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執事様のお気に入り 甘いハロウィン【6】 (最終話)

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神澤別荘編 後編



「……伯王さん」
「楠さん……?」

 一人ベランダに出て、夜風に当たっている伯王に、静かにかけられた声。

「どうか、しましたか……?」
「氷村さんは……何も、知らないのですか……? 伯王さんに許された時間が、あと僅かである、と……」

 考えないようにしていたのに。真琴の言葉で、思考の隅に追いやっていた感情が甦ってくる。

「碧織衣さんが……心配、しておられます」
「姉さんが?」

『あの子は……我侭を言っても良いのに、言わないの。あなたなら解るでしょう? このままではいつか……神澤の名に押し潰されてしまいそうで』

「最後に私が着替えた時に……そう、仰ってました。だから、今回のパーティーも……ほんの少しでも、気晴らしになるのなら、と」

 また、いつもの気まぐれだと思っていた。姉と弟がまた妙な事を思いついたのだと。
 けれどそれが、伯王の為だと知ってしまった今は……零れる笑みを、我慢する事は出来なかった。

「私は……伯王さんが神澤の名に負けるとは思いません。ですが、……時には、休む事も必要ですから」

 そう言って、真琴はふっ、と後ろを振り返った。そしてそこには、メイド服を着たままの良の姿があった。

「楠さん、話って……あれ、伯王?」
「それでは」
「え、あれ? 楠さん?」

 ぺこり、と頭を下げていった彼女が、どうやら良を呼んでくれたらしい。楽しく談笑している彼女に声をかけずにベランダに出てきた自分を、真琴は気遣ってくれたのか。

(……助けられているな、俺は……)

 姉にも、弟にも。庵に隼斗、いろんな人に助けられている。

「楠さんのお話って、何だったのかなぁ? 伯王、聞いてる?」
「いや……」
「そっか。いいや、後で聞いてみよっと」

 自然に、彼女が隣に立つ。左側が、優しい雰囲気に包まれる。自分が背負っているたくさんの影を、良が蹴散らしてくれているような気さえする。

「……やっぱり美味かったな、おまえのカボチャケーキ。理皇も食べられたし」

 高校生組と碧織衣が穏やかに談笑している中、理皇は、ソファの上で、碧織衣の膝を枕にしてすやすやと眠っている。

「良かった。カボチャ自体が甘いから、甘すぎないようにはしたつもりだったんだけど。理皇くん、お代わりして食べてくれてたね」

 良が作ったカボチャケーキは好評だった。表面に粉砂糖が乗っていて、理皇はメインの料理をそっちのけでケーキを食べていた程だ。

「そーだ。ね、伯王、Trick or Treat!」
「何だいきなり? というか、あれだけ食べておいてまだ菓子をねだるかお前は」

 良は、ほぼ全ての料理を食べ尽くしていたはずだ。メイン料理も、デザートも。それでもまだその華奢な体に入るのかと、伯王は半ば呆れた。

「あははっ、違うよ、言ってみただけ。お菓子くれなきゃいたずらしちゃうぞって、子供の特権だもん」
「……別に、良いけどな。お前になら、いたずらされても」
「えっ? いいのっ? って……どんないたずらすればいいのか思いつかないよ……」

 本当にただ言ってみただけだったらしい。伯王は苦笑して、そしてふいにいたずら顔で笑った。

「だったら」
「え?」
「俺がいたずらするぞ?」
「え……っ、伯王っ?」

 良の答えを待たずに、三つ編みに編んだ長い髪に触れる。髪ゴムを取れば、さらさらと三つ編みが解けていく。

「何、してるの……?」
「だから、いたずら」

 レースのヘアバンドを固定していたヘアピンを抜き取り、上半分の髪をひとまとめにして、右耳の上で三つ編みにする。わざと緩く編んでボリュームを出し、それをくるくると巻いてピンで留めれば、お団子の完成だ。

「よし、出来た」
「は、伯王……? これ、いたずらじゃないと思うよ……?」
「最近、お前の髪をいじる機会もなかったからな。俺にとってはいたずらなんだよ」

 我ながら上出来だ。一人満足していると、「じゃ、私もっ」と突然手を掴まれた。

「な……っ、氷村!?」
「いたずらのお返しっ。伯王が嫌だって言うまで、ずーっと手を繋いでるからっ。そしたらいたずら出来ないでしょ?」

 ……彼女は、絶対に解っていない。伯王が嫌だなんて言うはずがないのだ。
 手を離してどこかに行かれてしまう不安と戦うくらいなら、いつか離れなければならない淋しさを抱えるくらいなら、このままずっと、手を繋いでいられた方が良いに決まっている。

「そんないたずらなら、喜んでお聞きしますよ、お嬢様」

 ふっ、と笑って良の手を握り返す。そこでようやく「ずっと手を繋いでいる」の意味を自分でも理解したらしい良が、暗がりでも解る程顔を赤くしたけれど。

「俺が嫌だって言うまで、離さないんだろ?」

 物理的にも時間的にも、「ずっと」が無理な事は解っている。それでも、彼女といる時が一番楽しい時間である事に変わりはないから。
 そのまま長い間、伯王は良の手を掴んだまま離さなかった。


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