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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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MIRAGE【8】 ~わがまま~

MIRAGE 目次  一次創作Index

『嫌! 待ってるだけなんて、絶対嫌!』



「どういう事だ、アリーナ!」

 普段なら絶対に走らない王宮の廊下を、エイドは荒々しく走り抜け、従姉であり王妹でもあるアリーナの私室のドアを、力任せに開いた。

「び、っくりしたぁ~。どうしたの、エイド?」

 部屋の主は、呑気に窓際で紅茶のカップを手にして優雅に微笑んでいる。細い金色の髪が、窓から差し込む光を反射して、キラキラと輝いた。

「どうしたの? じゃない! どういう事だよ、お前がツァリアに行くなんて!」
「……ああ、その事ね」

 カチャ、と小さくカップをソーサーに戻す音。椅子をひいて、立ち上がる音。その間、エイドはアリーナから一瞬も目を離さなかった。

「あなたが里帰りしている間に、ツァリア王からの使者が来たわ」
「……用件は、光の巫女の派遣か」
「そうよ。だけど、前例がある以上、大神殿の巫女達を送るわけにはいかない。だから私が行くの」
「あのな! 国交を絶ってどんだけの時間が経ってると思ってんだよ!? 今のツァリアは、どんな危険があるか解らないんだぞ!?」
「解ってるわ。だからこそ、あなた達を護衛として指名したのよ? ランディル、ディック。そして、エイド。この国で私が一番信頼している騎士、3人を」

 にっこり、と絶対無敵の笑みで告げられて、エイドは何も言えなくなってしまった。
 否、彼が言おうとした言葉すべてに対して、彼女のしっかりとした答えが返ってきてしまう事を悟ってしまった。
 ヴァーロイスの王女であると同時に、高位の光の巫女でもあるアリーナ。
 きっとたくさん、たくさん考えたはずだ。行かぬという選択肢がないのなら、彼女自身が無事にツァリアへと辿り着く為にはどうすればいいのか。
 アリーナの安全を最優先に考え、尚かつ彼女が王女としてではなく、ありのままの自分で一緒に旅を出来る騎士と言えば、確かにエイド達をおいて他にないだろう。
 深く深く溜息をついて、旅立つ日時を聞こうとした時、閉めたドアがノックされた。

「アリーナ様、ランディルです」
「どうぞ」
「失礼いたします」

 ぎ、と思い音を立てて扉が開く。現れたランディルに向かって、アリーナは輝くような微笑みを浮かべた。

「お帰りなさい、ランディル」
「アリーナ様」

 ランディルが帰ってきた喜びを滲ませるアリーナの声とは対称的に、専属騎士の声は固い。その声音から何を感じ取ったのか、アリーナの瞳に固い決意が宿る。

「……もう、決めた事よ」
「ですが」
「ランディル。……あなただって解っているのでしょう?」
「……はい」

 端的な言葉ばかりで、エイドには2人がどういう意図を持って会話をしているのかが解らない。ただ、彼らには通じているその会話の内容を聞こうと2人の名前を唇に乗せれば。

「アリーナ? ランディル?」

 ランディルとアリーナは、とてもよく似た表情をした。微笑んではいるけれど、その瞳は笑っていない。けれど今のエイドには、2人の瞳に宿るその色を読みとる事は出来なかった。

「出立は、式典が終わってすぐよ。さすがにツァリアに行くなんて知られたら、みんなに止められて身動きが取れなくなってしまうから」

 くすくす、と口元に手を当てて、アリーナが笑う。ただでさえツァリアという国を恐れる人が多いのだ。そんな国に行くなどと知られれば、国民すべてが敬愛するこの王女を止めるだろう。

「メンバーは? 俺達だけか?」
「いいえ? 光の大神殿から一人。大巫女様ご推薦の光の巫女よ。確か名前は……シャスタ、と言ったかしら」

 私もまだ会っていないのだけど、とアリーナが呟く。見も知らぬ赤の他人ではあるが、大神殿の最高位である大巫女直々の推薦ならば間違いはないだろうと騎士2人も納得する。

「それから、良ければ……パミラも一緒に」
「は!? あいつはダメだ!」

 突然パミラの名前が出て、その瞬間にエイドは力強く否定した。

「どうして? 騎士試験には合格したと聞いたわ。それに、あなた達が一緒なら、訓練以上の実力をつける事が出来るじゃない」
「まだまだ未熟な我が妹を、いつ危険があるか解らぬ旅には連れてなど行けません」

 かしこまった口調で控えめにランディルが拒否を示すと、「でも」とアリーナの視線がエイドとランディルの背後に移った。

「連れて行かなければきっと、こっそりついてくると思うわよ? ね、パミラ」
「なっ!?」

 慌てて振り向けば、えへへ、と笑うパミラがいた。

「お前……っ! いつから聞いてた!?」
「だって、ちょっと開いてたよ? 扉」

 いつの間にやってきたのだろうか。アリーナとの話に夢中で、扉にちっとも注意を払っていなかった。騎士としてあるまじき失態に、エイドはそっと溜息をつく。

「私も行く。連れてって?」

 エイドの目の前に立ち、パミラが見上げてくる。ダメだ、と告げようとしてパミラを見下ろせば、……義妹の瞳は、不安そうに揺れていた。

「……パミラ?」
「……行きたいの。ツァリアなんかに行くなら、……っ」

 俯いて、ぎゅっ、と拳を握るパミラの声が、微かに震えている。しかし、それ以上の答えは返ってこない。まるで言葉にするのを怖がっているかのように、唇をひき結んだまま。

「……わがまま言うな。大人しく騎士隊舎で待ってろ」
「嫌! 待ってるだけなんて、絶対嫌!」
「パミラ!」
「だって……! だって、ツァリアなんて……っ」
「……パミラの知らない所で、エイドとランディルが危険な目に遭うのが嫌なのよね?」

 静かに、確かめるように告げられたアリーナの言葉に、パミラの頭が小さく揺れる。

「そんなの、パミラが知らないだけで、今までだって……」

 危険な事はたくさんあった。白状すれば、体のあちこちに傷跡はあるし、全治2ヶ月ほどの怪我を負った事だってある。

「そうじゃないのよ。今までは、どんなに遠くたって国内だったでしょう? だけど今度は、ツァリアだから」

 この国の、ほぼすべての人が足を踏み入れた事のない国に行くのだ。どんな危険があるか解らない所へ。

「……戦う力がないのなら、待つ事しか出来ないけれど、今は違うでしょう? 騎士試験に合格したなら、それなりの実力はあるはず。それなら、一緒に行きたいに決まってるじゃない。それが大切な人なら、尚更……」
「……お願い。お兄ちゃんの言う事はちゃんと聞く、魔法の訓練だってちゃんと頑張る、だから……っ」

 黒い瞳から零れ落ちそうになる涙を必死に押し止めて見上げてくるパミラ。ランディルとエイドは、どちらからともなく顔を見合わせる。
 どうする? と視線で問いかければ、どうしようもないだろ? と答えが返ってくる。アイコンタクトだけで話す兄2人を、パミラが不安げな面持ちで見上げているのが解る。

「……配属、もう決まってるよな?」
「恐らくは。だがどっちにしろ、入隊して半年は見習い期間だ」

 つまり、騎士とは名ばかりで、実戦など出してはもらえない。毎日が訓練の連続なのだ。いてもいなくても変わらないのなら……連れて行ったとしても何も問題はない。ただ、ランディルとエイド、ディックの負担が少し増えるだけで。

「……パミラ、一度だけ聞く。俺達と一緒に来るのなら、訓練以上の危険がつきまとう。それでも、来るか?」
「行く」

 言葉少なに、真剣な声で、パミラはエイドとランディルを真っ直ぐに見据えた。結局、何だかんだ言って自分もこの義妹には甘い事を自覚して、エイドは苦笑した。


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