Mirage

オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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MIRAGE【4】 ~昔話~

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『そんなバカな事があるか!』



「おめでとう、パミラ」
「ありがとう、お母さん!」

 今朝も作ってくれた鶏のスープ煮を口に運びながら、パミラが笑う。エイド達家族だけではなく、ディックの家族までがやってきて、ちょっとした宴会状態になっている。

「……あんなに酒呑まされて、あいつ、明日まともに歩けると思うか?」

 次から次へと、パミラの持つ杯には、酒が注がれていく。一応薄めてあるとはいえ、飲み過ぎれば二日酔いは免れない。

「大丈夫だろ。明日はケイト様もレト様も一緒なんだし」
「まぁな」

 騎士の任命式とはいうものの、実際は建国記念式典のおまけ的扱いだ。建国記念式典には、エイドを含める家族全員が出席しなければならない。

「こらパミラ、その辺にしておけ」

 さすがに見かねたらしいランディルが、パミラの手から酒杯を取りあげる。

「やーだー。まだのむ~っ」
「二日酔いで戦えるか、バカ。昨日も言っただろう、また魔物達が増えてると。二日酔いなんかで殺されたら、死んでも笑い者だぞ」

 各地の村や集落には、小規模ながらも光の守護神を祭る神殿がある。その神殿に住む巫女や神官達が結界を張っているから悪しき者達は入って来られない。だが、一歩この村を出れば、途端に襲われる可能性が高いのだ。

「ランディル。どれぐらいの比率だ?」

 それまで黙ってのんびり酒を飲んでいた、父親のレトが真面目な顔つきで問いかける。元騎士である父親は既に騎士隊を引退し、現在はこの村の自警団長である。

「去年に比べて35パーセント。決して高い比率とは言えないけど」
「低い、とも言えないな……」

 ぐいっ、と酒を飲み干した父のそばに、母が新たな酒瓶をコトリと置いた。

「ミュールとアリーナは、何も言っていないの? エイド」
「ミュール兄にもアリーナにも、俺は全然会ってないし。というか、俺は一応一般庶民だよ? そう気軽に王宮に出入りは無理」

 いくら従兄弟達に会えるとはいえ、やはり身分を考えると王宮に行くのは気が重い。

「それを気にしてるのはお前だけだって。ミュール王もアリーナ王女も、良く騎士隊に来てはお前をからかって遊んでるじゃん」

 お忍びでさ、とディックが笑う。確かに、地方への任務から帰ってくると、タイミング良く2人はエイドの前に現れる。毎度毎度変装して、城を抜け出して。一応、国務を預かる王と、それを補佐する王女のはずなのだが。
 エイドの母であるケイトが、先代国王の第一王女だった。自らの専属護衛をしていたレトを強引に口説き落とし、結局根負けしたレトと一緒に、このローニャの村に移り住んだのだ。

「その度に、第1騎士隊が大騒ぎになるんだが……。そうか、今度からお二人がいなくなったら、真っ先に第2宿舎に向かうとしよう」
「って、顔怖いぞ、ランディルっ! 先に言っとくけど、俺のせいじゃない!」
「気付いた時点で城に知らせないお前も同罪だ」
「あいつらに振り回されてて、そんな暇が何処にあるっ」
「風を使って知らせればいいだけだろうが。一応風使いだろ、お前は」
「だーかーらーっ! 呪文を唱える暇なんかないんだっつーの!」
「まぁ、それは置いておいて」

 仲がいい息子達を苦笑しながらレトが止める。

「そこまで急激に魔物達が現れているとなると、……闇の巫女の出現を疑わなければならないな」
「闇の巫女? って……あの……?」




 今より約三百年前の事だ。ある日、隣国ツァリアからの使者がヴァーロイスにやってきた。
 ヴァーロイスが光の王国ならば、ツァリアは闇の王国。天の扉を守るヴァーロイスと同じように、魔の扉に施された封印を守る国だった。
 だが、その封印は完璧なものではなかった。ツァリアでは、精霊の存在を全く信じていない為に、誰も魔法を使えないからだ。
 かつてはツァリアとて、ヴァーロイスと同じように精霊の加護を受けていた。が、魔の扉の影響なのか、それとも人の心の変化なのか、いつしか精霊の存在も、神の存在も否定してきた彼の国は、神々に見放され、いつもどんよりとした雲に覆われていた。

 事態を重く見た3代前のツァリア王は、当時のヴァーロイス王に願い出た。
 光の神殿に住む光の巫女達に、ツァリアで布教活動をしてもらえないかと。
 たった一人でもいい、神の存在を信じられれば、きっと暗雲も晴れるだろうと。

 ヴァーロイス王は快く承知した。早速、位の高い巫女達を数十人選び抜き、王直属の騎士隊を護衛につけて、ツァリアへと送り出した。
 布教活動は相当時間がかかるであろうと、誰もが覚悟していた。無論、ツァリアの民一人一人を説得して回らなければならないのだから、途方もない時間がかかるはずだった。
 だというのに、光の巫女達に付けた護衛達は、数日もしない内にヴァーロイスへと戻ってきた。曰く、光の巫女達は行方不明との事だった。
 国境を越え、ツァリアの王宮に着いた途端、忽然と姿が消えたと、彼らは告げた。

「そんなバカな事があるか!」
「しかし、本当の事です! 我らは嘘偽りなき騎士、陛下、我らをお疑いならば、陛下より賜りました剣にて命を捨てる覚悟!」

 すらり、と腰に差した、研ぎ澄まされたその剣を抜く騎士達の表情が、あまりにも真剣で。
 ヴァーロイス王は「解った」と呟くしかなかった。

「……ツァリアの国王殿は、この件、何と仰っている?」
「私にも解りませぬ、と……。そればかり、繰り返されております」

 その後、ツァリアの国王からは、光の巫女達をと再三の要請があった。
 だが、ヴァーロイス王は首を縦に振らなかった。行方不明になってしまった光の巫女達が戻らぬ限りは、絶対に派遣するわけにはいかないと。
 そして2年間、そのやり取りは続き、互いに平行線のまま、更に2年が経ち。
 事件は、起きた。
 ヴァーロイスの光の神殿で暮らしていたはずの、最高位の光の巫女が、忽然と姿を消したのだ。
 方々ほうぼうを探した。それこそ、ヴァーロイスの国中を全て。
 しかし、どれだけしらみつぶしに探しても、光の巫女の姿はどこにもなく。
 やがて彼女は、変わり果てた姿でヴァーロイス王の前に姿を現した。
 心も、身体も、全て闇に蝕まれ。
 魔物を導き、ヴァーロイスを破滅に追い込む、闇の巫女として。




 この昔話は、ヴァーロイスの子供達に、寝物語として語り継がれている。魔物達に怯えてはいても、遙か昔の歴史など、子供達にとっては夢物語だ。
 その場にいる誰もがその昔話を思い出し、顔をしかめる。

「あくまで可能性だ。現時点ではまだ何とも言えない」

 そもそも、闇の巫女なる者が実在するのかどうかも解らない。闇の巫女が現れたのは記録にしか残っていない三百年前の話だ。

「すまない、場を白けさせてしまったな。さぁ、そろそろお開きにするとしよう」

 パミラではないが、二日酔いで旅立つわけにもいかない。
 ディックは家族と共に自分の家に帰り、エイドも湯を浴びて早々とベッドに入った。



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