Mirage

オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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MIRAGE【2】 ~穏やかな時間~

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『大丈夫! 今日は上手くいきそうな気がする!』



 夢に魘されて、エイドは目を覚ました。見覚えのある天井が視界に入り、ホッと息をつく。ここが自室だと気付いたからだ。

「レイティア……」

 彼女が傍にいないだけ。それなのに、こんなに彼女を求めるのは……彼女を助けられなかった罪悪感からか、それとも────。
 3年経った今でも、鮮やかに思い起こせる、彼女の姿。
 あの頃よりも成長したエイドとは違い、記憶の中のレイティアはあの時のままだ。少し伸び始めた、肩よりも短い栗色の髪をうっとうしげにかき上げ、それでも、いつも楽しそうに翡翠色の瞳を輝かせていた少女。
 彼女は、エイドが属する騎士隊の、専属治療師だった。



「エイド・バークレイ。第2騎士隊へ配属とする」
「はい!」

 4年前、まだ13歳ながら騎士見習いとして王属騎士隊に配属されたエイド・バークレイと。

「レイティア・フェナージュ。第2騎士隊専属治療師、カジェリの補佐を」
「はい」

 幼い頃から光の女神に仕える巫女として育てられたレイティア・フェナージュ。
 2人は、同時期に騎士隊に配属となった、いわば同期だった。が、同期だから仲がいいのかと言われればそうでもなく……思春期に入ったばかりのこの2人は、当初はケンカばかりだった。
 ……もっぱら、エイドがレイティアを怒らせたのだが。

「あっ、動いちゃダメだってば!」
「こんな傷、大したことないって言ってるだろ! 邪魔するな!」
「その傷のどこが大したことない、なのよっ? 大体、そんな怪我したまま敵と斬り合ったって、のたれ死ぬだけよ!」
「何だと!? 俺の実力、良く知りもしないくせに!」
「どれだけ実力があったって、怪我してればその実力だって発揮出来ないでしょ、石頭っ!」
「お前には関係ない!」
「関係あるわよ、あなたがこの国を守るのなら、私はそんなあなた達を癒すのが仕事なの!」

 と、いった具合に、2人の口論は続き、何度も第2騎士隊隊長と専属治療師に宥められた事を思い出す。
 今ではもう、懐かしい記憶。切なげに笑うエイドは、今でも思う。
 あの火事さえなければ、彼女は今でも傍にいただろうかと。こんな風に隣で、安らかに眠って……。
 そこまで考えて、エイドは何故か毛布が半分しか掛かっていない事に気付いた。

「う、ん……」

 絶対に、エイドには出せない高い声。何だ? と思って隣を見れば。

「……っ!」

 エイドの動きが止まった。目を見開いて、口をパクパクと動かす。言いたい言葉が、出てこない。
 同じ毛布にくるまっていたのは、白磁のような白い肌と、対照的な烏の濡れ羽色の髪。桜色に染まった頬に、薔薇色の唇。肩を露出した寝間着を着て、ごろりと寝返りを打ったのは、エイドよりも幼い少女だった。
 しかも、その少女のことをエイドはよく知っていた。一瞬の間をおいて、エイドは少女に向かって思い切り叫んだ。

「パ……パミラ────ッ!」

 義理の妹の名を叫んで数分後。パシーンッという乾いた音が部屋中に響き渡った。




「うわっ、何お前、どうしたんだよそのほっぺた!」

 着替えを済ませて、家族がいるであろうリビングに顔を出す。真っ先にエイドに声を掛けてきたのは、親友でもあり、同じ騎士隊に所属する仲間でもあるディック・リアーズ。悠々と椅子に腰掛け、温かいスープを飲んでいる彼を見て、ちょっとした違和感に襲われた。

「ん? エイド? どうした?」
「……何でお前が俺ん家にいるんだよっ」
「そりゃ、ご近所さんにご挨拶?」
「違うだろ、お前絶対、母さんのスープが目当てだろ!」
「当たり~。だってこんな時ぐらいしか食べらんないし」

 のほほんと笑うディックの姿に、エイドはがくりと肩を落とす。王宮に程近いこのローニャの村では、年に数回、騎士隊入隊の為の試験が行われている。17歳になったエイドは、試験官補佐としてこの村に帰って来ていた。

「ついでに言うと、今食べてるので3杯目だがな」
「げっ、ランディルさん、それ言わないで下さいよ~っ」
「それ以上食うなっ、俺の分が無くなるだろ!」
義母かあさんがちゃんと多めに作ってくれてるよ、エイド」

 ディックの向かい側、何やらたくさんの紙をテーブルに広げている青年が、苦笑する。彼はエイドの義理の兄であり、パミラの実の兄だ。そして、王宮警備を主とする第1騎士隊の副長でもある。普段はこの国の王女の専属護衛を任されているが、先述した騎士入隊の試験官としてこの家に帰って来ていた。

 12年前、突如現れた魔物達の襲撃によって、ランディルとパミラがそれまで住んでいた村は壊滅した。エイドの父であるレトが焼け跡から助け出し、それからバークレイ家に引き取られてきたのだ。血の繋がりはなくても、エイドは彼を、実の兄だと思っている。

「それで? 何でそんな目に遭ったんだ? 弟よ」
「……パミラにやられた」
「は? パミラ? 何で?」

 相も変わらず鶏のスープ煮を口に運びながら、ディックが笑う。

「夜中に水を飲みに起きて、その後寝ぼけて俺のベッドに潜り込んだんだとさ。で、朝起きて驚いて声を上げたら、こーだ」

 右手で平手打ちを表現して、エイドは溜息をつく。

「ったく、何で俺が殴られなきゃならないんだよ? なぁ、パミラ!?」
「だからごめんなさいってば!」

 パタパタと走る黒髪の少女は、その手に、濡らして固く絞った白い布を持っていた。エイドの傍まで辿り着くと、裾が汚れるのも気にせずに床に膝をつく。

「冷やすね」
「……お前の魔法は要らないぞ」
「大丈夫! 今日は上手くいきそうな気がする!」
「気だけでどーにか出来るかっ」
「いーからいーから、ほらっ」

 彼女の手形が見事に残る頬に白い布が宛われる。そして、その布を抑えているパミラの手から、徐々に冷気が流れ込み始めた。
 魔法が発動する前兆。そこまでならまだいい。問題は、ここから……。

「水よ、すべての熱を奪い取れ」

 パミラが呟いた瞬間、頬に当てていた白い布が、ピシリピシリと音を立てる。急速に冷えていくのは、水分が凍っていく為だ。布だけを凍らせられるのならいいのに、パミラがやると。

「パミラ! 俺の頬まで凍らせる気かっ!」

 慌ててパミラが布から手を離せば、凍り付いた布はぴったりとエイドの頬に張り付いて落ちもしない。パミラの集中が途切れても、魔法効果は解除呪文を紡がない限り続くのだ。

「……あれぇ?」

 ことん、とパミラが首を傾げる。大抵の男はこの仕草を可愛いと思うらしいが、義理とはいえ妹に、そんな感情を抱いた事はない。

「可愛く首傾げてもダメ。早く取ってくれ、このままじゃ低温ヤケド……ってお前、その顔、まさか、解呪文忘れたとか言わないよな?」
「……えへっ」
「誤魔化すなっ! ……悪い、ディック頼む」
「ほいほい。小さき炎、凍えし水をあるべき姿に」

 ポッ、とディックの指先から小さな炎が生まれる。赤く燃えるその炎はエイドの頬に張り付いた布の傍まですーっと移動し、徐々に凍ったそれを溶かしていった。

「おっと」

 冷たい感覚が消え、布がぽとりと落ちる。それを手で受け止めて、魔法が失敗してシュンとしているパミラの手に乗せた。

「……大丈夫だから、そんなに落ち込むな」
「だって……せっかく試験に合格出来そうなのに、失敗ばっかり……。今日は実技なんでしょう? しかも試験官のお兄ちゃん相手に!」

 水の魔法を扱えるパミラは、魔法師として騎士団への入隊を希望していた。女性の魔法師は珍しくないし、剣を扱う女性も少なくない。

「俺が試験官だと問題があるのか、パミラ?」
「だって絶対おまけなんかしてくれないもん!」

 むーっ、と両頬をリスのように膨らませるパミラに、ランディルは「あのな」と呆れたように息を吐いた。

「おまけで合格なんてさせるか。ただでさえ魔物が蔓延ってるっていうのに」

 ヴァーロイスに入り込んでくる魔物の数が、今年に入ってから急激に増えている。霧のように実態がないものから、動物を模したもの、人型の魔物もいる。それなりの実力がなければ逆に魔物に殺されてしまうのだ。

「ま、いざという時にちゃんと魔法が発動すればいいんだからさ」

 あっけらかんと言うなぁ! と、パミラがディックに牙を剥いたけれど、誰も彼もがその様子を苦笑して見ているだけだった。


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