Mirage

オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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MIRAGE【1】 ~生きて~

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 『夢はいつも、業火から始まる────……』



 夢はいつも、業火から始まる。見渡す限り火の海で、木造の宿舎が焼ける焦げくさいにおいが鼻につく。

「レイティア! どこにいる!?」

 彼は、彼女の名を呼んだ。出会ってから今まで、ずっと隣にいた少女。
 喧嘩もして、一緒に笑って、一緒に泣いて、傷ついて、傷つけられて。それでも、ずっと共に歩んできた少女の名を。

「レイティア! 応えろ!」

 何度も、何度も呼ぶけれど、彼女の清廉な声は聞こえない。自力で脱出したか、火の海に既に飲まれてしまったか……。

「エイド、ダメだ! どこにもレイティアの姿はない!」

 仲間の声が聞こえたけれど、それでも彼は諦めなかった。まだ火の手が少ない、二階の部屋を、一つ一つ開いていく。
 白煙が彼を襲う。姿勢を低くしてやり過ごすも間に合わず、まともに煙を吸ってしまった。

「っ……! げほっ」

 だんっ、と壁に手を付いて、激しく咳き込む。喉が痛い。けれど……こんな白煙と業火の中で、彼女が一人怖がっているかも知れないと思うと、居てもたってもいられなくて、自分を奮い立たせる。

「……レイティア……!」

 痛めた喉からは、掠れた声しか発せない。

「エイド! 無茶するな、戻れ!」

 戻らない。だって、彼女を守ると約束した。怪我を治してくれる代わりに、お前は俺が守るからと。

『それなら私も、あなたを守る。どんな酷い怪我だって、絶対治せるように頑張る!』

 そう、笑った彼女と。
 約束、したのだ……。

 頭がぼうっとする。酸素が足りなくなってきたらしい。これだけの業火の中、動き回れば当然だが。
 ふっ、と身体が頽れる。意識よりも先に、身体に負担が来たのだろう。

「……を……して……」

 どこかから、微かに、歌が聞こえた。こんな時だというのに、聞く者を眠りに誘うような、優しく、温かな歌声が。

───悲しみをすべて溶かして 幸せを心に満たして
    私のすべてを包み込んで 夕焼けのミラージュ────

 ふっ、と目の前に彼女が現れた。
 否、それは彼女ではなく……彼女の姿を象った、白煙の幻だった。何故なら、彼女の体の向こうにある壁の紋様が、朧気ながらも見えているから。

「レイティア……!」

 彼よりも柔らかな、栗色の髪。翡翠のような瞳。彼と同い年の、少女の姿。

「逃げて……エイド……」
「え?」

 幻が、言葉を発した。微かな歌声と共に、聞き慣れた、彼女の声が。

「逃げて……。あなたは、生きて……」
「レイティア!」

 お前も、と伸ばした手は幻を掻き消しただけだった。

「エイド!」

 仲間の声が聞こえる。振り向きたいのに、振り向けない。そんな体力すら、業火の熱気に奪われてしまった。
 歌は、途切れることなく、微かに続いている……。




「……起きたか?」

 目を開けて、最初に飛び込んできたのは、仲間でもあり、親友でもある少年だった。その隣には、彼の身体に手を翳して、傷を癒しているのであろう少女。

「ここは……」
「第1騎士隊の宿舎。俺達の第2宿舎は……」

 言い辛そうに顔を背ける親友は、一度目を伏せて、ギュッと閉じた後に、彼を真っ直ぐに見た。

「俺達の宿舎は、全焼だ。何もかも、全て……あの業火が焼き尽くした」
「っ、レイティアは!?」
「ダメですっ! まだ起きちゃっ……」

 彼の身体に手を翳していた少女が、慌てて彼を止める。だが彼には、火傷の痛みなどどうでも良かった。

「レイティアは、行方不明だ」
「行方不明……?」
「先に言っておく、焼け跡からは何も見つかっていない」
「え?」
「人の姿らしきものは何一つ見つかっていないんだ。骨も、装飾品も……。レイティア以外の人間は、全て生存を確認してる。俺達の知らない内に脱出したのかも知れない」
「ホントか!?」

 きっとあの業火の中で、助けを求めていたに違いない彼女を、この手で救い出す事は出来なかったけれど。それでも、生きてさえいてくれるなら……。
 単純に喜んだ彼を、親友の言葉が遮った。

「エイド。レイティアには……放火の疑いがかかってる」
「放火……?」

 放火は大罪。掴まれば、確実に死刑は免れない。

「レイティアが……? まさか」
「俺だってまさかと思うよ。でも……レイティアの姿がない事が何よりの証拠だって、大人達は思ってる。それに……火の元は、レイティアの部屋があった場所じゃないかって」
「違う! レイティアは、そんな……!」

 彼女がそんな事をするはずがない。放火をする理由なんて無いはずだ。けれど。

『逃げて……エイド……』

 あの時の、彼女の幻が告げた言葉。

『逃げて……。あなたは、生きて……』

 逃げて、と彼女は言った。生きて、とも。それは、彼女が火を放ったから……?

「……見つけよう。レイティアを」
「エイド?」
「レイティアを見つけ出せば、全部解る事だ。あいつは光の巫女、犯罪に手を染めるわけがないんだから」

 包帯だらけの腕を持ち上げて、目の前に翳す。
 決意を固めるように、彼は、ぎゅっと掌を握った。




 だが、彼は彼女を捜し出せなかった。1年、2年経っても、彼女の消息は全く掴めずに。
 もう無理かと何度も諦めかけたけれど、諦めきれずに立ち上がる事を繰り返し。
 そして、彼女が彼の傍から居なくなって、3年が経とうとしていた。


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