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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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虹霞~僕らの命の音~ 時刻む雨に包まれて

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最近の雨続きで思い浮かんだお話です。


「リク、こっちこっち!」

 淡い桜色の傘をさして、春雷が飛び跳ねるように歩いていく。向かうは壁際に植えられた茂みで、春雷は誇らしげに「見てー!」と六耀の袖を引っ張った。

「……蜘蛛の巣?」

 巣の主である蜘蛛は、水に濡れるのを嫌がったのかそこにはいない。そして、残された巣は、糸にたくさんの水滴を散りばめている。今、この雨が止んで、太陽が雲の隙間から顔を出したら、きっとキラキラと輝くだろう。

「こっちにはカタツムリがいるよ!」

 言われて視線を移せば、背中に丸い殻をしょって、のろのろと進むかたつむり。
 周りを見渡せば、雨に濡れて色を変えている草木や花。
 いつも見ているはずの光景なのに、天気の違いだけでその光景は別物に変わった。

『あのねっ、雨の日にしか見られないものがあるんだよ!』

 春雷のその一言で外に連れ出されてしまった六耀は、色んな音を自分の中に閉じこめるかのようにそっと瞼を閉じた。
 視覚を遮断すれば、僅かながらも明瞭になる音。蛙の鳴き声、傘に落ちてくる雫。……纏わり付くような雨と、風の匂い。

「ねっ、雨の日にしか見られないもの、でしょ? リク、ずーっとお部屋で本読んでるんだもん、たまにはお外の空気吸わなくちゃ!」

 ここのところずっと雨続きで、何だか気分が憂鬱だったのは認める。湿気を含む風さえ心地よいと思うのだから、体も新鮮な空気を欲していたのだろう。
 春雷が、地面に出来た僅かな水たまりをわざと踏む。パシャパシャと軽い音をさせながら、くるくると傘を回す。楽しそうな幼馴染みの姿に、六耀もつられて頬が緩んだ。

(……止まればいいのに……)

 一度は失った親友。彼女と過ごした時間は、六耀の中ではとても短いものだったから……ふと、そんな事を思った。

「きゃあっ!?」
「えっ、ハル!?」

 僅かに視線を外していた隙に、慌てた声。次の瞬間、春雷の体はバシャンッと音を立てて、顔から水たまりに倒れた。

「大丈夫? ハル!」
「う~、滑っちゃった……」

 両頬に付いた泥を指先で拭おうにも、余計広がってしまう。これは湯を浴びた方が早いと判断した六耀は苦笑した。

「見事に泥だらけになったねぇ。部屋に帰ろう、このままじゃ風邪引く、わっ!?」
「わぁい、リクも巻き添え、泥だらけ~!」

 春雷を起こそうとした片腕を両手で掴まれて、不意に力任せに引き寄せられれば、たたらを踏むのは当たり前。結果、六耀の服も、膝から下は泥にまみれた。二人とも、持っていた傘は地面に落ちて、遮るものの無くなった髪と顔は徐々に濡れていく。

「ハ~ル~っ……!」
「えへ?」

(えへ? じゃないよ……まったく)

 春雷に怒りを向けるも、朗らかな春雷の笑顔の前には霧散してしまう。とことん春雷には甘い自分を自覚しながら、六耀は立ち上がり、地面に落ちた傘を拾った。

「……とにかく、戻ろう。ね」
「うん!」


*****


「六耀、お茶持ってきたぞー」
「時雨?」

 コンコン、とノックされた扉に「どうぞ」と声をかけた後に現れたのは、片手にトレイを待った時雨だった。

「……ったく、何で傘持ってんのに泥だらけになるんだ?」
「えぇと……かくかくしかじかで」
「なるほど。って、解るかっ」

 湯を浴びる必要があった春雷は桜に任せ、六耀は自分の服を着替えるだけで済んだ。説明するのが面倒だったから、少しだけふざけた言い方をしてみると、時雨が苦笑する。

「かくかくしかじか、で解るヤツがいるかよ」
「だって説明が面倒なんだよ」
「ま、いーや。とりあえずほら、こっち飲め」
「……僕、両手塞がってるんだけど」
「そっちは俺がやってやるから」

 え? と訊ね返す前に、長い髪を拭いていた布が奪われる。椅子の後ろに回って、下ろした髪に時雨の手が触れる。

「あ、あの……時雨」
「ん? ほら、お茶飲めよ。雨に濡れて、体冷えただろ?」

(……の、飲めない……)

 時雨に触れられている髪が気になって、目の前のカップに手が伸びない。けれど、時雨は乱暴にする訳でもなく、優しく六耀の髪の水分を拭っていく。
 段々心地よくなってきて、六耀は置かれたカップに手を伸ばし、そっと口に含んだ。

(あったかい……)

 温かな液体が喉を通るだけで、ホッとする。こくん、こくん、と時間をかけて飲み干した直後、「くしゅんっ」と小さなくしゃみが出た。

「寒いか?」
「ううん、平気……え?」

 温まった体内と、部屋の中の温度差が原因だろうから、と告げようとした六耀の肩から膝にふわりと被せられたのは、時雨が着ていたはずの上着。

「だ、大丈夫だよ時雨っ」
「いーから着てろって。な?」

 ぽんぽん、とあやすように頭を撫でられる。
 何だろう? 何故か今日の時雨には余裕が感じられて……訳もなく悔しい。

「子供扱いしないでよ。……あ、違うか。時雨はおじいさんだから孫扱い?」
「こらっ。お前より3つ年上なだけだって言ってるだろーがっ」
「掛ける20の間違いでしょ?」

 3×20=60、+実年齢。初老どころか老年の域だね、と笑って見せた。

「六耀……お前、俺苛めて楽しいか?」
「うん」
「即答するなっ!」

 笑うと何だかちょっとだけ気分が晴れる。その背後で、時雨が重い溜息を吐いていることにも気付かずに。




(俺の気も知らないでコイツは……)

 失敗した、と思ったのは六耀の背後に回り、その髪に触れた瞬間からだった。渇かす為に下ろされた長い髪は、いつもより六耀を女性らしく映す。その髪に口づけたら怒られるだろうなと頭の隅で考える。それでも自分が言い出したことだからと、髪を乾かす作業に集中していたけれど。
 時雨をからかって遊ぶ六耀に、少しばかり反撃したくなる自分がいた。

「それにしても、雨なのに外に出なくても良かっただろうに」
「ハルが、楽しそうだったんだ」
「ん?」
「傘をくるくる回して、水たまりを踏んで、何か、子供の頃みたいで。このまま時間が止まったらいいなぁ、って」

 その言葉を聞いて、時雨は彼女の言葉に含まれるであろうたくさんの意味を計りかねて少しだけ考え込んだ。そして、

「……止まったら、俺がネジ巻いて動かしてやるよ」
「え?」
「俺、『時』刻む『雨』だから」

 雨は、時を刻む。決して宙に留まることなく雨の滴は地面に降りてくる。だから、六耀の時が止まるならば、どんなことをしてでも動かしてみせる。
 そう思って言葉にすると、六耀が訝しげに眉を顰めて振り返った。

「……時雨、何か悪いものでも食べた? それともどこかで頭打った?」
「あのなぁっ」
「あ、そっか。おじいさんだから耄碌しちゃったんだきっと」

 うんうん、と楽しそうに笑う彼女が、少しだけ憎らしくなる。

「……いい加減にしろよ? 六耀」

 言うが早いか、時雨は身を屈めて六耀の華奢な体に両腕を回した。抵抗などさせないぐらいに強く。

「と、時雨……っ?」

 聞くからに戸惑い、慌てる彼女の声を聞きながら、答えは返さずに、このまま首筋に噛み付いてやろうか、はたまた朱に染まりかけた白い頬に口づけてやろうかと、そんな事を考えた。
 あまりにも六耀に「おじいさん」呼ばわりされて、時雨はいつになく怒っていた。
 いや、惑わされたのかもしれない。髪を下ろし、女性らしさを増した六耀に。
 抱きしめた右手で、六耀の左頬から首筋を、丸い肩を、指先でそっと撫でて、気付く。
 六耀の体が、カチカチに固まってしまっている事に。

「……悪い。悪ふざけが過ぎたな」

 頭がクリアになっていく。怒りも惑いも払拭されて、時雨は六耀に巻き付けていた腕を離した。が、それでも彼女は動かない。

「六耀?」
「……か」
「か?」
「覚悟は出来てるよね、時雨……?」

 くるぅり、と首を巡らせた六耀の、瞳は笑っているくせに宿る色は確実に怒っていて。

「あ、あのな? 六耀、待っ……!」
「言い訳はなし!」
「なにぃっ!?」

 前触れもなく放たれた炎系の最高位魔法によって、部屋中が黒焦げになったのは言うまでもない。


*****


 爆発した炎の魔法に驚いた不知火と桜、そして春雷が駆け付けてきた時には既に、時雨は床に転がっていた。

「ごめんね、不知火。部屋を黒焦げにして……」
「いやいや、悪いのは時雨なんだろう? 正当防衛なら仕方がない」
「待てっ、これは過剰防衛の間違い……いててっ、突くな春雷!」
「あらあら、すぐに氷をお持ちいたしますね」
「あっ、あたしも行くー!」
「さあ六耀、隣の部屋で待っててくれるかな。ここは彼に掃除させるから」
「あ、うん」
「おい六耀っ……!」

 ぱたん、と扉を閉めて、すぐ脇の壁に寄り掛かる。いつの間にか握り締めていたらしい時雨の上着に、顔を寄せる。

 彼は、時を動かしてやると言ってくれた。六耀が立ち止まっても、自分の力では動き出せなくても、時雨が傍にいてくれるなら、六耀は前に進める。だけど。

 抱き締められた時、布越しに感じた温もりが心地好かった事と。その言葉が嬉しいと感じた事は、六耀だけの、秘密。





※後書き 兼 朱音さんへの私信
 ……怒られないと良いなぁ……。が、まず最初です。好き勝手に書いていたらこんな事に……あ、あれ? ヘタレな時雨さんどこ行った……?
 最初は女の子二人が雨の降る外に出掛けるだけで、時雨さんの登場予定は無かったんですけど、ね……。
 激しくイメージを狂わせてしまってごめんなさいっ。

 朱音さまのみお持ち帰り可です~。
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Comment

あああ、ありがとうございますーっ///

琳架さん、こんばんは。
素敵なお話をありがとうございますっv タイトルからしてくすぐったくて、読んだらもっとくすぐったくて……にやけながら赤面してしまいます(笑)

六耀と春雷が一緒にいるのが新鮮で、読んでいて六耀が幸せそうで良かったなぁ^^ と心から思います♪
悪戯臭い春雷が可愛くて! 六耀も巻き添えにしてしまうなんて、お茶目過ぎて抱き締めたいです///
二人が雨の中で遊んでいる描写がとっても分かりやすくて、綺麗で、でも儚げでもあって。どうしてこんな風に書けるんですか!? 尊敬します……!
そして、今回の時雨はへたれっぽくありませんでしたね! へたれじゃない時雨に、六耀と一緒に照れている私です///(笑)
だって、髪を拭いてあげたり、上着を貸してあげたり、格好いいこと言ってみたり、そして! だ、抱き締めて触るんですもんっ……! 抱き締める場面が大人っぽくて色っぽくて、この場面を何回も読み返しています。へたれな時雨も好きですが、へたれじゃない時雨も大好きです(自キャラばかですみません 笑)
いや、もう本当に、この展開はすんごく嬉しいです! イメージは狂ってなんか無いですよ! へたれなじゃない時雨を見られて幸せですっ^^

興奮し過ぎでこれ以上語ると止まらなくなりそうなので(笑)、続きは私のサイトに飾らせて頂いた時に綴らせて下さいませ。またいつも通り長ったらしく、そして今回は照れつつ大興奮した感想になると思います(笑)
優しくて温かいお話を書いて下さってありがとうございました♪ 何度も読み返してにやにやしますv
  • posted by 朱音
  • URL
  • 2011.06/28 19:03分
  • [Edit]

感想ありがとうございます!

朱音さん、こんばんは~。
最初にタイトルが出来て、だけどその時点では時雨さんは出てこなくて、これじゃ何かつまらないと時雨さんにも出て来てもらいました♪
くすぐったかったですか(笑)書いてる私もくすぐったかったです~……。最近聴いている色んな歌のイメージが、ごっちゃになってそのまま反映されたような、されてないような?
き、綺麗で儚げ……ですか……っ? 私が照れますよ! 嬉しいですけどっ。
……へたれな時雨さんを書いてみたいのに書けないのが悔しいです。朱音さんのようにテンポ良く書けることの方が、私は羨ましいですよ。
でも、イメージが狂わずに済んだようで良かった……っ! 毎度の事ながら、人様の二次創作はドキドキですね(笑)

それでは、嬉しいコメントありがとうございました♪
  • posted by 琳架
  • URL
  • 2011.06/28 20:37分
  • [Edit]

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