Mirage

オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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MIRAGE【10】 ~想い出の場所~

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「……ごめん。今だけ、……」



「……っ」

 レイティアが好きだった場所────城下を一望出来る、王宮のバルコニーよりも高い丘の上で、ファラスが息を飲む音が聞こえた。

「……ファラス?」

 息を呑むような高さだったのかと不思議に思って声を掛け、少し下にある彼女の横顔を見ると。今度はエイドが息を呑む番だった。
 紫紺の瞳から零れ落ち、白い頬を流れる透明な涙。

「ど、どうかしましたか?」
「……いえ……ただ、綺麗だな、って……」

 指先で涙を拭うファラスが、儚げに微笑む。その微笑みの意味を、エイドは何故か訊く事が出来なかった。

「よく、レイティアとここへ来てて……そこの柵から身を乗り出して、落ちそうになったのも一度や二度じゃないし」
「……うそ……」
「本当。カジェリと隊長を見つけて、声を掛けようとして。聞こえるわけないのに」

 くくっ、と喉の奥で忍び笑って、当時の事を思い出す。

『あっ、ほら見て! カジェリ姉さんとロイ隊長がいる!』
『レイティア! 身を乗り出したら危ないって!』
『大丈夫ー! ……れ?』
『っ、風の精霊よ、我が意思に従え!』

 手を伸ばすよりも魔法の方が早い。そう思ったエイドは咄嗟に呪文を唱え、風の精霊達は即座に彼の意思を反映し、レイティアの体を宙に浮かせた。

『ったく、だから言っただろうがっ』
『えへ?』
『……風の精霊よ、離散せよ』

 ぺろり、と小さな舌を出してお茶目に笑う少女に反省の色がないと見るやいなや、エイドは彼女を支えている風の精霊達に離散を命じようとしたけれど。

『ちょっ、それ酷いっ』

 本気で怒りかけたレイティアに、その後三日ほど口をきいてもらえなかったのは、結構堪えた。

「危なっかしくて、……コイツは俺が守らなきゃダメだって、ずっと、傍にいる、って……」

 疑わなかった。あの業火が宿舎を襲ったあの日までは。
 どうしてだろう。彼女がこの世に亡いという事を知っているのに。受け入れたはずなのに。
 心の中で生きていると、そう口にしたはずなのに────……。
 久し振りにこの場所に来たせいか。レイティアが隣にいない、それを強く肌で感じる。

「……エイド……」

 そっと、ファラスの細い指先が頬を撫でた。レイティアと似たその顔で、その声で、自分の名前を静かに呼ばれて。

「えっ……!?」

 気付けば、目の前の体を抱き締めていた。

「あ、あの……?」
「……ごめん。今だけ、……」

 今だけ────。その言葉の後に何を続けようとしたのか、自分でも解らない。レイティアの姉だというファラスを、レイティアの代わりにする事に、罪悪感がないわけではない。それでも……ファラスの傍にいるとどうしても、レイティアを思い出す。
 守ると言って守れなかった、……多分、こうして抱き締めたかったあの少女を。
 ファラスは何も言わず、そっとエイドの背中に手を回してくれた。それに応えるように、腕の力を強めて……だから、エイドは気付かなかった。
 彼の胸に隠された彼女の瞳から、また涙が零れていた事に。

 ────どれだけの時間が経ったのだろう。太陽はまだ高い位置にあるから、それほど時間は経っていないと思うけれど。

「……落ち着きましたか?」

 決して短くはない時の間、ファラスはずっと、エイドの背中を抱き締めていてくれた。

「うん……。レイティアの、代わりみたいにして……ごめん」

 心に渦巻いていた得体の知れない感情が凪いで、幾分すっきりしたエイドに、ファラスは微笑んで首を横に振った。

「一人で泣くのは、辛いでしょう?」
「いや、……泣いてたわけじゃ……」
「あら? そうですか?」

 ふふ、とどこか大人びた笑みで、エイドの顔を覗き込むファラス。レイティアはこんな笑い方はしなかったな、とふと思い出す。レイティアの笑顔は、太陽のように明るくて、周囲を自然と光へと導いていたけれど、ファラスは違う。月の光のように優しい、包み込むような笑顔を彼女は見せる。
 ファラスの雰囲気がそうさせているのか、穏やかな空気が二人を包む。それがとても心地よくて、エイドは柵に寄りかかり、横目でそっとファラスの横顔を眺める。

「……良かった……。ここに来られて……」

 エイドでさえ聞き逃してしまいそうな、小さな呟きが、風に乗って耳に届く。

「ファラス?」
「また一つ、想い出が増えました」

 想い出? その単語に妙な違和感を覚えながらも、それを訊ねる事はしなかった。……出来なかった、と言った方が正しいかも知れない。城下を眺めるファラスの紫紺の瞳が、とても嬉しそうに細められていて……それをもっと見ていたいと思ってしまったから。
 紫紺の瞳。その色を見て、ふと、エイドの脳裏に一つのアクセサリーが浮かび上がる。レイティアが好んで付けていた飾りピンも、濃い色の紫水晶だった。
 あの業火で、燃えてしまったかも知れないけれど。




 それからエイドとファラスはその場を離れ、建ち並ぶ露店を見て回った。途中で騎士隊の後輩達に会い、尽くデート中と勘違いされ、否定して歩くのも一苦労だった。

「す、すみません。あいつら、遠慮ってものを知らなくて」
「いいえ。とても楽しかっ、……!」

 不自然な形で途切れた言葉と、瞬時に変わった表情。紫紺の瞳が、鋭く前を見据える。

「ファ……」

 呼びかけようとしたその瞬間、王宮の一角、今まさにパーティーが行われているであろう大広間のバルコニーの窓が、一斉に割れる音が聞こえた。

「なっ……!? 爆発……!?」
「違う! 爆発なんかじゃない……っ。王宮からの風が、魔の匂いを孕んでいます!」
「風?」

 エイドは魔法を扱えるとは言っても専門の魔法師程ではない。大抵は剣で片を付けてしまう事が多く、魔法の気配にはどちらかと言えば鈍い方だ。
 気づけなかった自分に軽く舌打ちして、走り出す。

「どこへ!?」
「王宮へ! ランディル達がいますが、もしあなたの言うとおり魔物がいたら手に負えなくなります!」

 もし本当に、魔物が王宮に現れたのだとしたら、魔物を倒す事よりも、貴族達の避難が最優先になってしまって、手が足りなくなっているはずだ。そう告げたエイドに、ファラスは真剣な顔をしたまま、彼の袖を掴んだ。

「なら、送ります」
「え?」
「風よ、我が元に集い固まれ、我らを彼の地へと運べ!」
「うわっ!?」

 ファラスの呪文が完成すると同時に、足と地面が切り離された。王宮を不審げな瞳で見つめる人々の姿が瞬く間に小さくなり、窓が割れたバルコニーへと近づいていく。

「そういえば、風の呪文使えるんでしたっけ……」
「こっちの方が早いでしょう?」

 悪戯が成功した子供のように、小さく誇らしげな笑みを覗かせ、けれどその瞳だけは、未だに鋭く細められたままだった。


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