納得のいく答えが得られたからなのか、双子は詩春と政二から離れた。
 折り紙の織姫と彦星を、床に広げられたままの星図のベガとアルタイルの上に重ねて、くっつくように動かす双子の小さな指を見て、詩春と政二は顔を見合わせて照れたように笑った。
 それぞれの手の中で、頬を染めて笑う織姫と彦星のように。


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