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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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虹霞~僕らの命の音~ 涙の理由 side:六耀

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朱音様に差し上げた「涙の理由」の六耀さん視点です。



「いい天気だなぁ」

 妖華から渡された魔法書を読み終わり、窓の外へと視線を向ける。青空から、中庭へ。そして、緑の中に咲く深紅の椿の花を見つける。

「え……」

 視界に入った途端、深紅の花が、そのままの形を保ったまま、ぽとりと落ちた。
 椿の花が、そうして生を終えることは知っていた。けれど、落ちる瞬間を見たのは初めてで……。

「ったく、何で椿の花なんか植えるんだか。縁起悪いのにさ」
「何かさ、俺達も潔く死ねって言われてるみたいだよなぁ」

 ぽとりと落ちた椿の花を、靴の裏でぐしゃぐしゃに踏みつぶすのは、この城に勤める衛兵達だった。
 確かに、縁起は悪いだろう。まるで首を落とされているように感じるのも解る。
 解る、けれど……。

(何だろう?)

 胸に広がる、何とも言えぬ感情。言葉に出来ないもどかしさと共に、何故か胸にあふれた想い。

「なっ……六耀!? どうしたんだよ!」
「え……時雨?」

 突然名前を呼ばれて、六耀は振り向いた。慌てた表情の時雨が、じっと見ている。

「どうしたの? 大声出して」
「だ、どうしたってお前が泣いてたから……っ」

(泣いてた? 僕が?)

 嘘だ、反射的にそう思った。しかし、頬には確かに涙が伝った後の感覚が残っている。それでも、どうしてか泣いていた事実を認めたくなかった六耀は、「泣いてなんかないっ!」と大声を出して椅子から立ち上がり、急ぎ足で部屋を出る。
 泣いてなんかいない、だって、泣く理由がない。そう自分に言い聞かせながら階段を下りて、六耀の足は自然と中庭に向かっていた。踏みつぶされてしまった椿の花が、気になった。
 時雨が追いかけて来ない事にホッとして、踏みつぶされてしまった椿の花びらの傍へとしゃがみ込む。一枚ずつ、丁寧に指先でつまんで、左手の掌に乗せて。それでもゴミ箱なんかに捨ててしまう事は出来なくて、そっと緑の茂みの中へと置いた。
 土に還り、また来年、咲けるように。
 そんな願いを込めた後、まだ落ちていない椿の花をそっと撫でる。今触れているこの花だって、いつ落ちてしまうか解らないけれど、きっとさっきの花と同じように潔く生を終えるのだろう。

「六耀っ!」
「と、時雨!?」

 強く名を呼ばれて、思わず振り返り、全体像が見えるくらいに近づいてきた時雨が視界に入った途端。六耀は反射的に逃げ出した。

「ちょ、何で追い掛けて来るのさ!」
「おまえが逃げるからだ!」

 それ、理由になってないよ。と、心の中で呟く。だって六耀には、彼が追いかけてくる理由が見つからないのだ。逃げて逃げて、それでも時雨は諦めてくれなくて。

「つかまだ逃げる気かよっ」
「時雨が追い掛けて来るからだろ!」

 そう、時雨が追いかけて来なければ、六耀だってここまで逃げはしない。

「おまえが止まればっ、追い掛けねーよっ」
「ほっとけばいいだろ、僕なんか!」

 何気なく言った、しかし本気で思った言葉だった。これで諦めてくれればいい、そう思ったのに、みるみる内に六耀と時雨の距離は近づいて。

「痛っ……!」

 左腕を取られ、春には見事に花を咲かせる桜の木に押しつけられた。

「ちょっ……時雨! 離し……っ!」
「……誰をほっとけばいい、だって?」

 いつの間にか右手も拘束されて、間近に迫っていた時雨が、六耀の耳元で低く囁く。やる気になればいつかのように、膝蹴りだって出来たはずなのに……体が、動いてくれない。
 自分の体なのに、自分の思い通りにならない。時雨の言葉に、縛り付けられてしまったかのように。

「俺が六耀をほっとけるって、本気で思ってる? ……ほっとけるわけ、ないだろ」

 どうして? 少し前までは赤の他人だった、ただ雷晶を手に入れるという目的が一致しただけの関係のはずだった。……じゃあ、今は?
 ぎり、と掴まれた手首が力強く押しつけられる。
 逃げたい。……逃げられない。

「……誰かに何か、されたのか?」
「この城の中で、僕に何かあったら妖華が黙ってないよ」
「だったら、何で」

 これは、理由を話すまで離してもらえそうにないかもしれない。それほど彼の声は真剣で、六耀の瞳をまっすぐに見つめていた。
 仕方ない、と小さく溜息をついて、泣いた理由を話し出す。

「……椿の花、がさ」
「は? 椿の花?」

 逃げた事で遠ざかってしまった椿の花。踏み潰されてしまった花びらを、土に返した場所。時雨の瞳を直視している事が出来なくて、先程見た光景を思い出して小さく淋しげに微笑わらった。

「窓から見えたんだ、椿の花。そしたら花ごと、ボトッと落ちて……」
「ああ。まあ、それが椿の花の特徴だよな」
「知ってはいたんだ。だけど、実際に見たら何か……いたたまれなくて」

 そう、あの時感じたのはいたたまれなさだった。縁起が悪いと言われたって、椿の花は一生懸命に生きていたのに。

「縁起が悪いのにどうして植えたんだ、って、見回りの衛兵が言ってて。だけど僕には、とても潔く見えたんだ。……どうしてか解らないけど。それで……その潔さがなんか、羨ましくなって」

 気付いたら泣いてたとこに君が来たんだ、と呟いたけれど、口には出さなかっただけで、本当は心のどこかで涙が伝った理由に気付いていた。
 美しい姿のままでその生を終える、椿の花。六耀自身、美しい姿のまま命を終える、なんて考えた訳ではないけれど、せめて最後まで、胸を張って生きられたら。そんな想いが六耀の中にあったから。
 咲き誇ったまま命を終えられる椿の花が、羨ましかったのだ。……きっと。
 理由を話せば、そんなことかよ、とでも言いたげな時雨の大きな溜息が聞こえた。

「はぁ~……」
「だ、だから言っただろ、ほっとけばいい、って」
「ほっとかねーよ」

 コトン、と六耀の肩に時雨が額を落とした。まるでキスされているかのように、首筋に時雨の吐息が触れる。

「な、時雨……っ!」
「ったく。心配させるなよ……」

 僅かに苦笑を含んだ彼の声に、ほんの少しムッとして、思わず言い返してしまう。

「勝手に心配したのは時雨じゃないか」
「そうだな、勝手に心配したのは俺だ。だけど何も、逃げ出すことはなかっただろ?」
「気付いたら逃げてたんだ。条件反射ってやつじゃない?」
「お~ま~え~なぁ~っ!」
「殴る? 僕を殴ると妖華の倍返しが待ってるよ?」

 掴まれていた左手が解放されて、代わりに軽く握られた拳が目に入ってそう笑うと、ぴたりと時雨の動きが止まった。

(やっぱり妖華は怖いんだ、時雨は)

 くすくす、と忍び笑って時雨を見上げて、「出来ないでしょ?」と問いかけたすぐ後。
 軽く握られた拳が開き、六耀の長い髪を、彼の指先が掬い上げる。何をする気だ、と思ったら身を屈めて────。

「と、時雨……?」

 彼がやろうとしている事に気付いてしまった。今なら殴る事も出来る、実際そうしようと拳を握りしめようとしたけれど……指先は、言う事を聞いてくれなかった。
 六耀と同じ視線の高さになった時雨の瞳が、和む。髪が、持ち上げられる。何も出来ないまま、六耀はただじっと、時雨の行動を見ていた。

 この後、時雨も、六耀でさえも予想しなかった事が起きる事も知らずに。


← 「涙の理由 side:時雨」



※あとがき 兼 朱音さんへ私信

と、いうわけで。ごめんなさい、書いてしまいました……。
六耀さん視点だと、結構難しいですね(笑)時雨さんの方が解りやすいです(^^)
台詞は全て同じなので、描写が違うだけなのですが……こんな作品で良ければお受け取り頂ければと思います。
朱音さまのみ、お持ち帰り可です♪
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Comment

ありがとうございます♪

琳架さん、こんばんは!
六耀視点の『涙の理由』も書いて下さってありがとうございますっ♪ 一つのお話を二人の視点から見られて、幸せです^^

衛兵達は椿の花を踏み潰すなんて……! この時の六耀の心の痛さが伝わってきます(涙)
時雨に「誰かに何かされたのか?」と聞かれた時に六耀が衛兵達のことを伝えていたら、時雨から不知火へ連絡が行って、この二人はクビになっていたのに!(こんな不知火、大人げないですね 笑)
踏み潰された椿の花を拾う六耀が切なくもあり、優しくて、愛しいです。
きっとこの時、彼女は一人では抱えきれないほどの何かを考えていたんだろうなーと思ってしまいます。
追い掛けっこ場面ですが、六耀視点になると時雨視点とは違った大好き感があります^^
「逃げたい。……逃げられない」の部分が堪らないです! 時雨に押さえ付けられて、力では敵わないと降参している感じがありますので! やっぱり私は不意に男らしさを見せられるのが好きなんですよv
六耀視点ですと、首筋に吐息が触れたり、髪にキス未遂の場面が時雨視点以上にドキドキしてしまいます! 六耀から見れば、時雨はやっぱり男なんだなと思ったりで////

こちらも是非飾らせて下さいませ^^ 時雨視点と同時にアップ頂きたいです!
六耀視点にも長過ぎる感想を書かせて下さい~(時雨視点もかなりの長文感想になってしまっています 笑)
本当にありがとうございます! それでは、失礼いたします。
  • posted by 朱音
  • URL
  • 2011.02/23 19:08分
  • [Edit]

良かったです~。

またまた感想をありがとうございます~。

衛兵さん達の気持ちとしては多分、『ふざけんな!』でしょうね。
でも、もしこの場面を見たのが六耀さんではなく桜さんだったとしたら、有無を言わさず(というか率先して)不知火さんは犯人を探し出しそうな気がします(笑)で、問答無用でクビです、きっと。
魔法対決であれば、六耀さんも負けないとは思いますが、さすがに素手での実力行使では、素直になるしかなかったのではないかと。自分で書いておきながら曖昧ですが(笑)

お受け取りいただければ幸いです。書かせてくださってありがとうございましたm(_ _)m

  • posted by 琳架
  • URL
  • 2011.02/24 01:13分
  • [Edit]

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