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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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夜明けの光【7】 そして……

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『……傍にいて欲しいんだ』



 フレイルは、王宮には戻らずに、そのまま数日を教会で過ごした。どさくさの混乱に乗じ、未だフレイルを殺害せんとした輩も居たからだ。もちろん、そんな不届き者はティルが新たに編成した兵達に、あっという間に取り押さえられたが。

「俺は……フレイルとアーシャに助けてもらってばかりだな。不甲斐ない兄で、すまない」

 一度、教会を訊ねてきたティルが、フレイルにそう頭を下げた。慌てたフレイルは、必死で言葉を募らせて、謝る事はないと何度も告げたけれど。

「フレイル、王宮へ戻ってきてくれ。俺には……お前とアーシャが必要だ」

 そう言われたのが、昨日の事。少し前の自分ならば、すぐにティルの言葉に頷いていただろう。だが、今のフレイルには……街に留まりたいという気持ちも、確かにあった。
 彼女────レサリーアがいる、この街に。
 兄を傍で助けたい気持ちと、レサリーアの傍にいたい気持ち。どちらも大切すぎて、フレイルには選ぶ事が出来なかった。




 そっと、鍵盤に触れる。毎夜、このオルガンを弾くことはレサリーアの日課だった。初めのうちは、夜の街にオルガンの音色を響かせることに躊躇いを持っていたけれど、他ならぬ住人たちが、「癒されるから」と言ってくれた。
 一日の終わり、「お疲れ様」の代わりに、レサリーアは色々な曲を弾く。
 そして、今日もまた、レサリーアはその華奢な指先を鍵盤に踊らせた。
 今夜の曲は、フレイルと再会したあの日も弾いていた……アーシャに教えてもらった曲。優しく、暖かなこの曲が、レサリーアは大好きだった。
 やがて、僅かな余韻を残して、曲を弾き終える。と、パチパチと控えめな拍手が礼拝堂に響いた。

「本当に、上手だな」
「いいえ、アーシャ様には及びません」

 鍵盤の蓋を下ろしながら、レサリーアは笑う。そして、今、ここにフレイルがやってきた意味に気付いていたからこそ、彼女は自分から言葉を発した。

「……お戻りになるのでしょう? 王宮へ」

 ハッと、フレイルが息を呑む。迷うように視線を彷徨わせて、彼は、重い口を開いた。

「……兄上が……父を殺したこんな俺でも、必要だと」
「解っています……」

 元より身分が違うのだ。このままずっと、そばにいられるはずがなかったのに。
 初めは、何て無茶をする人だと思っていた。例え王子であっても、父を殺すとは……。
 だが、フレイルはその裏に、ティルとアーシャへの、かけがえのない愛情があった。民を幸福にと願う、切なる想いがあった。
 一緒に暮らした僅かな間、その側面に触れていたレサリーアは、いつしかフレイルに惹かれているのを自覚していた。
 だから、どこかで期待していたのだ。フレイルが、このままここに留まってくれる事を。

「……レサリーア」

 そっと、名を呼ばれる。返事の代わりに、俯いてしまった顔を上げた。

「一緒に行かないか?」

 予期せぬ言葉に、レサリーアは一瞬目を見張った。が、言葉を理解すると同時に、緩やかに首を横に振る。

「……私などが足を踏み入れてはいけない所です、王宮は。それに……私はもう、公爵家の娘ではありません」

 ディビッド公爵家が無くとも、ティルやフレイル、アーシャをいざという時に支える事を忘れてはいなかったから、兵士に囲まれていても毅然とした態度で居られたけれど、それは、ここが教会だったから。
 王宮になど、今やただの一般人となったレサリーアが、入れるはずがない。

「……違う、レサリーア」

 歩み寄ってきたフレイルが、そっと手を差し伸べてくる。

「俺が……傍にいて欲しいんだ。レサリーアに」
「フレイル様……?」
「お前の優しさに癒されて……強さに、救われていたい。そして、……例えばお前が泣いていても、すぐに抱きしめられる距離にいたい」

 あと半歩踏み出せば、フレイルの伸ばした手に触れる事が出来る。しかしレサリーアは、その手を取る事を躊躇った。

「……ダメか?」
「……ご自分の立場を解っていらっしゃいますか? あなたは王の弟君……これから、ティル様と一緒に、国を支えるべきお方です。……私がお側にいては、フレイル様のご迷惑になるだけです」

 王宮に戻り、上手く国を動かせれば、他国の姫君との縁談が、ひっきりなしに舞い込んで来るであろう。レサリーアなどよりもよっぽど、フレイルの隣に似合う姫君が居るはずだ。

「……迷惑なんかじゃない。俺は、レサリーアと共にいたい。それだけだ」

 逆光で表情はよく見えないけれど、微かな光に照らされている真剣な瞳が、レサリーアを射抜く。

「……ずるいです、そんな言い方……」

 王弟と一般人という壁を感じているレサリーアに、そんな壁など初めから無いのだと、レサリーア自身に傍にいて欲しいのだと、フレイルは告げる。

「……私の考えている事を、全て覆すおつもりですか」
「まさか。俺にはそんな権限はないよ。でも……覆してくれれば、俺は嬉しい」

 嘘つき、とレサリーアは心の中で呟いた。権限がないと言いながら、彼はレサリーアの心が揺れているのを見抜いている。その証拠に顔が小さく笑っているし。

「レサリーア」

 強く、愛おしむような声音が、名を呼ぶ。……茶化す事も、誤魔化す事も、出来そうになかった。

「でも、フレイル様……」

 未だ迷うレサリーアの手を、伸びてきたフレイルの手がそっと包み込む。

「……俺の全てを賭けて誓う。ずっとそばにいて、レサリーアを守るよ」

 王宮の誰にも、レサリーアを傷付けさせない────。
 空いていた片方の手が、レサリーアの額に伸びる。前髪を掻き分けて、そこに一つ、吐息が触れた。
 昔、アーシャがフレイルやティルに良くやっていた仕草。ソファに座る兄達の額に、そっと口付けて。それは、「大好き」の合図。

『大好き、兄様っ』

 嬉しそうにアーシャは笑っていた。ティルとフレイルは、照れくさそうに微笑んで。
 レサリーアは、フレイルから離れ、膝を折った。片膝を床に、もう片方を浮かせて、頭を垂れる。

「あなたの望むままに。……え?」

 これから彼を襲うであろう日々から、少しでも彼を守れるように……。そう思って告げたその時。
 床を見ていた視線が、突然高くなって……気付けば、フレイルの顔さえ見下ろしていた。抱き上げられていると知ったのは、フレイルが優しく微笑んだその瞬間。

「軽いな、お前は。……ありがとう」

 月明かりが柔らかく照らす中、二人の影はしばらく一つになったまま動かなかった。




 翌日、セパとレサリーアをつれて王宮に戻ったフレイルだったが、レサリーアはアーシャに、セパは彼の旧友に連れ去られ、フレイル自身もティルに連れ去られ、多忙な日々を過ごすことになったという。



〈END〉


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