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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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暁のヨナ 彼だけが壊す

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nonoさまのリクエスト、『暁のヨナで、さりげなく上手にヨナを甘やかすハク』です。
リク通りに行って……る、といいなぁ……と、淡い期待を抱きつつ(笑)

では、続きからどうぞ。



 ヨナの目の前で、子供が倒れた。それも、大の大人に腹を蹴られて。
 思わず駆け出しそうになって、けれど、ハクの腕に遮られた。

「ハク、離して!」
「離したら行くでしょう。認められません」

 子供は未だ腹を蹴られている。その手には、たった二つの赤い果物。それを宝物であるかのように抱き締めている。

「だって、……あんな……!」
「今のあんたが出てってどうする! ここが火の部族の土地だって解ってるのか!?」
「でも……っ!」

 追われている身なのは解っている。それでも、あの子供を助けたいと思う。

「……俺が行くよ。それならいいでしょ、雷獣」
「ああ」

 ユンの言葉にはあっさり頷いたハクを睨み付けるけれど、彼はユンの動向を見守っていて、ヨナの方を向いてはいなかった。
 どうやって丸め込んだのか、それとも幾ばくかの金を渡したのか……ユンとその子供は、共にヨナ達の元へと戻ってきた。

「……離して、ハク」

 自分でも驚く程、冷たい声。ハクは何も言わずにヨナを捕まえていた腕を解放してくれた。

「……大丈夫?」

 その子供は、驚く程痩せていた。袖から覗く手首も、足首も、まるで棒のよう。

「痛かったでしょう?」
「どうってことないよ、これぐらい。いつもの事だし」
「いつもの事って……」

 顔には治りきらない痣の痕。思わずそれに触れようとして手を伸ばす。

「触るなっ!」

 もの凄い勢いで拒否されて、ヨナはびくりと体を震わせた。子供はヨナをキッと睨み付けると、くるりと踵を返して走り去ってしまった。

「あっ……」

 伸ばしたヨナの手は、子供の服にすら届かなかった。また、ハクの手に阻まれてしまったからだ。

「追いかけてどうするんです」
「……話をっ……」
「してどうするの。……ったく、めんどくさ。あのね、ああやって盗みでもしない限り手に入らないものだってあるんだよ?」
「盗むのは……悪い事でしょう?」

 はぁ、とユンとハクが揃って溜息をついた。ヨナはそう教えられて育ってきたから、二人がどうして溜息をついたのかも、解らなかった。




「……気になりますか? 昼間の子供が」

 ユンが買い出しに行ってくると宿を離れ、二人きりになった途端に、ハクが切り出した。
 窓に映るヨナの背後で、寝台に腰掛けているハクが立ち上がる。

「あの子供がした事は、確かに悪い事です。でもそれは、姫様が幸せに育ってきたから、思うことだ」

 俯いて、唇を噛み締める事しか出来なかった。
 ヨナがあの子供と同じ年齢だった時は、城で守られて、甘やかされて。傍にはいつも誰かがいてくれて。何不自由なく暮らしていた、過去の自分を思い出す。

「……多分、あの子供は親がいない。それでも、必死に生きようとした結果が」
「果物を盗む事……?」
「そうです」

 ものを盗んででも、人を傷つけて、傷つけられてでも。自分が生きる為に必要な事を選んだ結果。

「……ハクの言い方だと、まるで、幸せに育ってきたのが悪いみたいだわ」
「そんな事言ってませんけど」
「言ってるわ!」

 語気荒く反論はするけれど、振り向く事は出来なかった。ヨナも、自分自身で解っている。今のこれは、完全なる八つ当たりだと。
 だから、窓越しに映るハクの目を見て、言葉を発する事が出来ない。

「……悪い事じゃない」

 足音すらなく、いつの間にか近づいて来ていたハクの手が、ヨナの赤い髪を掬うように撫でた。

「……何が?」
「幸せに育った事は、誰にも責められない。だから、……悪い事じゃない」

 いつもの意地悪さや、からかいを全く感じさせず、真摯に、そしてあまりにも優しい声が、頭の上から聞こえる。

「俺だって、それなりに幸せだったと思います。ジジィに拾われて、風の地で育って……姫さんがいて、……あいつもいて」

 スウォン────……。あえてハクが告げなかった名前を、心の中で呟いた。

「だから、……姫さんが幸せに育った事が悪い事なら、俺だって同じです」
「……っ!」

 喉の奥が震えた。目頭が熱くなって、必死に零れ落ちそうな熱い雫を押し止めようとするけれど。

「……泣いてるんですか」
「違う……っ!」

 ハクが悪い事じゃないと言ってくれても、それでも、世界の厳しさも何も知らず大切に育てられたヨナに、あの子供のした行動を憐れむ涙は流せない。流してはいけない。それなのに。
 心とは裏腹に、白い頬を涙が伝う。

「どうして、……どうしてハクは、私を甘やかすの……っ!」

 彼だけなのだ、こうやってヨナを甘やかすのは。さりげない言葉で、行動で、いつもヨナの心を解きほぐして。強くあろうと願うヨナを、いつもハクだけが「素」に戻す。
 泣くまいと、どれだけ努力をして心に鎧を作ろうとしても。付け焼き刃の鎧なんて、呆気なく壊されて。
 甘ったれで、無力で、ちょっとした事ですぐ泣いてしまうヨナに、戻されてしまう。

「……多少は……らな」
「……何か、言った……?」

 泣きやみかけた頃に呟かれたハクの言葉は小さくて、ヨナの耳には聞こえなかった。聞き返せば、ぽんぽんと優しい手つきで頭を撫でられる。

「いえ別に。……泣くのは終わりですか?」
「……ごめんなさい。八つ当たり、したわ」
「八つ当たり出来ているうちは大丈夫ですよ。……感情が抜け落ちてしまうよりは」

 城から逃げ出したばかりの頃のヨナの事を言っているのだろう。風牙の都に着くまでは、笑う事すらなく、抜け殻のようだった。……正直に言えば、記憶も余りない。ハクが何かしら話しかけてくれていたのも、世話をしてくれたのも解ってはいたが。

「……大丈夫よ」
「はい?」
「逃げていた頃には戻らないわ。絶対に」

 あの夜以上に怖い事はない。この後、仲間となる白龍に告げることになる言葉を、言葉にはせず。ただ、その決意だけを瞳に宿して、ヨナは真っ直ぐハクを見つめる。

「……そりゃ心強いですね」
「本気でそう思ってる?」

 悪戯顔で笑うハクに、ヨナも見透かすように笑い返した。

「ただいま、っと。お姫様、雷獣、食事の用意が出来たってさ」
「お帰りなさい、ユン」
「んじゃ、行きますか」
「そうね、お腹空いちゃった」

 城にいた頃は、自分で用意することもなく食事出来たけれど、今は一日一食しか食べない日もある。これが旅なのだと、最近ようやく実感してきたけれど、まだまだハクには迷惑を掛けてしまっていると思う。

(甘やかされてる、のよね……)

 甘やかされるのは心地良いけれど、これから旅は長く続く。いつまでも甘えてはいられないと、ヨナは小さく決意を胸に宿した。

「……多少は甘やかさないと、すぐに転ぶだろ?」

 慈しみを込めたハクの、その瞳と呟きを知らずに。



※後書き 兼 nonoさまへの私信

 まだお待ち下さってるといいのですが……。nonoさま、遅くなってしまって申し訳ありません。
 ど、どうでしょうか……。さりげなく上手に、が抜けてしまってるような気が……すっごくするんですけど。だってヨナ、気付いてるし(汗)
 リクエストを受け付けて書く、と言う事が初めてだったので、もし「こんなんじゃない」と思われたらご一報下さいね。再チャレンジしてみますので。

 そして、改めまして震災記事へのコメント、本当にありがとうございました。とても励まされ、元気を頂きました。
 今はまだ、「福島は安全」とは言えませんが……いつか、原発問題が収まって「安全」だと言えるようになったらまた、福島に遊びに来て頂けたらと思います。

 nonoさまのみお持ち帰り可です。
 こんなSSで良ければどうぞ~。

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