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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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桜涙【29】 素直

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『我慢する事だけが、大人じゃない』



「さて朱里。言い訳があるなら聞くけど?」

 どかっ、とパイプ椅子に腰掛けた一海が、にっこりと笑って告げた。朱里が上半身を起こしたベッドには、京佳がこれまたにっこりと笑って座っている。

(こ、怖い……)

 笑顔なのに怖い。身を竦ませて、朱里は2人の視線から逃れようとする。

「い、言い訳って……」
「色々あるだろ。薬を飲まなかった言い訳、あの時俺の制止も聞かずに無茶をした言い訳、それから」
「も、もういいからっ。ごめんなさいっ」

 指折り数えようとする一海の言葉を遮って、こうなったら謝ったが勝ちとばかりに朱里は叫んだ。が、一海はじろりと疑いの眼差しを向けて来る。

「ほんっとーにそう思ってんだろーな?」
「え、っと……」

 素直に頷けば良かったのに、一海の迫力に押されて頷くのを躊躇った途端、一海が深く深く溜め息を吐いた。

「お前なぁっ……! 謝りゃいいってもんじゃないんだぞ!? どんだけ心配したと思ってやがる、このバカ!!」
「一海、馬鹿は言いすぎだと思うわよ?」
「何度でも言ってやるっ」
「はいはい、とりあえず落ち着きなさいな」

 京佳の言葉に、一海の動きがはた、と止まった。入院していて良かったかも知れない。これが自宅だったら、まだまだ一海の怒鳴り声は続いていただろう。

「朱里」
「……はい」

 京佳に真っ直ぐに見つめられて、朱里は居心地が悪くなったけれど、それでもその視線を受け止めた。

「どうして一海が怒ってるのか、ちゃんと理解わかってるわよね?」

 解ってる、と思う。一海はいつだって朱里を心配してくれていた。それだけで満足していたはずだった。だけど、それでも……藍里や竜城に受け入れて欲しかった。
 何て、自分勝手な想いを抱いていたのだろうかと思う。

「心配かけて、ごめんなさい」

 ぺこり、と小さく頭を下げる。と、大げさな程の溜め息が聞こえた。

「……っとに、お前は……。昔っから我慢ばっかして」
「昔?」

 子供の頃の事で覚えている事は、余り無い。特に一海と京佳に関する事で覚えているのは、能力のコントロール方法を学んでいた時だけだ。

「教えてやろーか。俺がお前を怖がらない理由」

 にっ、と口の端をつり上げて、悪戯好きの子供のように一海が笑った。

「お前さ、一度だけ泣いたんだよ。俺の前で」
「……え?」




 それは、朱里が能力に目覚めたばかりの頃。京佳から祖母の書き残したノートを受け取り、まだ到底理解出来るはずもない事を、京佳に噛み砕いて教えて貰っていた時の事だ。
 子供には、一時間でも辛いだろうはずの集中。それを朱里は愚痴一つ言わずに淡々とこなしていた。
 ぱたん、と扉を閉めて戻って来た朱里の顔は、憔悴しきっていて、一海はこのまま朱里が倒れてしまうのではないかと思った。

『朱里? 大丈夫?』

 駆け寄って、その小さな瞳に視線を合わせる。と、その瞳からぽろりと涙が零れた。

『あ、朱里っ?』
『……っ、ど、して……どうして、うまく、いかないのかなぁ……っ』

 聞けば、心の集中が上手くいかないのだという。何度も何度も練習しているのにと。
 当然だ。成長しているのならば制御のしようもあるだろうけれど、朱里はまだ、たったの5歳なのだから。
 ぽろぽろと、静かに涙を零す朱里。嗚咽を漏らさないようにきつく唇を噛んで、それ以上泣き出さないように、小さな掌を力一杯握りしめて。
 その時、一海は思った。
 この少女のどこが、化け物だと言うのだろう?
 零れ落ちる涙は透明で。
 泣き声さえ殺す事を覚えてしまった、この幼い少女の、どこが……。

『……泣いていいよ、朱里』

 ぽんぽん、と小さな頭を撫でると、涙に濡れた瞳が驚きに見開かれ、一海を見上げた。

『朱里は頑張ってる。他の誰が解らなくても、俺が知ってるから』
『……っ!』

 きゅっ、と一海の服を握る朱里が俯く。自分から人に触れなくなってしまった朱里は、こんな時でさえ、人の温もりを求めない。
 だから一海は、その小さな身体を抱きしめた……。




「その後、お前は大声で泣き出してさ」
「びっくりした私が、一海を怒鳴りつけたのよねぇ」

 曰く、てっきり一海が朱里を泣かせたのだと思ったらしい。まぁ、間違いではないが。
 その話を聞いても、朱里は全く泣いた事を覚えていないけれど、それでも、その時朱里を泣かせてくれた一海には感謝したい。
 自分の努力を誰かに認めて貰える事は、嬉しい事だから。

「朱里」
「はい」

 真剣な声で名を呼ぶ一海に視線を向けると、彼はフッと相好を崩した。

「我慢する事だけが、大人じゃないんだからな? 壊れる前に……自分自身を追い込んでしまう前に、泣く事も覚えろ」

 素直に泣いて、笑って、怒って。まるで、藍里のような。
 だけど、素直に泣く事よりも、我慢する事の方が……何もかもを諦める事の方が簡単だったから。

「藍里みたいになれとは言わない。これから生きていけば、否が応でも嘘は増える。人の心を読むお前には、多分辛い事の方が多い」

 不意打ちで触れられた時の言葉が、全て朱里に対して優しいわけではない。それは今までの経験で解っているつもりだったけれど。
 それでも一海が敢えて口にするのは、社会人となった彼からの助言か。

「一海兄さん……」
「……傷付いたら泣けばいい。辛い時は口にすればいい。俺も、母さんも、いつでもお前の味方だから」

 竜城も、同じ事を言ってくれた。受け止めるから、と……。
 それが例え今だけの感情だとしても、嬉しかった。

「……ありがと……」

 小さく微笑むと、一海の掌が伸びてきて、くしゃりと頭を撫でた。

「退院したら、覚悟しとけよ? お前が休んでる間の課題、たっぷり出してやるから」
「えっ」
「じゃあな」

 最後にとんでもない一言を残して、一海が出て行く。京佳も、「また来るからね」と一言を残して病室を去った。
 一人残された朱里は、一海が出すであろう課題の量を想像して、頭を抱えたのだった。


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