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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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夜明けの光【3】 隠匿

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『……私が何も知らずに、そんな事をすると思いますか?』



「王宮の警備兵だ! フレイル様の足跡を辿っている、扉を開けろ!」

 命令に慣れたその口調は、扉を開けざるを得ない事を示していた。

「ちっ……」
「フレイル様、二階へ。祖父の部屋から、隠し部屋へと移れます。身をお隠し下さい」
「だが、レサリーア!」
「私は大丈夫です。どうか、私を信じて下さい」

 彼女を信じていないわけではない。それでもフレイルが躊躇ったのは、レサリーアが要らぬ傷を負うかも知れぬということに対してだ。
 フレイルが迷っている間に、教会の扉は壊れそうな程の軋む音を立てて、ものすごい力で叩かれている。迷っている暇はなかった。

「……すまない」

 一言だけ呟いて、フレイルは身を翻した。階段を上るだけでも一苦労なのだ。どうしても時間がかかる。

「おい! 誰もいないのか!?」
「あ、はい! お待ち下さい」

 フレイルが階段を上りきったのを確認し、レサリーアはようやく足を進めた。ドアを開ける前に、裏庭へと続く木製の扉を開け放つ。
 そして、教会の重い扉を開いた途端……。ザン! とすごい勢いで銀色に光る槍を突きつけられた。

「……どういう事ですか」
「女。何故すぐに出て来ない」
「裏庭で洗濯物を干していたものですから……叩かれているのがこの扉だとは思いもしなかったので」

 両側を兵士に囲まれていても、レサリーアは怯まなかった。隊長らしき、中央の男の顔色が変わるのが解った。そしてその隊長に、レサリーアは見覚えがあった。

「あら……お久しぶりですね、ゾルゲット」

 かつてはディビッド公爵家の警備隊長だったゾルゲットは、レサリーアの顔を見て、驚愕に目を見開いた。

「レサリーア、様……! 何故、何故このような所に!」
「父と母が処刑され……その後、私は祖父と共に、この教会に身を寄せたのです。……この槍を下ろしなさい」

 視線をはずさずに、レサリーアは厳かに告げる。彼が、レサリーアに逆らえないことを知っているから。彼は捨て子で、それを公爵家が拾って、育てた。レサリーアにとっては兄のような存在だった。

「……下ろせ。この方は、かつての公爵家令嬢だ」

 カシャン……とわずかに音を立てて銀槍が下ろされた。

「レサリーア様もご存じでしょう。フレイル王子が、王を殺して逃走しました。未だに足跡つかめず、逃亡中ですが……申し訳ありませんが、少々内部を確認させていただいてもよろしいでしょうか」
「ええ、どうぞ」

 祖父がフレイルを匿っているはずだ。隠し部屋は、そう簡単には見つからない。ならば、隅々まで確認してもらおう。

「やれ」

 ゾルゲットの命令で、六人の兵士達が無口なまま足を動かし、教会内部へと入り込む。

「……レサリーア様」
「何ですか?」
「……フレイル様は……もしかして、こちらにいらっしゃるのですか」

 ゾルゲットの、半ば確信めいた言葉に、レサリーアは何も答えなかった。否、言葉で答えることは出来なかった。
 レサリーアは黙ったまま、ゾルゲットの瞳を見つめた。静かに、何の揺らぎもなく。
 沈黙は肯定。それだけで、ゾルゲットはすべてを承諾してくれた。

「……やはり……」

 兵士達が全員二階へと上がったのを確認して、ゾルゲットは小声でレサリーアの耳に囁く。

「解っておられるのですか、レサリーア様」
「……私が何も知らずに、そんな事をすると思いますか?」
「そうですね。……解りました」

 嘆息したゾルゲットに、レサリーアは小さい声で、けれど多大なる感謝を込めて、「ありがとう」と告げた。

 一方、隠れているフレイルは、兵士達の足音を、息を潜めて聞いていた。

「ご老人。この部屋に、他に出入り口はないのか?」
「ありません。何しろ古い教会ですので……」
「確認させてもらう」

 絵画を一つずつ取り外し、カーテンの裏を覗き込み、床をくまなく見つめる。
 フレイルは、ベッドの下の隠し部屋にいた。端から見れば、ただの板が張り付けられているように見える上、隠し部屋に入ってしまえば、つっかえ棒で誤魔化すことが出来る。
 隠し部屋に隠れて、まだ五分ほどしか経っていないはずなのに、暗闇の中にいると、時間の感覚が無くなっていく。すでに、一時間は経過したような錯覚だ。
 一人の兵士が、ベッドの下へと潜り込んできたらしい。フレイルの頭上の板が、ぎしぎしと軋む。
 一生懸命息を潜め、身じろぎさえもせずに、フレイルは兵士が通り過ぎるのを待った。
 こんこん、と床板を叩き、何処か動きはしないかと、掌で押さえ込んだり、ずらそうとしたりする。つっかえ棒のおかげで、フレイルの頭上の板は、ぴくりとも動かない。

「セパ様」
「おや……ゾルゲット。久しぶりだな」

 セパの知り合いなのだろう。気安くセパが声をかける。

「セパ様も、お元気そうで。お前達、何か見つかったか?」

 男の声が、部屋中を探している兵士達の身体を打つ。蔑みを込めたような声だ。兵士の一人が、びくびくしながら立ち上がった。

「いえ、何も」
「そうか。ではここは終わりだ。他の家を探すぞ」
「はい」

 兵士達が次々に部屋から出ていく足音がする。

「セパ様……」
「すまんな、ゾルゲット。だが、あのお方を殺させるわけにはいかぬ」

 話の内容からして、きっとゾルゲットと呼ばれた男は、自分がここにいることを知ったのだろう。レサリーアが話したとは思えないけれど。

「解っております。……ティル様も、アーシャ様もお元気でいらっしゃいます。どうか、ご心配なされませぬよう……」

 後半の言葉は、フレイルに向かっての言葉だろう。感謝の意を込めて、フレイルは一度だけ床板を叩いた。
 ぺこり、とゾルゲットが礼をして、その場を去った。ゾルゲットと兵士達の足音が消え、教会の門扉が閉ざされる音を聞いた時、セパがフレイルの名を呼んだ。

「フレイル様」

 フレイルは、つっかえ棒をはずし、床板を押し上げた。ベッドの下から這い出て、服に付いた埃を払う。が、腕が上手く動かなくて、見かねたセパが埃を取り払ってくれた。

「……今のは……お前の知り合いか。セパ」
「はい。私が拾って育てた子です。決して我らを裏切る真似はいたしませぬ。何しろ、逆らえぬように教育いたしましたので」

 ふぉっふぉっふぉっ、と口元では笑い、目元はにんまりと笑うセパを見て、一体どういう教育をしたんだと、フレイルは呆れた。

「おや、お聞かせいたしましょうか? まず悪戯をしたら倉庫に二日ばかり、わがままを言った場合は我が家の庭掃除、それから……」
「……言わんでいい」
「冗談ですよ、フレイル様。いくら拾い子とはいえ、そんな事はしません」

 それを聞いて、フレイルがそっと胸を撫で下ろしたのは言うまでもない。

「さあ、まだ傷も完全に治ったわけではありません。どうぞ、横になって下さい」

 セパに支えられ、フレイルはベッドに横になった。セパが一礼し、部屋を去っていく。
 古ぼけた天井を見つめ、フレイルは早く傷を治すことだけを考えた。
 いつまでも、ここにはいられない。
 早く国外へと出なければ……。

「どっちにしろ……無駄か」

 父を殺したのだ。何処へ行っても、きっとその話題で持ちきりだろう。これ以上の騒ぎが起きない限り。
 父を殺した直後、自分も死ねば良かったのかも知れない。けれど、生きる事が、父に対する贖いだと思ったから……。




「何をしているの! 早くフレイルを探して殺しなさい! 我が夫を殺した罪、その血で以て贖わせなければ気が済まないわ!!」

 王宮の中で、今は女王となった元王妃が、玉座で喚いていた。

「いつかこうなると思っていたのよ! 薄汚い雌豚が産んだ子供ですもの、必ず反旗を翻すと私は申し上げたのに!」
「王妃様、落ち着いて下さい」
「これが落ち着いていられますか! 一刻も早く、あの子の首を見なければ、次に殺されるのは私よ! ……いいえ……ティルかも知れない、私の可愛いアーシャかも知れない……っ」

 王妃は、王が死んだ事によって、半狂乱になっていた。

「街の人間を総動員しても構わないわ、早くフレイルを見つけ、殺しなさい! 首を持ってきた者には、一生を暮らせるだけの金を渡すわ!」

 『サキュリア』では、王が絶対の権力を持つ。指一本で、何十、何百の人間を殺せる。それが例え女王であっても、それは変わらない。
 王宮の人間も、皆甘い蜜を吸ってきた者達ばかりだ。だからこそ、女王の命令をいとも簡単に実行する。そして……王国の民達は、フレイルを探す事に躍起になるだろう。
 今までの生活から抜け出せるのならば、人一人ぐらい殺しても構わない。ましてやそれが、犯罪者であるならば。と。
 その体制を、ティルとフレイル、アーシャは忌み嫌っていた。

 そして、城下に新たな命令が為された。フレイルを見つけ次第、殺せと。その首を持ってきた者とその家族には、多大なる報奨金を与える事を。




「そうか」

 新たな命令を仕入れたセパは、未だ傷の癒えぬフレイルの元を訪れていた。ベッドの上に座り、レサリーアが新しい包帯を腕に巻いている。
 フレイルの抹殺命令。それを聞いたフレイルは、何とも言えずに息を吐いた。

「それが当然だろう。いくら民に疎まれていたとはいえ、父を殺したのは俺だ」
「フレイル様……」
「傷も、大分いい。そろそろ国外へ逃げられる」
「いけません! まだ完全に治ったわけでは……」
「だが、これ以上お前達に迷惑はかけられない。せっかく王宮とは関係なく、幸せに暮らしていたお前達の生活を……俺個人のわがままで、壊すわけにはいかない」

 ここでこうして傷を癒しているだけでも、彼らの身に危険は迫る。

「……フレイル様。街へ、出てみませんか?」

 静かに、微笑みを湛えたレサリーアがフレイルに向かって言った。

「レサリーア?」
「雨が……降って参りました」

 窓にかけられている薄いカーテンを、レサリーアは開いた。外は、細かい雨が降り続いている。

「出かけましょう?」

 にこっ、と笑いかけられて、フレイルは思わず頷いていた。

「ああ……」





「お兄様! お母様が、また……!」

 血相を変えて飛び込んできた妹姫に、ティルは落ち着くように告げた。

「落ち着くんだアーシャ、今度は何があった!?」
「フレイル兄様を殺し、その首を持ってきた者には報奨金を与えると……。早く、フレイル兄様にこの事をお伝えしなければ……!」
「大丈夫、大丈夫だアーシャ。フレイルにはセパが付いている。レサリーアも」
「けれど、レサリーアとて普通の少女なんです!」
「解っている。だからこそ、王宮直属の兵も彼女を殺せない」

 長兄の言葉に、アーシャはハッとした。

「計算……した上で、セパ様に鳩を飛ばしたのですか……」
「ああ。レサリーアを利用する事になって、済まないと思う。だが、フレイルには生き延びて欲しい。生き延びて……どこか小さな街でもいい。静かに、幸せに暮らして欲しいんだ」

 ただでさえ、この王宮の中で、フレイルと直接関わろうとする者はいなかった。
 妾腹の子だと馬鹿にされ、何度言われ無き暴力を受けてきた事か。

「アーシャ、お前はここにいなさい。俺は、母上と話をしてくる」
「お兄様……」
「大丈夫。俺はすぐに戻るよ。アーシャ、お前にそんな顔をさせたくないからね」

 一度だけ頭を撫でて、ティルは部屋を出て行った。

「……けれど、お兄様……。いざとなれば、私が……」

 呟くような声は、開け放たれていた窓から吹き込む風にさらわれた。




「母上! フレイルを殺すとはどういう事です!」

 誰かが知らせたのだろう。ティルの顔を見た途端に、女王の顔が醜く歪んだ。

「言葉通りです。あんな子を庇う事はないわ、あなた達とは血が違うのだから」
「血が違う!? フレイルは私の弟です! アーシャの兄です! 半分とは言え、確かに我らは繋がっている!」
「黙りなさい! 父を殺した仇なのよ、憎くはないの!?」

 玉座へと伸びる赤い絨毯の上を、ティルは歩いてくる。毅然とした態度のまま、真っ直ぐに前を向いて。

「憎いのはこの国だ! 何故誰も父に反対しなかった? 何故母上の言うままにするんだ!?」
「ティル!」
「……母上は、この国の行く末の事など、考えてらっしゃらないのですね」
「何を言うの、ティル!」
「違うと言えるのですか?」

 静かに、水面を映したような愛息子の瞳に見つめられて、女王はぐっと喉を詰まらせた。

「母上が考えているのは、いかに己の欲望を満たせるか……ではないのですか」

 あくまでも静かに告げるティルに、広間に集まった全ての人からの視線が集まる。
 大臣も、衛兵も、王宮で働く限り、贅沢な暮らしが出来る。反対に、城下は貧困に嘆いていく事になるのだ。

「母上。俺はフレイルを守ります。どんな事があっても」

 例え、母に殺される事になっても。ティルの瞳は、それを雄弁に物語っていた。
 静まりかえった広間を、ティルは静かに出て行った。


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