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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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バレンタインSS 不安の解消法 

お祝いはチョコケーキ 目次 一次創作Index

ちょっとおまけ
帰り道の伊吹と里沙です。



「……で、お前はいつになったらくれるわけ? チョコレート」

 既に部活も終わり、帰途に着いているというのに、一向に里沙からのチョコレートは出てくる気配を見せなかった。
 幼馴染みである希美からのチョコレートを受け取った事は一応報告したものの、里沙は嫉妬さえも見せずにただ一言「そっか。ちゃんと食べるんだよ?」と言っただけだ。

(……俺ら、付き合ってんだよなぁ……?)

 不安になりながらも切り出すと、里沙はきょとんとして伊吹を見上げてきた。

「欲しかったの?」
「里沙? 本気で言ってんのか?」

 じとーっ、と若干気落ちして、けれど大半は冗談だよな? と期待を込めて。
 見つめ合い、お互いの気持ちを確かめるように覗き込む。

「……ふふっ」

 先に視線を逸らし、口元に手を当てて笑ったのは里沙だった。

「ちゃんとあるわよ、伊吹の好きなチョコケーキ。単に、学校に持っていきたくなかっただけなの」
「何で?」
「……だって」

 口ごもる里沙の手が、伊吹のコートの裾をきゅっと掴んだ。彼女がこんな行動に出るのは珍しい。その小さな手を握り締めたい衝動に駆られながら、伊吹は里沙の言葉を待った。

「だって、学校に持っていかなければ、……伊吹とこうやって、一緒に帰る時間、少しでも長くなるかな、って……思ったの」

 チョコケーキ欲しさに、私の家まで来てくれるかなって、思ったの。

 囁くような、小さな言葉。静かな2月の夜に響くそれは、伊吹の耳にはっきりと聞こえた。

「……何かそれ、俺が里沙よりチョコケーキが好きみたいに聞こえるんだけど」
「え? 違うの?」
「当たり前だっ!!」

 思いっきり否定しなければずっとそう思っていたのかと、伊吹はがくりと肩を落とす。チョコケーキは好きだけれど、それを作るのが里沙だという事の方が伊吹には重要なのだ。どうやったらそんな勘違いが出来るのか不思議だった。

「当たり前、なんだ?」

 嬉しそうな口調。言わされてしまった感が無くもないが、本心なので「悪いかよ」とちょっとだけ拗ねて見せた。

「ううん。不安にさせて、ごめん、……ね?」

 見上げてくる彼女の瞳が、伊吹の顔色を窺う。そんな彼女にちょっとだけ意地悪をしたくなったのは……僅かながらも不安にさせられた仕返しと言う事で許して貰おう。

「……許さない、って言ったら?」
「え……」
「結構傷ついたぞ、俺。どーしてくれる?」
「ど、どうするも何も……っ」

 伊吹はめったに怒らない。だからこそ、里沙が伊吹の変わりように戸惑っていることが手に取るように解る。
 さて、彼女はどうするだろう? 内心でにやにや笑いながら、表情には出さぬまま、里沙を見下ろしていると。
 コートの裾を掴んでいた里沙の手が、胸元に移動して。
 くんっ、と僅かに引き寄せられたと思ったら、頬に柔らかなものが触れた。

「……これじゃダメ?」

 頬に触れたであろう唇が、言葉を紡ぐ。暗がりでも解るほど、里沙の顔は耳まで赤くなっていた。

「……ダメだ」
「じゃ、じゃあどうしろって言……」
「ちゃんとキス、してもいい?」
「え」
「というか、する」
「え、あ、ちょ、待っ……!」

 華奢な体を片腕で抱き寄せて、のけぞるように上向いた唇に、そっと触れる。
 今までずっと、唇を重ね合わせるキスはしなかった。どうしても伊吹が里沙に触れたい時は頬や額にキスを落とした。
 ただそれだけの行動で、いつも真っ赤になってしまう里沙の反応だけで満足していたけれど、今回ばかりは満足出来なかった。頬とは言え、初めての里沙からのキスだから。
 触れたのは、ほんの数秒。なのに、唇が熱を持ったかのように熱かった。

「伊吹……?」
「里沙がキスしてくれるなんて思わなかった」

 壊れ物を抱きしめるように腕を回して、耳元で笑うと、里沙はくすぐったそうに身をよじった。

「あ、あれは伊吹が……っ」
「俺キスしてなんて一言も言ってないよ?」
「だ、って……」
「ん?」

 里沙の反応が楽しくて、もう少しだけからかっていようと決めた時、突然靴の爪先を踏まれた。

「いってぇ!?」
「もういいっ、伊吹にチョコなんてあげないからっ」

 ふいっ、と顔を背けて、くるりと踵を返す彼女を、ひょこひょこと追い掛けた。

「ちょっと待て、何でそうなるっ!?」
「私をからかって楽しんでる罰!」
「だからって爪先踏むなよ、俺サッカー部だぞ! しかもレギュラー!」
「わざとです!」
「りーさーっ!」

 結局初めてのキスの甘い余韻などどこへやら、伊吹は里沙の家につくまで謝りつづけるはめになった。
 とはいえ、里沙お手製のチョコケーキを美味しそうに食べる伊吹を前にしては、里沙の怒りも持続するのは難しくて。
 帰り際に柔らかなキスを一つ残して、「また明日ね」と二人は笑った。


【後編】へ← お祝いはチョコケーキ 目次
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Comment

No title

ご無沙汰しております。りいです。
新年の挨拶を頂いていたのに、不義理者でゴメンナサイ~(汗)

「お祝いはチョコケーキ」拝読させていただきました。
伊吹くんと里沙ちゃんのやりとり、とーっても可愛かったです♪
こういうケンカしつつじゃれ合いつつ、なカップルは大好物なので、終始ニマニマしてました!
番外編があったということは…いつかまた書いてくださるのかしら。
なんて、さりげなくリクエストしてみたり(*^^*)

また今度、違う作品を読ませていただきますね。
では!
  • posted by りい
  • URL
  • 2011.03/01 14:03分
  • [Edit]

りいさん、こんばんは!
いえいえ、いらして頂けただけで嬉しいです~!

「お祝い~」みたいな二人を書くのは、実は苦手なんですが、気に入って頂けたようで良かったです♪
番外編……は、気が向いたら書くと思います(笑)

コメントありがとうございました! お暇な時にまたいらして頂ければ幸いです♪
私もまたサイトにお邪魔させて頂きます~。色々と読みたいのも溜まってますので(笑)
  • posted by 琳架
  • URL
  • 2011.03/01 17:25分
  • [Edit]

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