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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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MIRAGE【9】 ~錯覚~

MIRAGE 目次  一次創作Index

『錯覚する。ここに彼女がいるのだと』



「このヴァーロイスに、更なる発展を! 乾杯!」
『乾杯!』

 ヴァーロイス王の声の元、すべての人達が満たされた杯を掲げ、飲み干す。本来ならば、バークレイ一家としてエイドも王宮にいなければならないのだが、今回は第2騎士隊の宿舎にいた。王家の血を引く貴族、と言うだけで、今までは城下の巡回・宿舎の見張り番からはずされていたのだが、それではさすがに、後輩達に示しがつかないとエイド自ら志願したのだ。
 杯を飲み干した後輩達は、いてもたってもいられない、と言うかのようにワクワクした顔でエイドの前にやってくる。

「先輩、もう行ってもいいですか!?」
「ああ、いいぞ。ただし、時間になったらちゃんと戻って来いよ?」
「はい!」

 建国式典の今日、城下は華やかさで溢れている。エイド自身、いつも王宮のバルコニーから見ているだけで、この目で直に見た事はないが、高い所から見れば、色鮮やかに飾り付けられた露店が並んでいる様は、まるで一面の花畑のように見えるのだ。

(そういや、ファラス……まだこの街にいるのかな)

 レイティアの過ごした街を見てみたいと言った彼女。街に着いた時点で、彼女の滞在先も決まっていなかったし、エイドも旅の支度で忙しく、結局あれから一度も会っていない。
 懇意にしている宿に紹介状でも書いて渡せば良かった、と悔やむけれど、この時期はどこの宿も一杯だ。いっその事、彼女も王宮に連れて行ってもらえば良かったかも知れない。

「エイド? あなた、まだいたの?」

 悩んでいると、不意に背後から艶やかな声が聞こえた。さらり、と肩からこぼれ落ちる亜麻色の波打つ髪が、彼女の艶やかさをよりいっそう引き立てている。

「まだ、って……一応宿舎の見張り当番なんですが、カジェリ」
「ここを襲撃するようなバカがいたら、私が速攻で潰してやるから、別に構わないわよ?」
「……それを防ぐ為にいるんです」
「何か言った?」
「いえ何も」
「そ? じゃあ私は中にいるから」
「はい」

 第2騎士隊の専属治療師、カジェリ・ヨルト。騎士隊の中でも随一の高嶺の花と称される彼女には、様々な男達からの誘いが絶えない。最初は微笑みながら丁重に「お断り」をしているカジェリだが、あまりにしつこいと実力行使も厭わない。
 巫女というイメージとは裏腹に、カジェリは剣術、棒術、槍術をある程度は修めている。加えて光の魔法でも使ってしまえば、彼女に適うものはそう多くはないのだ。
 今まで一体どれだけの人数が、彼女に挑んで負けた事か……。エイドは表情には出さずに心の中で苦笑した。

「あっ、エイド先輩っ」
「ん? 早いなお前ら、……え」
「あ……」
「ファラス!? な、どうしたんですかその格好!」

 遊びに出かけたはずの後輩に連れられてきたのは、間違いなくファラスだ。だが、彼女の髪は乱れ、服も泥だらけ。ざっと見たところ外傷はないようだが、一体何があったのか。

「えぇと……」
「万引きを逮捕するのにご協力頂きました!」
「……は?」

 万引き逮捕に協力? どういう事だと首を傾げていると、後輩の少年が興奮気味に話し始めた。

「髪飾りを売ってた店で、万引きがあって。それをこの人が見咎めて、注意して下さったんですけど、その万引き親父がこの人を突き飛ばして……だけどその後、呪文も唱えずに魔法で拘束してて!」
「……お前なぁ……。興奮気味に話す前に、少しはファラスを見習えっ」

 騎士ではなく一般人が拘束したという事実に頭を抱えてしまう。当のファラスはくすくすと笑っているだけだったけれど。

「あなたもです、ファラス。何も一人でやる事はなかったでしょう」
「騎士様を呼んでいる間に、逃げられてしまうと思ったんです。でも、差し出がましい真似をしてしまって、申し訳ありません」
「いえ、こちらこそご協力頂きありがとうございます。……先にその服、洗いましょうか」

 泥だらけの格好では、街を歩いても奇異の目で見られてしまうだろう。ここならカジェリもいるし、彼女に着替えを用意して貰えばそれで済む。
 大丈夫ですよ? と遠慮するファラスを半ば強引に浴室に案内し、その間にカジェリを呼びに行く。事情を説明すると、彼女は着替えを取り出しながら笑った。

「ふふ、珍しいわね? エイドが女の子に興味を持つの。レイティア以来じゃないかしら」
「……ファラスを見たら、カジェリもびっくりしますよきっと」
「え?」

 ディックでさえ驚いたのだ。直属の上司としてレイティアと接していたカジェリがファラスを見たら、どんな反応をするだろうとひそかに楽しみにしながら、エイドはあとを任せ、見張り当番に戻った。

「お待たせ、エイド。終わったわよ~」
「あ、は……」

 はい、と返事をするはずだったのに。振り向いたその先には、光の巫女の衣装を身につけた……ファラス。髪と瞳の色が違うだけで、本当に、レイティアと瓜二つの少女がそこにいた。

「……一瞬、レイティアかと……」
「そーねー、この髪を短くしたら、本当にレイティアそっくりよね?」

 まだ乾ききっていないらしい長い髪を、うなじで一つにまとめるようにカジェリの手が動いて。
────錯覚する。ここに彼女がいるのだと。すぐ傍に、手の届く場所にいるのだと。

「ほーらっ、いつまで見とれてるの。この子を連れて、お祭り見物でも行ってらっしゃいな」
「え? あ、でも見張り当番……」
「すぐ誰か戻って来るわよ。大丈夫。はい、行ってらっしゃい」
「きゃ……っ」
「わっ」

 トンッ、と突然カジェリに背中を押されたファラスがエイドに倒れ込んでくる。慌ててその体を抱き留めて、華奢な肢体を両腕で支える。

「ご、ごめんなさい」
「あ、いえ。……どこか、行きたい場所があれば案内しますが」
「行きたい場所と言っても、私は……」

 そうだ、彼女にとってこの街は初めて訪れる場所だったのだ。ならば。

「……レイティアが好きだった場所へ、行ってみますか?」
「え……。覚えて、るんですか?」
「俺も大好きな場所ですから」

 少し驚いたような顔のファラスに、エイドはにこりと笑って見せた。


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