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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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夜明けの光【5】 襲撃

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『居場所が知れた以上、隠れていても無駄だ』



 ドンドンドンッ!!
 夜が明けきらぬ早朝、教会の扉が乱暴に叩かれた。だが、レサリーアが扉を開けるよりも早く、バキバキッと、ものすごい力で扉が破られた。

「何事ですか!?」

 寝間着の上にストールを引っかけただけのレサリーアが、礼拝堂に辿り着いた時には既に、扉は完全に破られていた。レサリーアの姿を見つけた兵士達が、彼女の周りを取り囲む。

「女。よくも謀ってくれたな」
「……何の事ですか」
「しらばっくれるな! フレイル王子がここにいるはずだ、出してもらおうか」

 松明の明かりで、ギラギラと銀鎗が輝く。ここで怯んでいてはいけない。レサリーアは決意を宿した瞳で、隊長であろう男を静かに見つめた。

「フレイル様はここにはいらっしゃいません。以前も教会中をお調べになったではありませんか」
「だが、目撃者がいるんでな。お前とフレイル王子が、街を歩いていたと」
「気のせいでは? 確かに良く街へは出かけますけれど」
「嘘だ! 俺は見たんだ、お前と王子が一緒にこの教会に入っていく所を!」

 兵士達の背後にいる、レサリーアには見覚えのない男が怒鳴った。小太りなその男は、ただ叫んだだけで額に脂汗を浮かべている。

「のらりくらりとかわせると思うな。お前が答えないなら、教会中を虱潰しに探すだけだ」
「どうぞ?」

 祖父の部屋にある隠し部屋が、そう簡単に見つかるはずもない。実際、以前の時だってフレイルを隠し通せたのだから、今回もきっと大丈夫……。そう、思っていたのに。

「その必要はない」

 階段から、厳かな声が聞こえた。レサリーアは、咄嗟に振り向いてしまった。どうして、彼は出て来てしまったのだろう───。

「お前達の目的は、俺だろう」
「ほら! 言った通りじゃないか! もういいだろ、くれよ、金!」

 ふんぞり返った小太りな男は、急かすように兵士へ片手を出す。

「それは王宮へ帰ってからだ。やはり、いらっしゃいましたか……。女王様がお待ちです、どうか、ご同行を」

 レサリーアと相対していた時とは違う、慇懃な程の口調に、フレイルが顔をしかめる。けれど、レサリーアはフレイルをジッと見つめて、声を張り上げた。

「フレイル様、どうして……!」
「……言っただろう、お前達に迷惑をかけるわけにはいかないと。それに……居場所が知れた以上、隠れていても無駄だ」
「ですが……!」
「……俺は逃げない。だから、彼女に向けているその槍を降ろせ。今すぐ」

 レサリーアに向けられている数々の銀鎗が、ゆっくりと降ろされていく。既に王子の身分は剥奪されているとしても、その口調は、命令する立場にいる者の声だった。
 一段、一段、フレイルが階段を下りてくる。その上段には、祖父の姿もある。どうして、止めてくれなかったのか───。
 ふと、レサリーアとフレイルの視線がかち合った。「逃げろ」と唇が動く。だがレサリーアは、ふるふると小さく首を横に振り、そこから一歩も動かなかった。
 彼が決めたのなら、もうレサリーアが止める事は出来ない。ならばせめて、その足でこの教会を去るのを見届けるつもりだった。
 フレイルは、優しく微笑んでくれた。レサリーアの気持ちが、解ったのだろう。
 その時だった。

「とっとと来い! 手間かけさすんじゃねぇよっ」

 隊長らしき男が、階段を下りていたフレイルの胸ぐらを掴み、床へと引きずり倒した。

「っ……!!」

 フレイルの怪我はまだ完治していない。下手に衝撃を与えれば、また傷口が開く可能性だってある。

「? 何だよ、起き上がれねぇのか?」 

 男が、槍の柄で、フレイルを突く。未だ包帯に覆われている、腹の傷に。フレイルは、呻き声さえ上げぬように、歯を食いしばっているけれど。

「やめて……やめて下さい!」

 レサリーアにとって、それは正視に耐えないものだった。気付いた時には駆け出して、倒れるフレイルの前で、両手を広げていた。




「……お母様。起きてらっしゃいますか?」

 教会に、兵士達が攻め込んできた頃。フレイルの妹姫であるアーシャは、今は女王となった母親の私室へとやって来ていた。

「アーシャ? どうしたの」

 もうずっと眠っていないのだろう。血走った目が、とても痛々しく映る。
 フレイルにとって、この母は決していい母親代わりではなかったけれど、アーシャにとっては、たった一人の母親だった。昔は穏やかで、いつだって笑っていたのに……。
 今はもう、フレイルを殺す事だけ考えている……。

「お疲れのようですので、お茶をお持ちしました」
「……ありがとう。あなたはいい子ね、アーシャ」

 そっと、栗色の髪を撫でる手は、昔と変わらずに優しい。だけど、この指先が……フレイルを殺す命令を、下したのだ。

「それに引き替え、ティルは……いつまであんな子の味方をする気かしら」
「……そうですわね」

 トポトポとカップに紅茶を注ぎ、砂糖とミルク、スプーンを添えて母に差し出す。

「でも、もうすぐよ、アーシャ。もうすぐ、あの子の首がここにやってくる……」

 何かに取り憑かれたかのように、恍惚とした表情で母は笑う。
 フレイルが城下にある教会に潜んでいるとの情報を持ってきた男がいた。フレイルの首と引き替えに、報奨金を渡す事を約束して。

「……お母様、一つだけ……答えてくださいますか?」
「アーシャ?」
「一を犠牲として百を救うか、百を犠牲として一を救うか……お母様は、どちらを選ばれますか?」
「それはもちろん、前者よ。王家として選ぶのなら、答えは決まっているじゃない。だからこそ、私はフレイルの首を取って来いと命じたのに」

 砂糖をスプーンでかき混ぜて、カップを手に持ち、ゆっくりと唇に近づける。その動作を見守ったまま、アーシャは口を開いた。

「……では、私のこの行動も、許してくださいませ」

 アーシャの言葉の意味に、母が気付いた時にはもう既に、彼女は紅茶をこくん、と飲み下していた。一拍おいた、次の瞬間……。
 ガチャン! とカップが母の手から滑り落ちる。唇がわなわなと震え、何か言いたげにアーシャを見つめる。しかしその喉からは、「あー」や「うー」といった、うなり声しか聞こえない。

「……ご安心下さい、お母様。毒ではありません。ただ、一定期間、喋る事が出来なくなるだけですから」

 アーシャはそっと席を立ち、母を冷めた目で見下ろした。

「フレイルお兄様を、殺させたりしません。たった今より、ティル兄様が王です」
「か、はっ……!」
「……私が知らないとでも思っていましたか? フレイルお兄様だけではなく、ティル兄様も殺そうとしてらっしゃったことを……」

 アーシャは表だってフレイルを庇う事はなかっただけで、フレイルの身を案じていなかったわけではない。女王である母に具申し、意見を対立させてきたのはティルだ。そのティルを、我が子とはいえ邪魔になってしまった母は、フレイルだけではなく、彼の暗殺計画も密かに練っていた。

「私とて、いつまでも何も知らない姫君ではないんです。お母様は、私を王位につけようとなさったのでしょうけれど……私は、そんなものは要りません」

 くるり、と踵を返す。喋る事の出来ない女王など、必要ないのだ。
 ドアを開けて、部屋を出る。壁際に、ティルの姿があった。

「……すまない、アーシャ」
「いいえ。フレイル兄様の言葉を守っただけです」

 耳に蘇るは、王宮を立ち去る時のフレイルの言葉。

『兄上、アーシャ。どうか、幸せに……。良き王となり、民に余りある程の幸福を』

 母は政治の事などまるで解っていない。大臣達のいいように扱われるだけだ。それでは政治はますます荒れる。このまま進めば、国民達に酷い苦しみを与える事になる。
 それを避ける為には……薬を使ってでも、女王は病気だという事にして、ティルが王位につくしかない。

「兄様、フレイル兄様の処遇を……」
「ああ、すぐに白紙撤回させる。お前はフレイルの元へ」
「はい!」

 慌ただしく動き始めたティルに、アーシャは付き従った。


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