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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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虹霞~僕らの命の音~ 涙の理由 side:時雨

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相互リンクさせて頂いている朱音さまの創作小説「虹霞~僕らの命の音~」の二次創作です。


「お、六耀りくよう見つけ……」

 見慣れた横顔を見つけて歩み寄ろうとしたその時。
 六耀の左目から頬を伝う、透明な一雫に思わず足を止め、動かぬ体の代わりに声を発した。

「なっ……六耀!? どうしたんだよ!」
「え……時雨ときさめ?」

 振り向いたその瞳は、僅かながらも濡れていて、だけどどうして六耀が泣いていたのかが解らない。
 普段は強気な六耀が泣くなんて、滅多にないこと。そうは思いつつも、六耀自身が強く見せているだけで、その実は脆い。
 揺れる双眸に手を伸ばしたくなるけれど、一瞬見ただけの涙にまだ、体は動いてくれなかった。

「どうしたの? 大声出して」
「だ、どうしたってお前が泣いてたから……っ」

 時雨がそう口にした瞬間、六耀の頬が朱に染まった。恥ずかしがっているのでも、照れているのでもなく……それは、怒りの表情だった。

「六耀?」
「泣いてなんかないっ!」

 がたんっ、と椅子を立ち、目にも留まらぬ早さで部屋を出ていく六耀にしばし唖然とさせられた。

「……って、ちょっと待て!」

 我に返った時雨は、慌てて六耀の後を追い掛けた。
 確実に泣いていた。今追い掛けなければきっと六耀は、泣いていた事実さえなかったことにしてしまうだろう。
 一人で何でもやってしまう。周りから見れば自立していると捉えられるその長所も、時雨から見れば危ういとしか思えない。
 一人で何でも抱えてしまっては、いつか限界が来る。時雨じゃなくてもいい、妖華でも春雷でもいい、有り得ないとは思うが月花だって構わない。誰かの傍で泣いてくれるなら、時雨だってたかが涙一つでここまで心配はしない。
 心配するのは、それをしないのが六耀だからだ。

(どっちに行った?)

 部屋を出た足音すら聞いていなかった自分に呆れてしまう。あてずっぽうに右を選択し、走り出す。
 階段に差し掛かり、上か下か迷っていた時、不意に柔らかな声が聞こえた。

「あら、時雨様?」
「あれぇ? トキ、どうしたの~?」

 小首を傾げる桜と春雷に、時雨はこれ幸いと六耀を探している旨を告げる。

「六耀を探してるんだ、見なかったか?」
「リク? リクならさっき、すごい勢いで中庭の方に歩いて行ったのが窓から見えたよ~?」
「また逃げられたのですか? 時雨様。今度は何をなさったんです?」
「滅多なこと言うなっ、今回は何もしてない!」

 多分、と心の中で付け加えてしまう自分がちょっと悲しい。が、今はそんな事をしている場合じゃない。

「ありがとなっ、二人とも!」

 タン、タン、タンッ、と2段抜かしで駆け降りていく時雨を見た桜と春雷は、顔を見合わせてくすっ、と笑った。

「本当に六耀様は、時雨様に愛されてますわね」
「リクも、トキの事は大事にしてるけど……トキ、きっと気づいてないよね」
「ふふ。見ていて飽きないお二人です」
「ね」

 と、そんな事を言われているとは露知らず、時雨は春雷の言った通り、中庭に向かったであろう六耀を追い掛けた。そして────。
 椿の花を淋しげに撫でる六耀の姿を見つけた。声が届く距離まで走って、思い切り強く名を呼んだ。

「六耀っ!」
「と、時雨!? ちょ、何で追い掛けて来るのさ!」
「おまえが逃げるからだ!」

 時雨の姿を見つけた途端、またもや走り去ろうとする六耀を見て、心の中で盛大に後悔した。声をかけずに近寄って捕まえてしまえば良かったと。
 だが、後悔先に立たず。追いかけっこは続き、もうすぐ春には見事な花を咲かせる桜並木に辿り着く頃。

「つかまだ逃げる気かよっ」
「時雨が追い掛けて来るからだろ!」
「おまえが止まればっ、追い掛けねーよっ」
「ほっとけばいいだろ、僕なんか!」

 六耀にとっては何気ない言葉。
 だが、時雨にとっては────。

「それを俺に言うか」

 ぐん、と走るスピードを上げて、六耀に近づいていく。それに気付いた六耀は尚も逃げようとするものの、元より体力が違う二人の決着は、すぐに着いた。

「痛っ……!」

 時雨が、太い桜の幹に六耀の華奢な体を押し付けた事で。

「ちょっ……時雨! 離し……っ!」
「……誰をほっとけばいい、だって?」

 低く、耳元で囁く。肘鉄を食らわされないように、六耀の両腕をがっちりと封じこめる。ついでに膝蹴りもされないように細心の注意を払って。

「俺が六耀をほっとけるって、本気で思ってる?」

 ぴくり、と微かに六耀の肩が震えた。俯く六耀の顔が見えないから、この反応がどういう意味なのか、推し量ることが出来ないけれど。
 せめてこの言葉だけは、六耀に届くように。

「……ほっとけるわけ、ないだろ」

 他でもない六耀が、目の前で泣いていたのに。ましてそれが、惚れている女なら。
 ぎり、と手首を押し付ける力を強くして、はっきりと言葉にする。

「……誰かに何か、されたのか?」
「この城の中で、僕に何かあったら妖華が黙ってないよ」
「だったら、何で」
「……椿の花、がさ」
「は? 椿の花?」

 顔をあげた六耀の瞳が、時雨を通り越し、走ったことで遠ざかってしまった椿の花を、緑の中に映える強い赤を映して、淋しげに微笑んだ。

「窓から見えたんだ、椿の花。そしたら花ごと、ボトッと落ちて……」
「ああ。まあ、それが椿の花の特徴だよな」
「知ってはいたんだ。だけど、実際に見たら何か……いたたまれなくて」

 いたたまれない? 六耀の言葉に含まれる意図が読み取れない。

「縁起が悪いのにどうして植えたんだ、って、見回りの衛兵が言ってて。だけど僕には、とても潔く見えたんだ。……どうしてか解らないけど」

 感じ方は人それぞれだ。だからきっと、六耀が感じたいたたまれなさも潔さも、椿の花が持つ印象なのだろう。

「それで……その潔さがなんか、羨ましくなって」

 気付いたら泣いてたとこに君が来たんだ、と六耀が俯く。その仕草を見た時雨は、盛大にため息をついた。

「はぁ~……」
「だ、だから言ったじゃないか、ほっとけばいい、って」
「ほっとかねーよ」

 コトン、と六耀の肩に額を落とした。ともすれば抱き締めてしまいそうな本能を捩じ伏せながら。

「な、時雨……っ!」
「ったく。心配させるなよ……」

 だけど、そんな他愛ない理由で良かったとも思った。六耀が泣くのも、辛い思いをするのも、時雨は嫌だったから。

「勝手に心配したのは時雨じゃないか」
「そうだな、勝手に心配したのは俺だ。だけど何も、逃げ出すことはなかっただろ?」
「気付いたら逃げてたんだ。条件反射ってやつじゃない?」
「お~ま~え~なぁ~っ!」
「殴る? 僕を殴ると妖華の倍返しが待ってるよ?」

 思わず六耀の頭に軽いげんこつを落とそうとすれば、六耀から冗談抜きに脅される。
 ……やる。間違いなくやる。六耀を溺愛している妖華のみならず、下手をすれば月花に春雷までも加わるだろう。
 恐ろしい想像を追い出そうと頭を振り、すぐ傍で忍び笑う六耀から離れる。

「出来ないでしょ?」

 悪戯が成功した子供のように笑う六耀は、時雨の目には『愛しい女』でしかなくて。
 無意識のうちに、結ってある長い髪を指で掬い上げ、それに合わせるように僅かに身を屈め────。

「と、時雨……?」

 恥ずかしげに視線をさ迷わせ、頬を染めるその反応に、時雨がフッと表情を和ませて髪に口づけようとした、その瞬間。
 ボッ! と六耀の髪先が燃え、時雨の指をも焼いた。

「熱っ!? な、六耀、髪が……っ」
「燃えてない燃えてない。焼けたのは君の指先だけ」
「あ?」
「ほら、後ろ」

 指差された先、振り向いた間近に、目を細め、口元も三日月のように笑う二人の師の姿。

「げ……っ」
「……我の可愛い六耀の髪に口づけるとは……相応の覚悟があっての事だよね? 時雨くん?」
「そうよねぇ。アタシの可愛い六耀ちゃんの髪にキスなんて……覚悟は出来てる?」
「ちょっと待て! 言い訳ぐらいさせろぉっ!」
「「問答無用!」」

 雷撃系、炎系、様々な魔法が時雨を襲う中、六耀は一人離れて事の成り行きを見守る桜と春雷の傍へと歩いた。

「リク、いいのー? 止めなくて」

 ドーンッ、と巨大な魔法が炸裂する場所を、春雷が指差す。

「僕に止められるわけないじゃないか」

 そう、まがりなりにも師である妖華を止められるわけがないと六耀は肩を竦め。

「会議中のお兄様にお見せしたかったですわ、この光景」

 くすくす笑う桜は、会議を行っているであろう部屋に視線を移した。

「六耀っ! 見てないで助けてくれーっっ!」
「む。まだ喋る元気があるならば!」
「最大魔力でとどめよっ」

 逃げ惑う時雨と、意気揚々とした妖華と月花を眺めた六耀は、そっと苦笑した。

「……ま、骨ぐらいは拾ってあげるよ、時雨」

 とりあえず、傍にある桜の木と、離れている椿の花まで魔法の余波が届かないことを祈っておこうかな、うん。

→ 「涙の理由 side:六耀」


※あとがき 兼 朱音さんへ私信

ごめんなさいっ、これが限界でしたっ。甘めのお話とのリクエストだったのに、どうしてこう、私が書くとシリアス展開まっしぐらになるんでしょう……。
最初に思い浮かんだのは、六耀さんにドレスを着せよう! だったのですが……どうにも着てくれなくて断念しました(笑)だけど、いつもヘタレな時雨さんにちょっとでもいい思いをさせてみたくて、「六耀さんを心配する時雨さん」の図になったんですが……あれ? いい思いしてない、です、ね……(苦笑)
虹霞の世界に椿があるのかどうか解らないんですが……勝手に捏造してしまってごめんなさい。
書かせて下さって、どうもありがとうございました!
朱音さまのみ、お持ち帰り可です。 こんな作品で宜しければどうぞ~。

本家本元、私が書くよりももっと楽しい虹霞の世界へは、こちらからどうぞ! →「空想 i

   
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Comment

嬉し過ぎて顔が元に戻りません(笑)

琳架さん、こんばんは。この度は素敵な虹霞世界を見せて下さってありがとうございますっ! 本当ににやつきが止まりません!

前に書いて頂いた『たった一言で』の時も思ったのですが、琳架さんは私の話の深いところや細かいところまで掴んで下さっているので、嬉しくて堪らないです!
六耀が自立しているように見えて、時雨からすればそれは危なっかしいと感じている部分や、六耀が椿の花を潔いと思うと同時に羨ましいと思う切なさなどが……。私の心、琳架さんに丸見えなんでしょうか!?(笑)
大好きなシチュエーションである追い掛けっこで既にテンションが急上昇なのに、時雨が六耀を追い詰めた場面が好き過ぎてですね/// 不意に男らしいところを見せられるのが好きなんです!
そして、膝蹴りされないように用心しているところに笑ってしまいました。彼は一回、急所を膝蹴りされてますもんね^^(笑)
いい雰囲気になったかと思いきや、師匠コンビがここでもまた邪魔を! 琳架さんに虹霞を書いて頂けたら、もしかしてもしかすると二人だってキスくらいは……と想像していたので、「妖華に月花、邪魔をするなー(涙)」と、時雨以上に残念がってしまいました(笑)
本っ当にありがとうございます! また私のサイトにも飾らせて頂きたいです♪ その時には例の如く、長い感想文を付けます。ここに綴っただけじゃ言い足りないんですよ(笑)

それでは、素敵なお話をありがとうございました! ずっとずっと、大切にしますv
  • posted by 朱音
  • URL
  • 2011.02/21 18:53分
  • [Edit]

一安心です(笑)

朱音さん、こんばんは。どうやらお気に召したようで一安心です(笑)

どうしても追いかけっこは入れたかったんです(笑)だってそうでもしないと六耀さん、素直になってくれなそうな気がして。特に時雨さん相手では。しつこく追いかけることで、少しでも感情を出させたくてこうしました♪
最初は、背後から抱き締めて捕まえさせようかと思ったんですけど、……六耀さん、大人しく抱き締められててくれなかったんです……(笑)顔が見えないのを良いことに、それこそ鳩尾に一発、とかやりかねなくて。なので幹に押しつけて正面から覗き込む体勢に。
キス、させようかどうか迷ったんですよ。でも、勝手にさせてしまうのもどうかとも思いましたし、やっぱり中途半端だからこその二人のようにも思えたんです。なのでお師匠二人に邪魔して頂くことになりました(^_^;)

こちらこそ、元々のバレンタイン短編を頂いたおかげで書く元気が戻ってきたことに対して、本当にお礼を申し上げます。書かせて下さって、ありがとうございました!
  • posted by 琳架
  • URL
  • 2011.02/21 20:02分
  • [Edit]

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