Mirage

オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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MIRAGE【6】 ~出逢い~

MIRAGE 目次  一次創作Index

『……違う。そうじゃない、だってあいつは─────』



 ローニャの村から王都までは、近いとは言っても半日かかる距離だ。時々休憩を入れて足を休め、喉を潤す。

「あれ。もう無くなったのか」

 竹筒を上下に振っても、ちゃぷちゃぷという水の音はもう聞こえない。今飲んだのが最後の一口だったらしい。

「なあ? この近くに湖あったよな?」
「ああ、あるぞ」
「俺、ちょっと水汲みに行ってくる。他にも水、欲しい奴いるなら竹筒寄こせー?」

 立ち上がり、歩き詰めで疲労し始めている後輩達に訊ねると、素直に差し出された竹筒が6つ。エイド達が考えるよりも、水の消費は早かったらしいと苦笑する。

「俺も行くかー?」
「いーよ、これだけだし。少し待っててくれ」
「気を付けろよー?」

 おう、と軽く返事をして、計7つの竹筒を抱えて歩き出す。確かこっちの方だった、と記憶を頼りに湖を探す。5分程歩いて、エイドはふと歩みを止めた。

「歌……?」

 微かに、高い声が聞こえる。

「……する……よ、わた……み……て」

 ゆっくりとしたバラード。その歌声が、記憶の中の歌声と、重なる。

(レイティア……!?)

 彼女ではない。彼女であるはずがない。3年間探しても見つからない彼女が、こんな所で、見つかるわけがない────。そう言い聞かせながらも、エイドは立ち止まっていた足を走らせた。
 辿り着いた先には、空の色を映し出す、真っ青な湖。その湖畔には、真っ白な花が咲き乱れている。六枚の細長い花びらが特徴的な……ティルトの花だ。

「すげ……」

 ティルトの花は国花でもあり、けれど群生する場所は滅多にない。エイド自身、こんなに見事に咲き乱れるティルトの花を見たのは初めてだ。
 歌は、まだ続いている。エイドはその歌声の方向へ顔を向けた。そこには、ティルトの花を一本一本指先で摘み取り、編み込みながら、淋しそうに歌っている少女がいた。
 腰まで伸びた、とても長い黒髪。耳の上あたりの髪を両脇三つ編みにして、後ろで一つに止めている。

「愛する人よ、私を見つけて。あなたのそばにいつもいられるように……」

 高く、澄んだ綺麗な歌声。思わず心を奪われそうな声にふらつきながら、エイドは少女に近づいていった。
 近づくにつれて、朧気だった横顔の輪郭がはっきりしていく。
 もう少し。もう少し近づけば。彼女が、振り向いてくれれば……。

「誰……?」

 途中で気配に気付いたのだろう。エイドの方を、少女が振り返った。ティルトの花束が、膝の上に置かれている。

「レイティア……!」

 その顔を見た途端、エイドは無意識に唇に名を乗せた。
 少女は、エイドの記憶の中にあるレイティアに、瓜二つだったから。いや、あの頃よりも大人びて、成長した彼女だと思った。それなのに。

「あなたは、レイティアを知っているのですか?」

 少女の唇は、エイドの欲しい答えを返してはくれなかった。

「レイティアじゃ……ないのか……?」
「……ごめんなさい。私は、ファラス。……レイティアの、実の姉です」

 言われてみれば、レイティアであるはずがないのだ。彼女は、栗色の髪と翡翠色の瞳を持っていた。しかし、今、目の前にいる少女────ファラスは、漆黒の髪に紫紺の瞳。似ているのは顔と声だけで、他はすべてレイティアとは違う人間であると示していた。

「姉がいるなんて、……レイティアからは聞いた事がない」
「そうでしょうね。3年前、ようやく再会出来たのに……レイティアはその後すぐに、その生を終えてしまいましたから」

 生を終えた─────。それは、レイティアが既にこの世には亡いという事。
 突然の事実に、エイドは言葉を失った。

「……死んだ、のか……?」
「身体中が火傷だらけで……。どれだけ治癒魔法を施しても、レイティアを苦しめるだけでした」

 既に焼けてしまったその肌を再生しようとする光の魔法の効果に、彼女の体が保たなかったのだと、ファラスは続けた。何処か遠いその瞳は、助けられなかった妹の姿を映し出しているのか。
 ふっ、と淋しげに微笑わらったその表情が、一転して柔らかいものになる。

「あなたは? レイティアとはどういう知り合いですか?」

 エイドの顔を覗き込むように首を傾げるファラス。そんな仕草さえ、レイティアに見える自分に苦笑する。

「俺は、第2騎士隊に所属していて……レイティアは、俺達の騎士隊の専属治療師でした」
「そう……。……名前を、教えて頂けますか?」

 レイティアを覚えてくれている人は、本当に少ないから、と、ファラスが悲しげな瞳でエイドを見つめる。

「エイド。エイド・バークレイ」
「エイド……?」

 名を告げた途端、ファラスの瞳が驚きに見開かれる。滅多にないその反応に、怪訝な顔をすると、彼女はハッと我に返ったようだった。

「ごめんなさい。古代語にも、そんな単語があったのを思いだして……」
「古代語?」

「ええ。あなたの名前、古代語だと『希望』という意味があるんです。ご両親が、それを知っていてあなたに付けたのかは解らないけれど……いい名前ですね」

 名も無き大陸に、まだ「国」という境界さえ存在していなかった頃の言語がある。大方は解読が終了しているが、未だに意味の掴めぬ単語もあるらしい。

「……あの、あなたは、こんな所で何を……?」
「あなたと同じです。水を汲みに……ついでに少しばかり休憩してました。こんなにたくさんのティルトの花を見たのは初めてで……」

 思わず見とれてしまいました、とファラスが笑う。紫紺の瞳が、手元にあるティルトの花束に移り、一本を抜き取る。

「ところで、そんなにたくさんの竹筒をお持ちなら、近くにお仲間が?」
「あっ、そーだった! うわ、あいつらの存在すっかり忘れてた! やっべ、ランディルに怒られるっ!!」
「ふむ。ならば期待に応えようか?」
「どーせならみんなの分と思って持って来てみりゃ、ナンパしてるってどーゆー事、……レイティア?」

 ディックが目を見開いてファラスを凝視する。その仕草を見て、やっぱりそう思うよなと、エイドは内心ホッとした。ファラスをレイティアと見間違ったのは、自分がレイティアに会いたいと願っていたせいかとも思ったからだ。

「レイティアは、私の妹です。……あなた方は?」

 もう一度、ファラスに一から説明させるのも何だか気が引けて、エイドは自ら説明役を買って出た。けれど言えたのは、彼女がレイティアの姉であるらしい事だけで、そのレイティアについては……どうしても、口に出す事が出来なかった。
 それに気付いたファラスが、レイティアの死を唇に乗せると、ディックも言葉を失った。ちらり、とディックの視線がエイドに移る。
 あの日、あの業火の中、必死に彼女を捜したエイドの姿を、彼は知っているからだろう。

(……あれ? 何で俺、こんなに冷静なんだ?)

 レイティアがもうこの世にいないと知ってしまったのに。探してももう、彼女に出逢う事はないと解ってしまったのに。
 夢にまで見る程、彼女を求めていたのに。

(やっぱ……あいつを助けられなかったから、夢に見てただけか……?)

 罪悪感が自らを苛み、それを忘れるなとばかりに繰り返し夢に見るのか。レイティア自身を求めていたわけでもなく、単に、自分で自分を追いつめていただけなのか。

(……違う。そうじゃない、だってあいつは─────)

「エイド?」
「……そっか」

 そこまで考えて、エイドは妙に納得した声を出した。

「ん?」
「あいつが今、死んでたって俺には、どうでもいいんだ」
「は!? どうでもいいって、お前……っ」
「だってあいつは、生きてるよ」
「……お前、この人の話聞いてたのか?」
「聞いてたよ。認識もしてる。だけどさ、俺の中じゃレイティアは生きてるから。俺が忘れない限り、俺が生きてる限り、一緒に生きてる。……あいつがいなくなってからもずっと、俺はレイティアを忘れてない」

 心の中で、彼女は生きている。エイドが覚えている限り、彼女の存在は消えない。そうエイドが笑うと、ディックも「確かにな」と苦笑した。

「そう言う意味でなら、確かにあいつは生きてるよな。お前だけじゃない、俺の中にも」
「だろ?」

 王都に戻り、第2騎士隊に戻れば、レイティアを覚えている者はまだたくさんいる。レイティアの直属の上司であった専属治療師も、騎士隊の隊長も、共に光の神殿で修行した巫女や神官達も。

「……ありがとう────……」

 不意に、隣から嗚咽混じりの感謝の言葉が聞こえた。ディックと一緒に笑い合っていたエイドが振り向くと、ファラスの紫紺の瞳から、透明な雫が零れ落ちた。

「レイティアを、覚えていて下さって、……ありがとうございます……」

 そう静かに告げて、深々と頭を下げたファラスに、エイドとディックは笑いかけた。



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