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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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黄昏色の詠使い 朝日に願う

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1巻 ゼッセル、ミラーの元へ戻ったエンネ。


「うそでしょ……。あなたなの、ねえあなたなの────」

 名を思い出せない『彼女』が詠んだ漆黒のグリフォンの背に乗って、エンネは叫んだ。
 どうして、どうして思い出せないのだろう。私を逃がして、代わりに戦って、この学び舎を守ろうとしてくれているあの子の名前を。
 思い出せぬまま、一年生校舎が間近に迫り、眼下では触媒カタリストが尽きかけ、キマイラに苦戦している幼馴染み二人の姿。

『あれか?』

 まだ聞き慣れないその重低音。肯定する間もなく翼を羽ばたかせ、グリフォンは降下する。危なげなく着地したその背から飛び降りて、二人に駆け寄った。

「ゼッセル、ミラー! 無事!?」
「エンネ?」
「お前……それ……!?」
『主の命により加勢する』

 ただそれだけを告げ、グリフォンは迫るキマイラに向かって羽ばたいていく。圧倒的な力の差を見せ付けるかのように、キマイラは次から次へと還っていく。

「どういう事だエンネ。何が起こっている?」

 メガネのブリッジを押し上げながら、ミラーが問い掛けて来る。グリフォンが尽くキマイラを倒してくれるので、ようやく一息つけたらしい。
 エンネは『彼女』に渡された革袋を、ミラーに渡しながら首を横に振った。

「思い出せないの……! 夜色名詠、それは覚えているのに、名前が出て来ないっ……!」

 それがとても悔しい。そう、僅かに唇を噛み締めると、座り込んでいたゼッセルが、疲れたような声で一つの名前を告げた。

「イブマリー・イェレミーアス。……あいつなんだろ?」
「イブマリー……。……そうよ、そうだわ!」

 言われるまで思い出せなかった。教室の端で、誰もが異端の名詠を嘲笑う中、決して諦めなかった少女。どこか達観した感のある彼女を、エンネも僅かながら馬鹿にしていた。そんな名詠式なんて、作れる訳がないと。

「さっきまでジェシカ先生もいたんだ。……泣いていたよ」
『あなたが……正しかったのね。イブマリー』

 そう、涙を流していたらしい。そして今、エンネも泣きたい気持ちでいっぱいだった。

「私……っ! 名前も呼べなかったっ……!」

 クラス中で小馬鹿にしていて、『独りぼっちだった』ではなく、『独りぼっちにさせてしまっていた』彼女に、今、自分達の大切な場所が守られようとしている。否、場所だけではない。夜の真精イブマリーは、エンネ達同級生をも守ろうとしてくれている────。

「────あの竜は?」
「解らないわ。私が会ったのは、イブマリーだけ、そしてあの子が、……夜の真精だと思う」

 エンネの言葉に、ミラーが目を丸くし、ゼッセルは口をぽかんと開けて。

「ちょっ……と、待て。そんなこと、有り得るのか……?」
「有り得るか有り得ないかじゃないわ。現実に彼女はここに存在るのよ」

 成長した姿ではなく、夜色のドレスを着たイブマリーが確かに存在しているのだ。

「一体どうやっ、……っ!?」

 ドンッ! と稲妻が落ちる音に視線を向ける。ここからでははっきり見えないけれど、イブマリーが宣言した通り、戦い始めたらしい。

「ヒドラはわたしとカインツで引き受ける。……そう言っていたわ」

 イブマリーからエンネへ、エンネからミラーへ手渡された革袋の中から、彼が3つの人工宝石を取り出す。

「なら、俺達がやる事は一つだな」

 その内の赤────人工イミテーションルビーをゼッセルに投げつけて。

「おう! 第二音階で片付けてやる!」

 無造作に投げられたそれを、器用にキャッチしたゼッセルがにやりと笑い。
 グリフォンが守るのとは反対方向からやってくるキマイラに、三人揃って名詠式を唱え始めた。




 夜明けが訪れ、エンネは有翼馬ペガサスを3体詠びだし、カインツとイブマリーの姿を探した。
 しかし、四年生校舎の屋上には、カインツ一人しかいなかった。

「カインツ!」
「あ、エンネ。無事だったんだね、良かった。ゼッセル、ミラーも、久しぶり」

 のんびりと枯れ草色のコートに手を突っ込んだ彼は、にこやかに笑っていた。

「イブマリーは!?」
「……還ったよ」

 穏やかな声音。……何故だろう? 先程までのカインツと、どこか違うような……小さな違和感を覚えながら、エンネは彼の言葉を繰り返した。

「還った……。そう……」

 言いたい事があったのに。
 過去の事を謝るのではなく、ただ、ありがとうって……私達を、この校舎を、守ってくれてありがとう、って────そう、言いたかったのに。

「……いつかまた、会えるかもしれないよ?」
「え?」
「だって、イブマリーの後継者がいるんだから」

 カインツが誰の事を言っているのか、すぐに解った。
 現在ただ一人、夜色名詠の使い手たる───。

「ネイト・イェレミーアス、か」
「……そうね」
「そうだな。いつか……会えるといいな」

 完全に昇った朝日に願うかのように。かつての同級生達は、眩い光にそっと瞳を閉じた。


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