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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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バレンタインSS 想い出と、記憶【前編】

お祝いはチョコケーキ 目次 一次創作Index

お祝いはチョコケーキ 番外編
バレンタインSS



 ずっとずっと好きだった。離れてしまってからも、彼以外なんて眼中になくて。やっと念願叶って彼のいるこの街に戻って来られたのに……。
 あの人の傍には、自分じゃない女の子がいたんだ。



「暇そうね、希美?」
「……悪い?」

 くすくすと笑う、昔馴染みの多恵のその表情が、何となく気にくわなくて、じろりと睨み付けるけれど。彼女には全然堪えない事も知っている。

「もうすぐバレンタインね。希美はどうするの?」
「当然、いっちゃんにあげるに決まってるでしょっ」
「まだ諦めてなかったの?」

 はあ、とこれ見よがしに溜息をつかれて、それでも希美は引き下がらない。引き下がってしまったら。諦める事を、自分で許してしまったら。
 伊吹を好きだという自分の想いさえ、嘘になってしまうような気がして。

「……あれからいっちゃん、口きいてくれないし」
「だから、やりすぎだって言ったでしょ? サッカー部のマネージャーを次々辞めさせるなんて」
「……足手まといだったのは本当だもの」
「誰だって最初はそうでしょうが。先輩に怒られたーって良く手紙に愚痴を書いて送ってきたのは誰だっけ?」

 確かに、転校先の学校でマネージャーを始めた当初は、酷いものだった。だけど、挫けそうになるたびに伊吹の事を思い出した。サッカー部のマネージャーをやり始めたのも、伊吹の存在が大きかった。

『俺、絶対サッカー選手になるんだ!』

 黒い瞳をキラキラと輝かせて夢を語る伊吹は、『目標』というものが遠かった希美にとっては、それだけでヒーローみたいだったのだ。
 あの頃は、理由なんて無くても傍にいられた。でも、今は彼の隣に自分の居場所はない。
 伊吹の隣で、幸せそうに笑う少女。伊吹が今一番、大切にしている────里沙。
 憧れでもあった伊吹の隣を取られてしまった事が、悔しくて。必死に取り戻そうとして。一時は伊吹の隣から彼女の姿は消えていたのに。
 他ならぬ伊吹が、希美よりも彼女を望んだ。

『希美の気持ちは嬉しい。だけど、……俺が好きなのは、里沙で……お前じゃ、駄目だ』
『どうして!? いっちゃん、どうして私は駄目なの!?』

 あのあとすぐに、二人は付き合いだしてしまった。幸いにして、希美自身はそれを目の当たりにしたことはないけれど。

「……約束、したのになぁ……」

 伊吹の夢を、誰よりも近くで応援する。そう元気良く告げた希美に、伊吹は満面の笑みで応えてくれた。
 それは……忘れられない、幼い思い出。

「え……。思い出?」

 口に出して、驚いた。突然目を瞠った希美を、多恵が怪訝な瞳で見つめ返す。

「希美?」
「どうしよう多恵っ、いっちゃんを好きじゃない私なんて私じゃなくなっちゃう!」
「は?」
「だって、『思い出』になっちゃってる!」

 大切な『過去の記憶』ではなく、『過去の思い出』になる。それはまるで、想いの風化を意味しているようで────。

「……だったらいっそのこと、本当に思い出にしちゃいなさいよ」
「多恵、酷い!」
「酷くないわよ。誰が見たって伊吹と里沙ちゃんは相思相愛なのに、希美、あんただけがまだ現実を見てない」

 もう一度ぐらい、当たって砕けてきたら? そう言われて、希美は反論したけれど。
 ……事実に気付いてしまった以上、見なかった事には出来なかった。


お祝いはチョコケーキ 目次 →【後編】

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